仕事が来た
ジャカに稽古をつけてやっていたストールは、
少し嫌そうな顔をしていた。
キーンに戦闘においても前向きさは必要であると説かれ、
レッドハンドのメンバーもそれに同意したことを受けて
ジャカは恐怖を抱きながらも自らを鼓舞し、
できるだけ前向きな精神状態を保とうと心掛けた。
その結果、
「…よ~し、いける、いけるよ、ジャカ…
僕はやれるよ~、やればできるよ。
信じるんだジャカ、自分を信じるんだよ」
小声でぶつぶつと言いながら相手と向き合った。
が、いざ相手が攻撃に出ると
「うわぁぁぁぁ!
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
来るな来るなぁぁぁぁ!!」
などと絶叫しながら猛烈な勢いで斬りかかるのである。
「変な意味でやりにくい奴になったな…」
「泣く子も黙るレッドハンドにそう言わしめるとなれば、
大変な誉め言葉だな」
腕を組みながら眺めていたセファーに、オータはにやりと笑った。
実際、セファーらにはまだまだ太刀打ちできないだろうが、
今のジャカと戦えばオータやキーンも簡単な勝負にはならないだろう。
ここに来る以前ならばルルメクを持たないジャカなどは一蹴できたはずだが、
彼は生来の自分を追い込みやすい性格も手伝ってか訓練に励み、
一同で最も弱かった分、最も大きく成長を遂げる結果になった。
恐怖に身を任せた斬撃が思いの外鋭いのは、
ジャカが実感できた理由がある。
「戦ってくれていたのはルルメクだけど、
振るっていたのは僕自身の腕だから…!」
思いも寄らぬことだったが、ルルメクの太刀筋を身体が覚えていたらしい。
一応戦場に出ていたことに加え、一応剣を振るっていたことが
自分の技を完成させる助けになっているようだった。
そして、ジャカは少々不気味な剣士として
己の力で戦いに出られるところまで来ることができた。
「みんな、喜べ!
ようやく来たぜ、条件が良くて人々の役にも立つ仕事だ」
皆が一息ついている場に、ジェサリアが大声で言いながらやって来た。
もはや忘れかけていたが、彼はジャカたちが実戦経験を積むために
同行できる仕事を選定しようとしてくれていたのである。
だからなのかしばらくレッドハンドに動きはなかったが、
いよいよかとジャカは緊張した。
「しかもかなり大口だぞ!
びっくりだ。
これが噂に聞くアイスの金運ってやつか?」
「間違いなくそうでしょう!
さすがは師匠です。
私にはいつそんな金運が身に付くのでしょうか?
待ち遠しいです!」
「執着しすぎなければ、自ずとお金も巡って来ることでしょう。
信じることですね」
にっこりと笑うアイスレアだが、ジルドラにそれは無理だと
聞いていた全員が思った。
「それで、仕事の内容は?
早く教えてよ、リーダー」
「おう、そうだったな。
じゃあ、家の中で話すか」
「早く教えろって言ったじゃん。
聞いてなかったの?
今すぐ話せっつーの」
「…お前は年々口が悪くなるな、ランカーナ…」
ジェサリアがぼやくと、ロズウェルが口元に手を当てて笑った。
「でも、そこがまたかわいいんでしょ?
ジェサリアさん!」
「…俺、一回もそんな風に思ったことない。
ちゃんと敬ってほしい」
「何回話の腰を折るんだよアンタら!
二度と立てなくなるよ、そんなに腰折られたら!
何か韻を踏んだみたいになった。
さすがはウィルスター一の伊達男、お洒落!」
キーンが、真顔になったり得意気になったりしている。
相変わらず、彼はせっかちである。
ジェサリアも、そろそろ本題に入ることにした。
「現場は北東にある街、シュテシアだ。
近々あそこで展示会が開かれることは知っているな?
今年は特に注目される若いのが二人いる。
彼らを強引に手に入れようとする動きがあることを掴んだ
街の守備隊長が警備に加わってほしいと依頼してきた。
軍に気を遣ってのことか、
街の長が表立って依頼するのは難しかったのかもな。
結果的にはあまり変わらん気もするが…」
「その二人のことは聞いたことがある!
軍も相当欲しがってるって。
雑誌でも見たし」
無駄に大声でロズウェルが言ったとおりマスコミの注目度も高く、
ロッジの中に場所を移しテレビを見てみるとちょうどその話題を
取り上げていた。
一人はがっしりとした長身の上にかなりの美形で、
容姿のみならず表情や立ち居振る舞いにも華のある少年。
もう一人は少女で、すらりと背が高いもののうつむきがちで、
たっぷりとしたダークブロンドの髪がかかり顔がよく見えない。
が、質問に答えるために前を向くと可憐さと美しさを備えていることが
明らかになった。
身体つきも顔立ちも十二分に人を惹きつけるほどなのに、
態度にも表情にも全く自信が見られない。
その二人に、画面の中で童顔の女性レポーターが
マイクを向けようとしている。
『皆さん、お待たせしました!
私です。
ティエラ・ルシアの、ウィルスターのスター発見!
以前にもご出演いただきましたが、
展示会が迫っているということで新時代のスターたるお二人に
再度コメントをいただこうと思います。
まずは、底知れぬ剣才に加え多彩な魔導剣を操る第二の神童!
ガルソウル・ズィフィード君です。
いかがでしょう、やはり軍に入ってやがては十隊の隊長にという
お考えはあるのでしょうか?』
『軍で国や人々を守るという仕事ができれば光栄ですが、
自分の力を活かし誰かの役に立てるなら
どんな場所でもかまいません。
色々とお話を聞いて、ここで働きたいと思えた所で
全力を尽くしたいと思います!』
『素晴らしい!
お聞きになりましたか、皆さん!
剣の技だけでなく、人間性もすでに完成された感のあるズィフィード君、
前評判どおり各方面から誘いの手が殺到することは間違いありません!
続いては、剣魔共に超一級のセンスを持ち、
彼女の中には傑出した剣士と偉大なる魔導士が眠ると評される才媛!
モロク・ヨト・アスフィアナさんです。
前回のインタビューではケーキ屋さんで働きたいとおっしゃっていましたが、
展示会に参加されるということは
その後お考えに変化はあったのでしょうか?』
『…はい、あの…
いえ、わたしを雇ってくださるのであれば喜んでケーキ屋さんに…』
『なるほど、お誘いがあればケーキ屋さんに!
でも~!?』
『え、で、でも?』
『ケーキ屋さんもいいけど、でも~?
軍に入って大活躍も~?』
『…そ、そうですね、それも素晴らしいですね…』
『ハイ、大いなる決意のお言葉いただきました!
控えめながらも内に秘めたる意志と情熱を感じさせるアスフィアナさん、
整った容姿からファッション業界などからも熱い視線を集めているとか!?
できれば私と出演枠を争うことになりかねないテレビ業界は
避けていただきたいところです!
以上、前途有望な二人の若人にお話を伺いました、ありがとうございました。
輝け、明日のウィルスターの星、ウィルスターのスター!
皆さん、次回もお楽しみに!』
ここで、注目の二人の中継は終了した。
それを受けジェサリアは依頼についての話の続きをしようと口を開きかけたが、
勢いよく立ち上がったキーンが遮るように声を張り上げた。
「オレたちもスカウトしようぜ!
これだけ狙われてる逸材が来てくれりゃ心強い。
せっかくあの二人がいる時にシュテシアに行くなら、
やるしかねえだろ!」
「…ズィフィードの試合の一部がテレビで流れていたが、
彼の並ならぬ素質は本物だ、過大評価じゃない。
俺たちの想像を超える好待遇で迎えられるはずだぞ…
アスフィアナの方も同様だろうな。
俺たちの元に来たところで何の得もない。
唯一理由になりそうなのは世に稀に見る超美人のアンジェ嬢がいるくらいかね、
笑顔を拝むのも難しいくらいの剣の鬼だが…
あんたなら来るか?
キーン殿」
テーブルの上の皿に乗った菓子を一つつまんで、
オータは冷ややかに言ってからそれを口に放り込んだ。
キーンにしても、報道を見たことで高揚して言っただけである。
気勢を削がれて腰を下ろした。
「オレなら来ない」
「私でも行きませんね!」
「だろうな!
お前は世界で一番来なさそうだな!
でも現実はここにいるんだよな、ザマーミロ!」
彼がジルドラに吐き捨てるように言った後、
アイスレアはでも、と口を開いた。
「わたくしの目には、お二人ともお金で動く人物には見えませんでした。
ズィフィードさんは彼自身の言葉どおり
より働き甲斐のある場所を求めている気がしますし、
アスフィアナさんは強めに迫れば引き入れられそうな
印象を受けました」
「…後半で急に雲行きが怪しくなった気がするんだけど、
あの子が言ってるのは誘拐でもしようかって話?」
「…アイスさんは時々言葉の選択を間違えるだけです」
デュエルに答えるジャカは、
多くの人々に嘱望されテレビに映るような人物などは、
狙われ逃亡を続ける自分とはまるで正反対の輝ける存在で、
互いの歩む道が重なるはずもないと思っている。
よくキーンはあんな発想ができたものだとやや呆れながらも
感心してしまった。
「そもそも、あの二人を強引に狙って来るかもしれないのって
一体何者?」
ロズウェルが尋ねると、ジェサリアはうん、とうなずいて答え始めた。
「依頼人が言うには、暁の牙だ。
そんな名前のクセして連中は明け方に仕事をするのを嫌がるらしい。
嘘つき野郎どもだ!」
「暁の牙!
確かに、彼らならやりかねないかも!」
「…名称の問題はともかく、ガーラントでも何度か耳にした名だな…」
「…け…結構ヤバい人たちの集まりなんでしょうか?」
顎に手を当ててつぶやくオータに、ジャカは声を上ずらせながらきいた。
ロズウェルも知っている上にあのガーラントで名を馳せていたのだとすれば、
あまり質のよろしくない団体に違いない。
「性質としては極悪というほどではないが、
ウィルスターでは最大級の傭兵団だよ。
“傭兵王”と呼ばれる頭のルオグラン・フレイムは有名な凄腕だ」
「そんな名前のクセして氷の魔導剣の使い手だからな。
嘘つき野郎だ!」
「そういう問題じゃないんですよ、ジェサリアさん!
僕たち向きの仕事を待っているって言っていましたよね。
傭兵王なんて言葉が出ちゃってるじゃないですか、
どこが僕たち向きなんですか」
「悪いな、ジャカ!
正直お前たち向きかどうかではなく
条件の良さで決めちまった」
「どっちが嘘つき野郎なんだよォォォ!」
右手で小さく拝む仕草をして軽い調子で謝るジェサリアに、
彼にしては珍しく暴言を吐きながらジャカは頭を抱えた。
しかしすぐに勢いよく顔を上げて、ある人物の方を向いた。
「アンジェさァァァん!
何とか言ってくださいよお父さんに!」
訴えられたアンジェは表情をわずかに動かすこともなく、
ジェサリアを説得するつもりもまるで感じられなかった。
それどころか、ジャカの期待とは真逆のことを言った。
「強い相手と戦わなければ強くなれない。
この際、傭兵王と一戦交えてみればいい」
「どの際がこの際!?
僕に死ねと言うんですか!
大体そんな戦いを僕たちがする理由は…」
「ジャカ君!
シュテシアの人たちが困るかもしれないなら
あたしたちが戦う理由になるよ!」
「そのとおりです、ロズウェルさん!
さすが!
剣は誰かを守るために振るうもの。
やりましょう!」
その変わり身の早さはひどいものだったが、
ロズウェルに対するジャカの感情はロズウェル以外の皆の目には明らかなので、
もはや誰も何も指摘する気にならない。
内心、暁の牙との戦いはオータやジルドラ、アイスレアは
乗り気ではないのだが、猛者ぞろいのレッドハンドや
シュテシアの守備隊もいるならジャカが最初に感じたほど
絶望的な戦闘にはならないのではないかと切り換えた。
この流れではどうせ避けられない。
ならば、少しでも前向きに考えなければやっていられなかった。




