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不断のジャカ  作者: 吉良 善
大都市ガーラント
38/92

決断

暁の星屋に迫る三つの隊。

その全てがジャカたちを狙っているかはまだわからないが、

ポンペスの私兵にウィルスター軍の兵が混じっているなら

軍の中で情報が共有されて

複数の隊が出撃してきたということも考えられる。

街を出るための道がいくつもあるわけではない。

三つ全てを避けていくのは困難であろう。

ぶつからなければならなくなるとしたら、

どれとぶつかるのが最もしのぎやすいのか。

「戦力の詳細な情報はないのですから、

 印象で決めるしかないのではありませんか?」

アイスレアが、落ち着いた声で言った。

危機に陥る度にジャカが驚くのが、こういった場面での

彼女の落ち着きようである。

ジャカとキーンが浮足立ちやすい方なので、

アンジェとアイスレアの冷静さには助けられている。

「印象でという話なら、俺の意見としては

 第三部隊は何としても避けるべきだ」

掌を上に向けた右手を前に出しながら、オータが言った。

「ポンペスの所にはラサがいる、

 もう一つの隊はよくわからないと言ったって、

 十隊と同等の戦力のはずはない」

「そりゃあ、そうだな」

納得したようにうなずくキーン。

「そんで、ポンペスの私兵ってのはよ、

 軍の正規兵より手強いと思うか?

 オレが思うに、ラサって奴を天使様に抑えてもらえりゃ

 アイス嬢の魔法も合わせて何とか逃げきれそうだぜ。

 それに、いざとなりゃジャカの力がズドーンといくかもしれねえ。

 なあ、ジャカ!」

「…え…

 いえ、あれは僕自身も全くわからない出来事ですから、

 期待されても…」

キーンが言っているのはレキッタの戦いで発揮された

ジャカの巨大な光の剣のことであろうが、

あの力についてはなぜ発動したかも、そもそも何なのかも不明なので、

自分の意志で使うことも訓練もできなかったため

当てにされても困る。

大体、もし市街地でズドーンといかれたら

軍の一部に追われる身という程度の現状から、

軍全体に本格的に追われる身になってしまうかもしれないではないか。

「というか、アナタ!

 強敵を天使様に抑えてもらって、

 アイス師匠の魔法も合わせて、

 いざとなればジャカ君の力って!

 ご自分はどうなんですか。

 王様ですか、全く!」

「うるせえな、そもそも誰なんだオメーは!」

指を突きつけるジルドラに、キーンは即座に言い返した。

「オレはその~、何て言うのかな、

 司令塔なんだよ!

 広い視野をもって皆を導くの!」

「司令塔ですか…

 その塔、ボロッボロなんじゃないですか。

 疾風のラサに吹き飛ばされるのではありませんかね。

 真ん中あたりからポッキリいっちゃうような気がしてなりません!」

「はあ!?

 何なのお前!?

 誰も止めないから出てって!?」

「…できれば二人そろって出て行ってくれると

 話しやすいんだけどな…」

ライドの言葉を聞きながら、ジャカは悩んでいた。

こちらは七人しかいないのである。

いくら剣豪のアンジェがいるとは言っても、

どれが相手だろうが厳しい戦いになることに変わりはないに違いない。

「(嫌だァァァ、どれとも戦いたくないぃぃぃ!

 でも、三つの敵を全部うまいこと避けてなんて

 都合よくいくかな…

 いかなかったとしたら、どれと戦うのが一番マシなんだ…!

 オータさんはああ言ってるけど、これまでの相手に比べれば

 第三部隊の方がまともで、降参したら命までは取られないということは…!?

 いや、捕まってヤバい人に引き渡されたらやっぱりダメか!

 ポンペスさんには恨まれてるし、もう一つの隊も結局は軍…

 どれもマズい!

 どうしたら!

 どうしたらいいんだ!)」

頭を抱えて悩んでいると、目の前が青い光に包まれた。

何だか久しぶりだなと思っている内に、頭の中にある言葉が浮かんだ。

『全部叩きつぶせ』と。

「なるほど、その選択肢もあったか…

 いやいや、その選択肢はない!一番ない。

 おかしい!

 おかしいよコレは!」

「今、光ってたな。

 何だよ、どっかの誰かさんたちの声が聞こえたか?」

いつの間にかジルドラとの口論を終えていたキーンが

こちらの方を振り返りながら尋ねた。

ジャカは、目を見開いたままである。

優柔不断な彼もさすがにあの意見には乗れなかったが、

全く無視するということもまたできないのが

ジャカという少年であった。

「…あ…あの…

 三つの隊なんですけど…

 全部倒しちゃいます…?」

「あんだと?」

キーンが凄みをきかせた声で問い返した。

あまりにもふざけた意見である。

発言した者自身もよくわかっていた。

慌てて、ジャカは両手を左右にぶんぶんと動かして一歩後ずさる。

「な!

 なんちゃって!

 なーんちゃって!」

「そういう気分じゃねえんだよ、こっちはよ!

 時と場合を選べ、すっとこどっこい!」

「僕の意見じゃないんですよぉぉぉ!」

「大体、全部倒す意味なんかないだろ!

 無責任もいいとこだ。

 前々から思ってたけど、お前が聞く声ってオレたちを導こうって気がないよな!

 それに従えば助かるって感じでもないし、

 お前何のために聞いてんの!?」

「…聞こうと思って聞いているわけじゃなくて、

 勝手に聞こえてくるんです」

とは答えながらも、キーンの言うことに賛成できないわけではない。

ジャカにもたらされる声は、必ずしも正しく導いてくれるとは限らない。

だが、彼のような人間にとっては、一人で迷い続けるよりも

誰かの言葉を聞くことが決断をするための助けになってくれる…こともあった。

だから、ジャカは遠慮がちながらも皆に向かって

自分の意見を口にした。

「…もし戦うなら…

 ポンペスさんの所にしたいです」

「理由は?」

静かな声で、アンジェがきいた。

ジャカは少しうつむきつつも、強い光をその瞳に宿していた。

頭の中でとんでもない意見を聞いて、なぜか吹っ切れたようだった。

「…ポンペスさんが僕を憎んでいるのなら…

 仕方ないことですけど、殺したいほど憎んでいるのなら、

 そうさせてしまった僕はせめてその心を受けとめるべきなのかなって…

 もちろん、殺されてもいいなんて思っていません。

 直接会って、顔を合わせて伝えるしかないと思うんです。

 ポンペスさんの憎しみも、それを知った僕の落胆も、

 そうすることでしか乗り越えられない。

 僕は、応えます。

 生きることをやめないって、みんなと約束したんだから。

 僕はあなたに謝ります、でもあなたに殺されるつもりはない…

 はっきりと、その姿勢を見せます」

皆、黙って彼の言葉を聞いていた。

まっすぐに、彼を見ていた。

その中で、キーンが大きくうなずいてジャカの首に腕を回した。

「よーし、それでいこうぜ!

 お前のその覚悟で決めたことを変えるほどの理由を、

 オレたちは持ち合わせちゃいない。

 いいだろ、みんな!」

「え~、ちょっと…

 正直、さっきからお二人が何を言っているのかもよくわからなかっ…

 ぶぼろッ!」

ジルドラを張り倒し見回すキーンに、

皆もうなずいた。

生への執着を見せたジャカの決意に、命運を託したのである。

「ポンペス隊寄りのルートでいいんだな。

 そうと決まったら、すぐに出よう」

「すみません、僕が決めちゃって」

小さく頭を下げるジャカに、オータはにやりと笑った。

「君にしちゃ、いい決断だ。

 命がけの判断だってのに料理を選ぶより早く答えを出せたんだから、

 それはそれで大したものだぜ」





オータとライドが調べてきた結果では、

比較的手薄なのが東門へ向かう方面で、そちらに近い位置にいるのが

まさにポンペスの手勢と軍の兵の混成隊だという。

幸い暁の星屋周辺まではまだ到達しておらず、

ジャカたちはガーラントに数多く走る路地を通り、

東門を目指した。

午後八時を過ぎ、表通りの人通りも減っているが

路地には全くと言っていいほど人影はない。

街灯もまばらな狭く薄暗い道を七人は走った。

「順調だな…

 これならこのまま抜けられるかもな」

駆けながらライドはそう言ったが、

「いや…」

左右に目を光らせるアンジェがその意見を打ち消した。

ちょうどその時、十字の分岐に差し掛かり左側の道に顔を向けたキーンが

“せっかちの早足”で疾走し、こちらを覗き見ていた男を

槍で殴りつけて昏倒させ戻って来た。

その加速にジルドラはあんぐりと口を開けた。

オータとライドは青い光の力について聞いていたが、

ジルドラには説明する暇がなかったのだった。

「…い…意外にやりますね、キーンさん…

 シル・ラサよりも、あなたの方が疾風の名にふさわしいのでは…」

「オレの速さなんか一瞬だからな。

 これで驚いているようじゃ天使様の戦いぶりを見たらお前、卒倒するぜ」

「今の人は…

 僕たちを追って来ていたんでしょうか?」

「そのようだな。

 しかし、倒したのはいいがあいつが見つかると…」

ジャカにオータが答えていると、

言葉尻をかき消すように甲高い笛の音が鳴り響いた。

その耳障りな音響に、オータは舌打ちした。

キーンが倒した男を、同僚が発見したらしい。

「見つかってしまいましたね…」

空を見上げながら、アイスレアがつぶやく。

自分たちを見つけたことを告げる笛であろう。

敵は、当然こちらが路地を使うことを見越して兵を配置してあったのだ。

これで、相手方にはこちらの大体の位置が掴まれたことになる。

それを示すように、前方の十字路の右手側から数人の兵が姿を現した。

「おっ、大通りに出ますか!?」

慌てふためいて、ジャカが言った。

正面から迫る敵との間にはまだいくつかの曲がり角があるから、

路地を抜けようと思えば抜けられる。

が、アンジェは冷静な声で彼を制した。

「この路地なら、走るのはともかく戦うとなれば二人は並べない。

 広い場所で囲まれるよりはマシだ。

 キーン、後ろを固めろ」

「おうよ!」

今の顔触れを考えると、アンジェに次ぐ腕の持ち主はキーンだ。

アンジェが見たところでは彼とオータにはさほど差はないだろうが、

キーンの得物は槍なので後方から来る敵がいても牽制しやすい。

「アイスとライドはキーンの補助に回れ、

 ジルドラは治療に備えろ。

 ジャカとオータは私の後ろにつけ」

「こんな狭い所で…

 存分に戦えますか、アンジェさん!?」

皆がアンジェの指示で動く中、ジャカが尋ねた。

彼女は振り返ることはなく、背中はほっそりとしていたが、

非常に頼もしく、心強く感じられた。

「狭いなら狭いなりの戦い方がある、

 剣を振り回すことなく使えばいいだけだ。

 私の突き技を防ぐことがいかに難しいか、

 向かって来る連中に教えてやる」

暗く狭い道の中、ジャカの目の前で躍る鮮やかな白。

その向こうから迫り来る凶手たちと、

数秒ののちには命をかけた剣戟を繰り広げなければならない。

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