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不断のジャカ  作者: 吉良 善
臆病者の剣
59/92

展示会

普段から趣味の悪い、いや大変に目立つローブに身を包み

街を歩く胆力の持ち主であるGBことガードナー・ブレイスだが、

少々緊張していた。

ウィルスター王国最高魔導士、ドズルフォート・アシュレイを

前にしていたからである。

その肩書きにではなく、肌で感じる彼の秘める実力が

猛獣の前に引きずり出された小動物のように

GBの心身を自由にさせなかった。

「赤手に隊をつぶされたとか…」

穏やかな調子で、アシュレイが言った。

恥部を読み上げられた気分だったが、事実なので仕方がない。

敵味方まとめて攻撃していたGB隊は、

突如戦場に飛び込んで来たレッドハンドに次々と隊員を倒され、

GB自身だけが命からがら逃げ延びた。

今思い出せばあまりにも無様な己の痴態に腹も立つが、

当時はこの窮地を脱することができるのなら

土下座してもいいと思えるくらいに恐怖を感じていた。

それほど、レッドハンドは強かったのである。

距離さえ取っていれば、魔導が剣に敗れるはずはない。

そう思っていたしこれまではそうだったが、

レッドハンドには全く通用しなかった。

同じ赤手という意味では、不殺の天使もそうであった。

実際に、彼女にも隊の一角を崩され標的の逃走を許している。

「はい。

 口惜しいことですが、同志を全て失いました」

唇を噛みながらGBが言うと、アシュレイはいたわるような

眼差しを向けた。

「同志のことは無念でしょうが、相手が赤手では十隊であっても

 隊長格がいなければ十倍の数でも危ういでしょうね。

 彼らは利用するのが最善なのです。

 なぜ襲われたのかは知りませんが、

 天災に遭ったと考えておくのがよろしいかと」

「お気遣い、痛み入ります」

「隊の件はともかく、あなた自身は優秀な魔導士と

 先程お力を検分した部下から報告を受けました。

 調べも終了しています、今後は我が隊に加わって

 国のために存分に働いてください」

「ありがとうございます、最高魔導士殿」

「その絢爛たるローブは引き続き着用していただいて結構ですよ。

 普段はね」

にこやかなアシュレイが発した言葉に、GBはうなずくしかなかった。

自分のローブの色に愛着のある彼はアシュレイの隊の制服が

橙色になればいいのにと思ったが、さすがのGBもこの場で

それを言い出す度胸はなかった。





「今年は本腰を入れていくぞ!」

拳を握りしめて宣言するハーディスに、

彼の側近であるミリート・シェズは顔を歪めるような表情をして

宙に目をやった。

「去年だって本腰を入れてやりましたよ、ボクは」

二十歳になったばかりのこの若者は大柄ではないが腕が立ち、

小回りが利く。

まだ少年の色が抜けきれない容姿とは裏腹に

戦闘においては容赦のないところがあり、

その点と物怖じしない性格を気に入って

ハーディスはそばに置いている。

「去年のことなど忘れた。

 全ては今年だ!

 何しろ十年に一人というほどの逸材が二人同時に出て来たのだ。

 多くの権力者や富豪がこぞって狙いに来るだろう」

「新聞にもそのまんまのことが書いてあったな…」

二人が話しているのは、『展示会』と呼ばれる催事について。

テレビ局や新聞社が主催者となって活躍の場を求める優秀な人材を集め、

彼らを引き入れるため様々な有力者や団体もまた集まる。

一年に一度、毎回場所を変えて開催され報道もされる。

始まってからまだ数年だが、これまでに第九部隊副隊長セレンティア・エリンや

第六部隊副隊長ジアンビ・フィション、

第十部隊副隊長ランディエ・ザルテといった

優れた人物を輩出している。

それらの獲得に、ハーディスも貢献してはいた。

そして、今年ガーラントの北東に位置する街シュテシアで行われる展示会には

すでに評判が広まっている二人の目玉が己の才を活かす場を得るべく

参加するという。

ハーディスも自ら現地へ飛びたい心境なのだが、

そうもいかないためシェズに任せているのである。

「本腰を入れるということは、二人とも取りにいくのですね?」

「無論、そうだ。

 私は、君が総力を挙げてどちらも取るという結末しか見たくない。

 いいかね、私は見たくないと言っているのだよ。

 見たくないのだが、物事は悲観的な想定もしておかねばならない。

 もしどちらか一方しか取れそうもないとなったら、

 まず君へのお仕置きは決定」

「え?

 何でですか?

 一人は取れていても罰?

 やる気なくしちゃいますよ?」

「その上で、ガルソウルを何としても引っ張って来てもらいたい」

「剛力、迅速、技巧を兼ね備えた俊英ですね。

 彼は魔導の心得もありますが、その分野ではモロクさんの方が上。

 比較して、ガルソウル君でよろしいということですね?」

資料に目を落として問うシェズに、ハーディスは間を置かずうなずいた。

天賦の才があるとしても、どの程度開花するかは未知数だ。

その点、ガルソウルという家名の若者は今の時点でも

即戦力になる実力をすでに備えている。

「期待も込めてだが、私は彼をミューラー、エリン級の素材と見ている。

 極めに極めた剣技は、もはや究極的な魔導にも近い。

 我が軍には、その次元の剣士があと数人は必要だ」

「でも、名前が少しねぇ…

 何だか悪役っぽい響きだと思いませんか?

 特にフルネームだと。

 濁音が多いでしょ。

 国の平和を守る我々としては、国民に与えるイメージが…」

「響きで判断するか、斬新な考えだ。

 どうだろう、ミリート・シェズという響きには

 少し軽さを感じないでもないな。

 役目も現状より軽くすべきかな」

「いやだな、ハーディス様!

 冗談ですよ冗談!

 最善を尽くしますボク」

「よろしい。

 頼んだぞ」

ハーディスは、シェズに微笑みかけた。

今後を見据えて、とにかくできれば両方、

それが叶わなかったとしても何としてもどちらかは取っておきたい。

願わくば、ガルソウルとモロクの二人がそろって自分の前に立つ光景を

目にしたいものだ。

ハーディスは、シェズにその望みを託した。

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