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不断のジャカ  作者: 吉良 善
臆病者の剣
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猛者たちの洗礼

翌日。

気持ちの良い晴天の青さと耳に心地よい鳥たちの歌声が

起き抜けの心身を目覚めさせていく。

ジャカたちは、早朝からロッジの庭へと連れ出されていた。

ジャカのイメージでは腕利きぞろいのレッドハンドのことだから

てっきり連日の仕事で多忙を極めていると思っていたのだが、

そうでもないらしい。

「もともと悪名ばかりが高かった上に、

 軍との折り合いが悪くなってきたからな。

 真っ当な人間はなかなか依頼してこない…

 三人出ているが、残っている連中はやや鬱憤がたまっているんだ」

ストールがそう教えてくれたが、

最後の部分はどういう意味であろうか。

鬱憤がたまっていたら、なぜ朝っぱらから外に集められるのか。

「よーし、朝メシ前にちっと汗流すぞ~」

デュエルが宣言した。

レッドハンドのメンバーは、ジェサリア以外が出て来ている。

ジェサリアは、畑に出ている。

「なるほど、早朝ランニングみたいなもんか。

 こりゃ朝食もうまくなるぜ」

キーンが、ジャカに耳打ちした。

昨日の夕食は美味だった。

食事はレッドハンドの面々が交代で作っているそうだが、

そういう生活が長いためか意外にも各人そこそこの腕前のようである。

料理には、ジェサリアが丹精こめて作った野菜も使われていた。

「汗を流すって、何をやるの?」

「やればわかるよ。

 軽い運動だから、安心しな」

手を挙げて質問したロズウェルに、

少しの間姿を消していたランカーナが歩いて現れながら答えた。

両腕に、何本もの太い丸太のような物を抱えている。

よく見ると、一応木刀と言えなくもない形状だった。

皆の前まで来て、彼女は無造作にそれを地面に放り出した。

転がった音からしてかなりの重量を感じさせたが、

見た目がすでに重そうだったので予想どおりと言えばそうである。

「ほら、各自一本ずつ拾って拾って。

 ちょっと細めの女子用も急遽作ったから。

 あたしって親切~」

「十分重いですけれど…」

女子用とおぼしき若干細身の棒を難儀そうに両手で拾い上げ、

アイスレアが言った。

ランカーナとアンジェは慣れた様子で男性陣と同じ太さの物を

持っているが、アイスレアとロズウェルにとっては

細い方でも持ち上げるだけでかなりの負担だ。

ジャカは、この丸太風木刀を見た瞬間に嫌な予感がしていた。

正直、虫が喰っていて中身がスカスカだったらいいのにと思った。

これから薪割りが始まるわけでもあるまい。

では、一体何を…

その答えが、セファーの口からもたらされた。

「全員、持ったな。

 それじゃあ、素振り開始!

 千本と言いたいところだが、初日だし特別に五百でいいや。

 オレって親切!」

「五百ぅぅぅ!?

 これ持って五百ぅぅぅ!?」

「何だジャカ、少ないか?

 やっぱり千にするか」

「今の反応が少ないと主張するものに見えたんですかッ!

 全然軽い運動じゃないでしょ!」

「…普通の木刀ならともかく、これで五百って結構かかりそうだな…」

「…あの~、私は神官なんですが…

 それでもやらないといけないんでしょうか…」

オータとジルドラが口々に言うが、

セファーは二度手を叩いて黙らせた。

「早くしないと、朝飯が遅くなるばかりだぞ~。

 食後は、実戦形式でオレたちが直々に相手をしてやる。

 ここで一日鍛えれば道場で一年稽古する以上の成果が出るぜ、

 ありがたく思え」

「…鬱憤がたまっているって、こういうことだったのか…

 これはまずいですよ、キーンさん!

 僕たち、助けてもらってここへ来ておきながら

 ここでの修行で死ぬかもしれません」

にやりと笑うセファーからキーンに向き直り、ジャカは言った。

キーンはげんなりとした表情で力なく丸太をぶら下げていたが、

やがて両手でそれを振り上げ始めた。

「そうかもしれねえが、素振りを終わらせなきゃメシにありつけずに

 いずれ死ぬ。

 終わらせても実戦形式とやらで死ぬかもしれねえが、

 オレたちは一つ一つ乗り越えて生き延びていくしかなさそうだぜ、ジャカ。

 ここに来られなかったら、ガーラントで終わりだったんだしな。

 死ぬくらいなら、そうなる前にやってみるとしようぜ」

「…」

そう言われて、ジャカは黙り込んでこれまでの人生を思い返していた。

自分は、死んでいたかもしれないという出来事に何度も遭遇してきた。

その度に、誰かの助けがあって生きてこられた。

しかし、必ず助けてもらえるとは限らないし、

自分も他の人を助けることのできる人間にならなければならない。

死を覚悟したことがあるのだから、達成できるかどうかはともかく

どんなことでも挑戦してみることくらいはできるはずではないか。

「…(頭ではそう考えても…実際にやってみるのって、

 結構難しいよな…)」

覚悟したつもりでも、未知の物事は怖いし失敗を恐れる気持ちはある。

自分が人より弱い人間であることは、十分に思い知っているのだから。

「(やるしかないのかな…

 これで、僕は強くなれるんだろうか…)」

考え込んでいると、目の前が青く光り輝いた。

そして、『できる限りやるべき』と示した。

見知らぬ人々のその答えは、ジャカに救いを与えた。

もし、『何としてもやりきるべき』と示されていたら、

ジャカの心は動けなかったかもしれぬ。

持っているだけで腕が痺れてしまいそうになるくらい、

この木の棒はずっしりと重い。

五百回も振ることなど、自分にはできないかもしれない。

でも、とジャカは思った。

「…できるところまで、やってみよう…

 限界までやれば、途中で倒れて怒られても

 クタクタすぎてきっと聞こえないや…」

一同の中で最後にようやくよろよろと素振りを始めたジャカを見て、

リメロウは目を細めた。

百五十回をいくらか超えたところで腕を上げられなくなったジャカを、

駆け寄ろうとするキーンたちを制して屋内に運んでくれたのも彼であった。





「よ~し、そろそろ休憩も十分取ったな!

 訓練再開だ」

畑から戻ったジェサリアが皆を見渡して言った。

素振りを完遂できたのはレッドハンド以外では

キーン、オータ、ロズウェルだけで残る三人は動けなくなってしまったが、

セファーたちは咎めるわけでもなく介抱してくれ、

休憩と食事を挟んでくれた。

おかげでジャカ、アイスレア、ジルドラの体調もすっかり回復したのである。

「ここからは実戦に近い形で撃ち合ってもらうぞ。

 始めは一対一、最後は乱戦だ。

 使うのは木刀だから安心しろ」

「この丸太で殴られたら死ぬだろ!」

「大丈夫だ、うまくやれば」

「大丈夫って言わないんです、そういうのはッ!」

オータとジャカの抗議は右から左に流し、

ジェサリアは両手を広げた。

彼の後ろには、アンジェも含めたレッドハンドの猛者たちが並んでいる。

「さあ、諸君!

 我が講師陣から好きな相手を選びたまえ。

 どいつもこいつも加減のわからないバカばっかりだけど」

「僕はランカーナさんにお願いしようかなー!」

いつも遠慮がちなジャカだが、ここは一番乗りで声を上げた。

アイスレアの治癒魔法もあったし体調は良くなり腕の状態も問題ないが、

アンジェにはこれまでに何度も打ちのめされているし

屈強な男性陣を相手にはしたくない気分なのだ。

しかし、彼は一斉に責め立てられた。

「ジャカ、てめえ!

 メシの時は散々迷うくせに何でこのメニューでは

 一発で決められてんだよ!」

「こういう場合はまずあたしとアイスさんに選ばせてくれるんじゃないの!?

 女性同士でやるんじゃないの!?」

「よくも幾度となく私のことを生臭生臭と言ってくれたものです!

 ジャカ君がこんなにも利己的な人間だったとは!」

「言ってませんよ僕は!

 何でランカーナさんを選んだだけでこんなに怒られるんですか!」

キーン、ロズウェル、ジルドラと口論していると、

腕組みしたデュエルが感心したようにうなずいていた。

「見直したぜ、ジャカ。

 お前が迷うことなくランカーナを指名するとはな!

 何しろこいつの稽古は一番厳しい。

 手加減が一番下手だからよ」

「え」

「だが、仲間内で最弱のお前にはちょうどいいかもしれねえな、

 荒療治ってやつだ。

 みんな、ジャカの担当はランカーナで異存はないかぁ?」

『ありません』

「嘘でしょ皆さァァァん!」

「さァ~、行こうかジャカく~ん。

 お姉さんがたっぷり指導してあげるよ…

 立ち上がれる間は終わらないから、覚悟しといて」

「ぶっ倒れなきゃ終わらないってこと!?

 ダメダメダメ、それは稽古とか指導じゃなくて

 虐待ですから!

 ジェサリアさん方、キーンさん方、

 どっちでも誰でもいいから代わってェェェェ…」

皆が心の内で合掌する中、ジャカはランカーナに引きずられていった。

彼は失神することはなかったが、ランカーナの宣言どおり

体力を使い果たして立ち上がれなくなるまで指導を受ける羽目になった。

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