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不断のジャカ  作者: 吉良 善
大都市ガーラント
39/92

怨念

ジャカたちの正面の敵が、続けざまに六人倒れた。

後続のポンペスの手下どもは、味方が次々と地に伏したことで

姿が見えてきた美しき白い剣士に戦慄を覚えた。

「…こいつ、化物だ…!」

敵の中の一人が、うめくようにつぶやく。

そう感想を漏らすのも無理はないと、ジャカは思った。

アンジェの背後にいては、相手との距離が詰まって

ついに刃を交えるかとなった瞬間に六人が

一斉に気を失ったようにしか見えなかった。

倒れた者たちからしても、何かがきらきらと光ったと思ったら

人事不省に陥っていたという出来事でしかなかっただろう。

彼らの同僚たちは、多くの味方を一瞬にして斬り伏せ

切っ先を向けて凛と立つ白き剣士を前に、

間合いを取って身構えるしかなかった。

アンジェの方は、睨み合っているわけにはいかない。

背後からも敵が迫っているはずだ。

強く地を蹴り、弾けるように飛び出しながらさらに四人を倒した。

「…不殺の天使の剣っていうのはここまで凄いのか…!

 一日百万で同行してもらってるらしいが、

 どうやら格安だぞ、ジャカ君!」

「…そう…なんでしょうね、多分…!」

少々興奮気味に声をかけてきたオータに、

ジャカは震えるようにうなずいた。

彼らにとってはとんでもない高額だが、

一日百万なら喜んで雇いたい要人や富豪はいくらでもいるに違いない。

自分たちの数倍という数の敵と対しても

生き延びることができたジャカは、実感している。

アンジェの腕は、それだけの価値があると思えた。

「お前たちでは被害が大きくなるばかりだ、

 下がりなさい!」

また三人が倒れた時、敵の後方から怒鳴り声が聞こえてきた。

その言葉に従って残る連中が後退していくと、

代わって二つの人影が歩み出て来る。

一人は小柄な男で、その後ろにポンペスの姿があった。

小柄な男というのは秘書と思われていたが、

正体はガーラントでは知られた腕利きの剣士、シル・ラサである。

無表情なラサとは対照的に、ポンペスは頬を紅潮させて

満面の笑みを浮かべていた。

「ほっほっほ…

 きっちりそろっているようだな。

 私の獲物たち…」

「ボス、

 …いや、ポンペス!

 よくもナイラを…!」

抜いた剣を握り直して、オータは叫んだ。

それを見て、ポンペスはさらに笑った。

「オータ、ライド…

 私の内情を知りすぎてきたお前たちはそろそろ用済みだった。

 さらにそいつらと交流を持つことで、

 私が恨みを晴らすのを邪魔するかもしれなくなったのだ。

 ならばすぐに消してしまわなければなるまいな?

 ナイラと共にラサに斬られていれば楽に死ねたものを」

「何をっ!」

「お前たちはついでだ。

 私の一番の狙いは…」

一度区切ったポンペス。

その目が、ジャカへと向けられる。

同時に、表情に嗜虐の色が混じったように感じられた。

「ランディアク・ジャカといったな…!

 先日も言ったが、今一度言おう!

 よく生きていてくれた…!

 お前には、ぜひ私の目の前で無残な死に様を晒してほしいと

 思っていたのだよ…!」

「ポンペスさん、…!」

口を開いたジャカだったが、遮るようにポンペスは続けた。

「覚えているか…

 あの時、私はお前たちの希望を受け入れ、

 いい条件で雇ってやった。

 しかし、お前たちのせいで私は腹心の部下を失い!

 商売道具を失い!

 客の信用をも失った!

 私自身も死にかけた…

 何もかも無くし、何とかたどり着いたこの街で

 捲土重来を期し働いてきたのだ!

 商売が再び軌道に乗り金はいくらか取り戻したが、

 私には何としてもやらねばやらぬことがある…

 実現の機会がこれほど早く訪れるとは、

 私の運もまだ尽きたわけではないらしい。

 やらねばならぬこととは何か、わかるな?

 お前への復讐だ、ランディアク・ジャカ!」

口角から泡を飛ばしてまくしたてるポンペスの充血した視線を、

ジャカは真っ向から受け止めた。

ポンペスも、元からこのような人物であったわけではあるまい。

ウォルケンらと同じく、自分が巻き込んだために

運命が変わってしまったのだ。

だが、人の世とはそうしたものであろう。

一人一人が生き、紡ぐ糸がいつ、どこで交わるか誰にもわからない。

まして、どのように絡み合ってどのような結果になるかなどなおさら。

以前ジャカ自身がキーンに言ったように、

未来は誰にもわからないのだ。

それでも、どういう結末に向かうのであれ、

断ち切ろうとするばかりでは立ち行かない。

絡み合ったなら、解きほぐそうとしなければ。

たとえ最後まで、それが叶わなかったとしても。





「ポンペスさん!

 あなたの言うとおりです…

 僕はあなたにご迷惑をかけました、

 申し訳ありませんと伝えなければならなかった…

 でも、どれだけ憎まれても、殺したいと思われても、

 この命を差し出すわけにはいかないんです。

 これまでに、たくさんの僕の大切な人たちが

 命を落としてきた…

 その人たちのために、なぜそうなってしまったのかを

 確かめなければならない。

 そして、その人たちのために僕は最後まで

 自分の命を大事にしなきゃいけないんです。

 だから、差し出せないんです。

 だから…僕が生きることを、認めてください。

 全てが終わった後なら、僕はあなたの下で働けと言われれば

 そうします。

 今は…行かせてください。

 お願いします」

ジャカの言葉を聞いていたポンペスの顔からは、

いつしか笑みは消えていた。

心の片隅では、わかっていた。

全てがこの少年のせいではない。

彼がそうしようとしてあの出来事が起きたわけでも。

だが、ポンペスには必要だった。

怒りを向ける相手が。

大切なものを失ったことでは同じはずの、

少年に向ける怒りが。

「お前など私の役に立つものか…!

 生きることを認めろだと?

 行かせろだと?

 いいだろう…

 私はここで、全ての怒りをお前にぶつける。

 それを跳ね返し切り抜けたなら、

 私は怒りを吐き出し尽くし、お前への復讐をやめるだろう…!

 さあ、ラサ!

 奴らを斬れ、一人残らずな!」

「おーっと、待ちな!

 俺たちも混ぜてもらうぜ…

 ようやく拝めそうだからな。

 天使様をよ…!」

「てめえは…!」

後ろから、荒々しい男とキーンの声が聞こえてきた。

男の声には、覚えがある。

忘れられない、恐ろしい光景と共に。

「雑魚はどいてなァ!

 いるんだろ、メルヘヴン・アンジェ…

 第七部隊の、何だ、ロスティージャとかいったか、

 そいつの隊を攻撃した件でお前に話を聞きたいってお偉いさんが

 いらっしゃるんでな。

 気兼ねなくお前を倒すことができるってわけだ。

 あの時の礼だ、こう見えて律義なんでな…

 何しろ俺は!

 ラグラング・ソロムだからよッ!」

「…!」

ジャカの心が、一気に波立った。

ラグラング・ソロム。

親友のレイグス・ヴァッセを殺害した男だ。

そのことを、アンジェも知っている。

だから、振り返ることなく言った。

「今は前に集中しろ、ジャカ。

 後ろはキーンたちに任せろ」

「…」

「天使様の言うとおりだぜ、ジャカ!

 こいつはオレらが引き受けっからよ!」

こちらもソロムを睨んだまま、キーンが言った。

その言葉に、ソロムは眉を吊り上げる。

「思い上がりもそこまでいくと笑えるぜ…

 どかねえならぶった斬って通るまでだ!」

粗野で凶暴な声。

ジャカはヴァッセのことを思い浮かべて歯を噛みしめたが、

ソロムはキーンたちに任せることにする。

己の前に立つアンジェの先では、疾風のラサが間合いを詰めてきていた。

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