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不断のジャカ  作者: 吉良 善
臆病者の剣
58/92

ドロウ

レゼルクとクラトー、ガラテアは、

第九部隊が滞在しているというウィルスター軍宿舎を訪れた。

相変わらずこの建物は人の出入りが激しく、バタバタしている。

三人ともお偉方に切り捨てられた身だが他の隊には全く関係ない話のようで、

足を踏み入れても見咎める者はなかった。

ロビーに何人かの第九部隊隊員の姿があったので、

レゼルクは声をかけて隊長に取り次いでもらえるよう頼んだ。

が、夜まで戻らないとの返答を受け、

夜に再度訪ねる旨を伝えてもらうことにして

一旦宿舎を離れた。

「オレは十隊所属じゃねえから知らんが、

 他の隊に移るのは簡単なのか?」

多くの通行人たちが左右に寄ることを全く意に介さず

道の中央を大股で歩きながら、ガラテアが言った。

あの巨体と面構えでは街行く人々が避けても無理はないと思いつつ、

レゼルクはいや、と答えた。

「他の隊がいいからとか、この隊は嫌だからとか、

 そういう理由で移れるものではない。

 少なくとも私は、移籍話を聞いたことはないな」

「今回ばかりは認めていただきたいものだ。

 おそらく最も不似合いであった七部隊でもあの活躍だ、

 他の隊ならばどこでもさらなる活躍ができるはずだぞ、

 この私は!」

両手を広げ、首を振りながら言うクラトー。

残念ながらレゼルクは彼と知り合ってからは隊での仕事を

ほとんどしていないので、『あの活躍』を知らない。

第七部隊が合っていたかは別にして、

クラトーが馴染む隊を探すのは容易ではない気がしたが、

あえて何も言わなかった。

「本意ではないが、私たちの存在が軍において異端であることは

 動かしがたいところまできた。

 九部隊の件も駄目なら駄目で、その時考えればいい」

「いい方針だ。

 そういう方がオレ好みだね」

「クラトー殿はどうかわからないが、

 私は君のように軍での出世を望んでいないからな」

「ハーディスやマステマが偉くなってるのを見ろよ。

 過程なんかどうでもいい。

 力を持ち、結果を出せば登っていける場所なんだよ」

「少なくとも、この国と民を守るという信念くらいは

 力と共に持ち合わせていてもらいたいものだが」

「それも結果さ。

 結果的に国を守ることになりゃそれでいいだろ」

レゼルクとガラテアが適当な会話をしていると、

クラトーが割り込んできた。

「待つのだ、ガラテア殿!

 そんなことではいけない。

 平素より民を愛し、慈しむ心が…」

「うるせえな、しゃべんなお前!

 次にこの私がどうのとか言ったらどつき倒すぞ!」

「何と!

 殴るというのか!?

 この私を!」

「…うん、おちょくってんな。

 いい度胸だよテメエ…

 そのまま動くな、道の端まで飛ばしてやるよ」

「…二人とも、今まさに守るべき民の迷惑になっている。

 とりあえず近くの店で時間をつぶそう」

そう言って、レゼルクはさっさと目に留まったカフェに入った。

クラトーも何事もなかったように続き、

毒気を抜かれたガラテアは一人肩をすくめて二人を追った。





当初、レゼルクは会えないまま追い返されても仕方ないと考えていたが、

午後七時頃に再び宿舎へ行くと第九部隊隊長エシエン・ドロウは戻って来ており、

話を聞いてくれることになった。

隊員に案内され入ったドロウが使っている部屋の窓際に、

件の人物の姿がある。

尋常ではない巨躯であり、ぎょろっとした目といいがっしりとした顎といい、

いかにも強面で全体的に「ごつごつした」印象の巨漢だが、

三人を迎えて笑顔を見せると日が射したようにえくぼができた。

「おう、来たか!

 一度空振りさせたらしいな、悪いことをした!

 九部隊隊長、エシエン・ドロウだ」

部屋中に響く声で、ドロウは言った。

その音量にガラテアは顔をしかめたが、

レゼルクとクラトーは自分たちのような立場の者に

気を遣った言葉をかけるドロウに度量の大きさを感じた。

レゼルクからするとガラテアも相当の長身だが

ドロウはさらに頭一つ大きく、この二人がさほど広くない室内にそろっていると

ずいぶん狭く思える。

「マステマの所のだって?

 俺に何の用だ」

三人の自己紹介を聞き終えたドロウは、ソファーに座るよう促しながら

自らも腰を下ろし尋ねた。

先刻伝言を頼んだ隊員には細かい事情は話していなかったので、

レゼルクは自分たちがマステマに切り捨てられ身の危険を感じること、

安全にガーラントを離れるため第九部隊に帯同させてもらいたいことを話した。

背筋をぴんと伸ばし、腕組みして聞いていたドロウは身じろぎ一つしない。

気のせいだろうか。

ソファーから尻がわずかに浮いているような気がする。

「(トレーニングしながら話を聞いているのか、この人は…)」

さすがだ、と感心するべきか、

いや、鍛錬は後にして話に集中してくださいと言うべきか。

などと考えていると、

「マステマは偏物ではあるが、それでも十隊の長を務める男だ。

 何か不手際…があったとしても抹殺していいわけはないが、

 お前たちに非がないにも拘わらず消そうとしたのか?」

と尋ねられた。

「私たちは、そう思っています。

 襲撃を受けた際、仲間とはぐれましたので

 合流でき次第、王都に戻り現在の軍の総大将たる

 ザオウ隊長に仲裁をお願いしてみようかと」

レゼルクのその言葉にドロウは大きく二度うなずき、

「よし!」と大声を発した。

身体がちょっと後ろに押されたような気がした。

「俺はお前たちを信じることにする。

 信じる以上は同志として迎えよう!

 いくつか照会させてもらうことになるだろうが、

 特段問題がなければ俺はかまわんぞ!

 ただし、俺たちも任務でここへ来ている。

 お前たちにも働いてもらおう!」

「もちろんです。

 第九部隊の所属になったつもりで全力を尽くします」

「感謝致します、ドロウ隊長殿!

 必ず助けとなることでしょう、強悍なるこの私たちが」

「超がんばりま~す」

まっすぐに答えるレゼルク、クラトーと

ソファーの肘掛けに肘をつき顎を手に乗せて脇を見ながら言うガラテア。

そんな彼らの背後から、

「なかなか面白そうな人たちですね」

突然声が聞こえ、反射的に三人は振り返った。

そこには、無邪気な笑顔を見せる中背の青年。

レゼルクは、心から驚いた。

自分もクラトーもガラテアも、

それなりの技量を持った戦士と言って良いはずである。

その誰一人にも気づかせず、室内に入って来ていたとは。

「てめえ、いつから…!」

ソファーから腰を浮かせたガラテアが問うと、

ドロウは巨体を揺らし笑った。

「お前たちがそこに座ったすぐ後に入って来たよ。

 悪く思うな、悪戯好きな奴でな」

「驚かせてすみません、

 悪戯好きな副隊長です。

 セレンティア・エリンといいます、よろしく」

こちらも笑いながら、エリンは軽やかに一礼した。

そうだ、と三人は思った。

面識はなかったが、顔は知っている。

軍でも屈指の剣士だ。

その彼は、すっ、と瞳を細めて三人を順に見た。

「僕も問題はないと思いますが、ひとつだけ。

 念のためですのでご気分を害されませんように。

 不審な動きがあれば僕が処断致しますので、ご承知おきください」

「おい、エリン。

 あまり脅かしてやるなよ」

「ですから、念のためですよ。

 不審がなければ、この街で任務以外に僕が働く必要もないわけです」

あどけなく、朗らかな笑顔。

だが、ガラテアはその微笑みに闇に似た不気味さを覚えた。

第九部隊での時間は、気が抜けないものになりそうである。

エリンに目を付けられれば、いつどこで背後から斬られるかわからない。

ガラテアは、冷や汗をかいていることに気づいた。

その事実に苛立ちつつも、自らも笑みを漏らす。

彼の近くに身を置くことが、己を鍛えてくれるのではないかと思えたからだ。

そうした想いを示すガラテアの顔つきに目をやってから、

ドロウは深く首を縦に振った。

「だそうだ!

 宣言どおり力を尽くしてくれればいい。

 任務というのはガーラントの闇取引を取り仕切っている組織の壊滅だ。

 この街の守備に就いていた者たちが長い時間をかけ内偵を行ってくれた結果、

 実行まであと一歩という段階まで来た。

 お前たちも加わってくれ」

彼の言葉に、レゼルクたちは力強く答える。

ドロウという男は、部下として尽くしても良いと思わせる人物だった。

かといって第九部隊に所属して働いていくかはわからないが、

予想以上に大きな任務に参加する展開となった。

しばらくはドロウとエリン、二人の豪傑の下で

ガーラントを駆け回る日々になりそうである。

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