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不断のジャカ  作者: 吉良 善
大都市ガーラント
42/92

“家族”の仇と親友の姿を、ジャカは交互に見た。

実に奇妙で不可思議で、そして受け入れがたい光景であった。

幼い頃に別れ、常に胸にあった存在と、

大切な父兄たる人々を奪った者が共にある有様は。

様々な感情が入り乱れて、ジャカの心には嵐が吹き荒れた。

驚きと喜びと、怒りと恐れ。

一体何が一番大きくて、何が最も激しくて、

何が自分の表すべきものなのかわからない。

彼が立ち尽くしている間に、槍を右肩に担いだガラテアが

前に出ようとする。

それを制するように、レゼルクが口を開いた。

「君は…

 ジャカか?」

覗き込むような目つきで見ていた彼は、そう尋ねた。

脇にいたガラテアは、足を止める。

首を回すことなく、目の端でレゼルクを見やった。

「そうだな?」

「…うん、

 …うん、そうだ…!

 ランディアク・ジャカだ!」

答えながら、ジャカは力を込めて二度うなずいた。

瞳には、涙が浮かんでいる。

その瞳のはしばみ色を、下がった眉尻を、焦げ茶のくせっ毛を、

レゼルクは覚えていた。

家も家族も亡くした友の身を案じていたが、

生きて目の前に現れた。

それは本来、喜ばしい出来事である。

しかし現在の状況が、素直に受け入れることをさせなかった。

自分たちの標的として追っていた内の一人が、

どうやらその友であるらしいと。

「もしかして、彼が…

 前に言っていた親友だったの!?」

レゼルクの後ろからひょっこりと出て来たロズウェルが、

ジャカにちらりと目を向けて言った。

彼女の姿を見た時、ジャカの胸は痛いような、

むず痒いような、不思議な高鳴りを覚えた。

自分に勇気をくれた少女。

彼女が親友と共にあったこともまた、ジャカの胸を締めつけた。

一体二人は、どういう間柄なのだろう。

どのように出会って、これまでに何があったのだろうか…

「そうだ」

「良かったじゃない、生きてて!

 ジャカ君だったよね、心配してたよ、彼!」

彼らのやり取りを前にして、キーンやアイスレアたちは

当惑している様子だった。

ジャカから、親友のレゼルクの話は聞いている。

だが、こういう形でまみえることになるとは思わなかった。

今の状態では、これは敵同士である。

ガーラントから脱出するには、彼らを退けなければならない。

「おい、どうすんだ。

 言っとくが、お前の旧友だろうがオレはやるぜ」

穂先を少し動かして音をたて、ガラテアは言った。

「わかっている」

うなずくレゼルク。

その悠揚迫らぬ態度には、

そばにいるロズウェルとクラトーの方が戸惑った。

一方、アンジェも切っ先をかすかに上げた。

「お前の友だけを避けて戦うというわけにはいかないようだ」

「待ってください!

 …レゼルク、そいつは…

 ガラテアは、僕の大事な人を殺した!

 何も悪いことなんてしていないウォルケンさんたちを、

 三人とも…

 三人とも殺したんだっ!

 僕だって、追われる理由なんてない!」

アンジェの前に左腕をかざして、ジャカは叫ぶ。

遭遇してすぐに、アンジェは敵の中で特に手強そうな者たちの目星をつけた。

ガラテアという男が最も力があるとして、

先手を取ればそれ以外の一人や二人は倒せそうだが、

ここで戦うとこちらは連戦になる。

相手は聞く姿勢を見せているようだし、

疲労した仲間の体力を少しでも回復させるため

ジャカに話を続けさせた。

そんなアンジェの意図など知らないジャカの胸には、

疑問と苛立ちが渦巻いている。

なぜ、レゼルクは笑顔で応えてくれないのだろう。

名指しで非難されたガラテアが鼻を鳴らす横で、

変わらぬ様子で立っている。

同じ時を歩んだのはわずか五歳の頃までだが、

自分たちには思い出が編み込まれた強い絆があったはずだ。

十三年という、あまりにも様々なことが起こった時間を越えて

ようやく再開できたというのに、なぜ彼の表情は微動だにしないのか。

「理由なく追われたりはしないんだ、ジャカ」

当のレゼルクが、静かに言った。

その静かさが、ジャカの感情に拍車をかける。

「私やメルヘヴン・アンジェと同じで…

 君も得てしまったんだな。

 青い光の力を」

「青い光の力…」

「そうだ、

 …オレは見たぜ」

思い出したように、キーンは声を発した。

「レゼルクだったな、お前が右手でロスティージャを掴んだ瞬間、

 ヤツは急にふらついて倒れそうになっていた。

 そう…右手はしっかり、光ってやがったぜ」

「…見えたということは、君もそうか。

 そしてジャカ、レキッタで巨大な光の剣を発生させたのは

 ロズウェルによれば君ということだな?

 私たちの力については、私たち自身もよくわかっていない。

 まずは、それについて話をしよう。

 同行しろ、ジャカ」

淡々とした親友の声がやけに冷たく聞こえ、

心に刺さった気がした。

大きく変わってしまったという印象ではない。

彼は飄々とした少年だった。

友人だからとか久しぶりだからとか

そんなことに囚われない、それだけなのかもしれない。

だが、やはり何かが違う。

彼の十三年間にも色々な出来事があったはず。

別れてから再会するまでの間に、

レゼルクの何かが変化したことは間違いないのだ。

それでも彼の言葉が信じられず、ジャカはゆっくりと、

そして何度も首を横に振った。

「…どうして…

 どうしてそんなことを言うんだ、レゼルク。

 君は軍に身を置いているんだろ。

 それなのに、僕に同行しろっていうのか?

 僕は、その軍にもう一つの家族と友達を奪われているんだ…

 どんな理由があったって、納得できるわけがない!」

「青い光の力には、それほどの何かがある…

 ならば、私たちは知る必要があるんじゃないのか?

 君の近しい人が手にかけられたことは私も残念に思う。

 だが、このまま逃げ続けるわけにはいかないだろう。

 共に来い。

 生き延び、力の秘密を探るにはそれしかない」

淡々としながらも断固とした響きを、

レゼルクの声は持っていた。

一度うつむいて沈黙し、ジャカは呻くように口を開く。

再会を喜び合い、食事でも共にして、

また同じ時を過ごす。

そうした望みは露と消え、遠い夢に成り果てたようだ。

「…どうすれば…

 僕はどうすれば…って、

 そう言うと君は思っているんだろ。

 そして結局、君の言うとおりにすると…?

 今だって、すごく迷うことはあるよ…

 でも、僕にだって色々あった。

 たくさんの人が、一緒にいてくれる人たちが、

 教えてくれた…

 迷ったって、他の人の声が聞こえたって、

 最後には自分で決めなきゃならない。

 答えを出して、行動しなきゃいけない。

 そうじゃなきゃ、みんなが認めてくれないんだ。

 僕がちゃんと生きてるってね…

 だから決めた。

 僕の答えはこうだよ、レゼルク」

言いきって、ジャカはルルメクをすらりと抜き放った。

レゼルクは、波無き水面のような澄んだ瞳で見据えている。

その眼差しの奥で、思っていた。

過ぎるほどに優柔不断だった友は、確かに変わったようだ。

家族の死、それに伴う孤独や苦悩を乗り越えて来たのだろう。

成長という名の変化はうなずける。

幼い頃の記憶にはないほどに力強い顔を見せ、

駆け上がるように勢いを増して言葉を続けた。

「君とは戦えないなんて言わない。

 戦いを避けられるとも思ってない。

 君の意志の強さが、僕にもわかるから…

 お互いに引けないのなら、ぶつかり合ってでも

 僕は進む!」

「よく言ったぜ、ジャカ!

 困難にぶち当たった時に抗うことができるのは、

 自分の力で道を拓く意思のある奴だけだ!

 その道、オレも一緒に突っ走ってやるぜ!」

「はい!

 頼むぞ、ルルメク!」

「コラァァァァ!

 自分の力で戦えよバカァァァァ!」

「す、すいません」

キーンに怒鳴られてしまったジャカであるが、

そんなことを言われても今の彼にそこまでの実力はない。

自分の力で戦えるようにとの決意は決意として、

それもここを切り抜けてのことだ。

とりあえずは、ルルメクの力を借りておくしかない。





「いいの、レゼルク!?

 友達と戦うことになっても…

 しかも、あのガラテアって人、悪いことをしていない

 ジャカ君の大事な人たちを殺したって…!」

「ジャカは友だ、それは変わっていない。

 私は彼の命を奪おうというのではないんだ、

 話を聞くためにも捕えて連れて行く。

 そうすれば、少なくとも今以上の危険は彼らには及ばない」

詰め寄ってきたロズウェルをなだめるようにレゼルクは答えた。

彼女の表情からすると納得はしていないようだったが、

ひとまず意見を引っ込めてくれた。

実際、ジャカに危害を加えたいとは考えていない。

彼が例の力を持ってさえいなければ、

幼少の頃を懐かしく語り合うことができただろう。

ガラテアが隣にいる状況では、下手なことも言えない。

捕えてしまうのがジャカ自身にとっても安全だ。

思いながらクラトーに目を移すと、彼の様子は一見普段どおりであった。

「そういうわけだ。

 よろしく頼む、クラトー殿」

「承った、任せておきたまえこの私に!

 …と言いたいところだが、たやすくはないだろうな…

 自分でも信じがたいことだが、彼女の姿を見ているだけで

 冷や汗が出てくるよ。

 剣士としての本能が危険を感じている、この私としたことが」

彼が見ているのは、ジャカの近くに立つ少女の

大輪の白百合の如き麗しき姿。

静かな佇まいながら放たれる高くそびえる壁のような威圧感に、

人数では勝る状勢にありながらも

優れた腕を持つクラトーをして、

あのように言わしめるのだった。

「確かにな…

 こうして対峙してみると、嫌でもわかってくるものだ。

 噂以上の恐るべき相手らしいと」

「わかったのはそれだけじゃあねえ。

 恐るべき相手は不殺の天使だけってこともだ」

言いながら、今度こそガラテアは一歩前に出た。

その動きを、レゼルクの視線が追った。

「手を貸すか?」

「そうしてくれ。

 オレは一対一で仕留めることへのこだわりはねえ、

 不殺の天使を抑えりゃこの戦は勝ちだ」

「承知した。

 …すごい顔をしているがロズウェル、後方で援護してくれ」

「わぁ~かった!」

「ブレイスたちと魔法をぶつけ合わないようにな、

 大声のお嬢ちゃん」

「けッ!」

「…年頃の女の子の反応とは思えねえな…」

ぼやきながら、ガラテアはアンジェ目がけて走り出した。

レゼルクとクラトーも後に続き、ガラテアの部下たちも動き始める。

その光景にジャカは逃げ出したくなったが、

いつ後方からソロムの部隊や他の隊が現れるかわからない。

ここまで来た以上、東門を目指す他はないのだ。

「向こうには魔導士隊もいるようだ、突破するのは骨が折れそうだな…

 こういう状況ではこちらも魔導の力を借りたいが、

 アイス殿一人では手が足りない。

 ジルドラ殿、治癒魔法以外の使えそうな魔法はないのか」

尋ねるオータに、ジルドラは切迫感にあふれた顔でうなずいた。

「ないこともありません!

 直接敵を倒す類の物ではないですが、

 使えることは使えるでしょう。

 一回三千アルムです!」

「…君自身の命もかかっているのに有料なのか…

 とりあえず、やってくれ」

「わかりました!

 皆さん、走るのです。

 私の前に出て、こちらを振り向かないように!」

高らかに言い放ったジルドラだが、他の皆はすでに走っているので

全員彼の前にいる。

ジルドラは、満足気に数度首を縦に振った。

「そうですか、そうですか皆さん…

 出会って間もない我々にも、言外相伝わる絆というものが

 備わっていましたか!」

その声を聞きながら、ジャカはレゼルクに近づこうとしていた。

戦ってでも、という決意は嘘ではないが、

接近して顔をよく見て言葉を交わせばレゼルクの心境も

多少変わるのではないか、そういう期待が

胸の片隅にないでもなかった。

レゼルクは、ガラテアと共にアンジェを倒すつもりのようだ。

街灯に照らされ、ガラテアの緑の髪がいやに鮮やかに映る。

前に見た時とは、刈り込みで描かれた模様が変わっていた。

あの男は何としても許せないが、今はそんなことを考えていては

生き延びられない。

ジャカは、また重くなったようにも感じるルルメクを

しっかりと握ってアンジェやキーンの背を追った。

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