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不断のジャカ  作者: 吉良 善
大都市ガーラント
37/92

窮地

ジャカとアンジェはオータ、ライド、ジルドラと共に

暁の星屋へと戻りキーンとアイスレアに状況を説明した。

二人はナイラの死に驚きながらも出発の準備に取りかかったが、

「話はわかったけど、何でこの人連れて来たの」

ジルドラに目を向けてキーンが言った。

初対面だし、この場に加わっている必要性も薄いように思えるので

何だか気まずい。

もちろん、全員と初対面のジルドラはもっと気まずかった。

「…それは私自身も大いに疑問を感じていることですが、

 関係者だと思われて危ないかもしれないとか何とか言われて…」

「ないとは言いきれないだろう。

 ちょうどもう一人癒し手が欲しかったところだし」

「それはありがたいですね。

 前から思っていたのですけれど、

 わたくしが怪我をした時に治してくれる人がいないのは

 寂しいですものね」

「そちらの方が主な理由じゃないでしょうね!?

 だとしたらひどい話ですよこれは!

 多額の謝礼でもいただかなければ納得できません」

「…お前も給料が必要なのか…

 金がかかるな、このパーティーは…」

アンジェとアイスレアに詰め寄るジルドラを苦々しい顔で一瞥し、

キーンは準備の方に専念し始めた。

滞在している内に椅子の背にかけた服が増えていたジャカは、

きちんとたたむことなく丸めるようにして鞄に詰め込む。

もっとも、持ち物を全て集めても大した量にはならない。

いつ逃げたり隠れたりしなければならないかわからないので、

なるべく少なくなるようにしていた。

手を休めることなく、ジャカはオータに声をかけた。

「前に言いましたけど、僕たちルフィカに行こうと思っているんです。

 途中でどこかに寄るとしても北に進みたいんですが、

 北門に向かってもいいでしょうか?」

ルフィカは、ガーラントの北に位置する。

さほど大きい町ではないが、さらにその北の大都市インフォアへ向かう、

またはそちらから来る旅人が多く立ち寄るため

それなりの賑わいはある地だった。

オータは唇に手を当てなぞるようにしながら、

視線を宙に泳がせて考えを巡らせる。

「う…ん、何とも言いがたいな…

 ポンペスの手勢はあくまで私兵だ、派手に動かせば軍の目にも付くし

 俺たちを足止めするためだけに門を固めているとは

 ちょっと考えにくいが、小規模の隊を配していることはありうる。

 東西よりは南北の門の方が大きいから、どちらがいいかといえば

 南北は避けた方がいいかもしれない、というくらいしか言えないが」

「そうですか…

 その、…ナイラさんはやっぱり、

 ポンペスさんの部下にやられたとお考えですか?」

問われて、オータとライドは目を伏せた。

ジャカもナイラのことは尋ねたくはなかったが、

はっきりさせておかなければならない。

オータは、静かにうなずいた。

「だと思う。

 シル・ラサの仕業だ」

「…ここに来た時、一緒にいた…」

「ああ、疾風のラサと呼ばれる腕利きだ。

 ボス…ポンペスが私兵を動かす気配があると知って

 どういうことだろうと探っていたら、

 どうも暁の星屋周辺に向かわせるらしいということがわかった。

 ラサが俺たちの動向を見ているらしいこともだ。

 俺らも違和感は抱いていたんだが、君たちのことを伝えてすぐに

 ポンペスが自ら会おうとしたのはやはり妙だった…

 顔を知らない相手でも助力するっていうのはこれまでにもあったが、

 警戒心の強いあの男がわざわざ出向くというんだからな。

 それで、考えた。

 理由はわからないが、ポンペスは君たちを捕えようとしているんじゃないか、

 そしてついでに内情を知る俺たちも始末しようとしているんじゃないか…

 だが、捕えようとしているというのは甘かった。

 ナイラがやられたことで、思い知ったよ。

 奴は、俺たちを皆殺しにしようとしているんだ」

「…多分、一番は僕…ですね…」

手を止めてうつむき、ジャカはつぶやいた。

ポンペスは、事件に巻き込んだ自分のことをずっと恨んでいたのだろう。

思い返してみればこの部屋で再会した時も、

よく生きていた、気にかかっていたとは言ってくれたが

良かったとか嬉しいといった発言はなかった。

内心では、首でも絞めてやりたい気分だったのではないか。

ジャカは失望を覚えつつも、それも当然か、という想いもあった。

何の関係もないポンペスが、たまたま自分と一緒にいたために

ガラテアらに襲われ、部下や荷物を失い命を落としかけたのだ。

生き延びることができたからといって、自分と再会したところで

喜ぶはずがないではないか。

それならばあの時、自分の顔を見るなり大声でなじって、

気の済むまで殴ってくれればよかったのに。

そう考えていると、オータが肩にそっと手を置いた。

「自分のせいでナイラがやられたと思っているんだろ。

 さっき言ったとおりだ、ポンペスは俺たちのことも

 いずれ消すつもりだったんだよ。

 タイミングが重なっただけさ」

「…すみません…」

「それより、急げ。

 準備は最低限にしろよ、とにかく今はこの街を脱出することが第一だ」

「オータ、オレたちで危険の少ないルートを確認しておこう。

 相手がどこから来るのか、調べておかないと」

「そうだな。

 何かあったらすぐに知らせる、

 みんなもすぐに出られる気構えだけはしておいてくれ」

ライドに答え、オータは彼を連れて足早に部屋を出て行った。

皆が忙しく動き回る中、ジルドラは所在なさげにお茶をすすっていた。

 

 



「え?

 あなたも神殿で訓練を積んだ経験が?

 それは奇遇ですね。

 ちなみに、治癒魔法一回につきおいくら頂いているのですか?」

「わたくしは頂いていません。

 治癒魔法を習得する者は、同時に救いの心も備えるべきですから。

 お金も必要ではありましょうが、

 特別なことをしなくても自然と集まって来るものです」

「自然と集まって来る!?

 そんな方法があるんですか!?

 ぜひご伝授願いたいです、師匠と呼ばせてください。

 皆さーん、私もう強引に連れて来られたなんて言いません!

 自分の意志で同行しまーす!」

アイスレアと話していたジルドラが手を挙げて宣言したが、

誰もそちらを向くことはなかった。

手早く出立の準備を終えて、キーンが腕を組んで

ジャカとアンジェの顔を交互に見た。

「宿の中にまでは入って来ないだろうが、

 周りを固められたら厳しいな。

 できれば人混みに紛れたかったけど、そろそろ人も減ってくる時間か…」

時計に目をやると、午後八時を回ろうとしている頃だった。

この時間になると、街を歩く人の数は急激に減る。

逆に刃傷沙汰が増えるのはこれからである。

「街を出たら、追って来なくなるでしょうか?」

「楽観はしない方がいいな。

 ただ、隠れてやり過ごすことはできるかもしれない。

 街の中にいてはそれも難しいから、

 やはり外には出たい」

ジャカにアンジェが答えた時、オータとライドが戻って来た。

険しい表情である。

部屋にいた面々に、さらなる緊迫が走った。

「どうだった」

キーンが問うと、

「予想以上に難しい状況のようだ」

オータは短く答えた。

身体中が痺れるような感覚を覚えながらも、

尋ねなければとジャカは渇いた口を開いた。

「どんな状況なんです?」

「ポンペスの手勢は動いている。

 だが、どうやら軍の連中も混じっているようだ」

「え!?

 でも、ポンペスさんは軍が嫌いなんじゃ…」

「そうだ。

 だから、俺たちからしても不可解なんだ」

「それだけじゃない」

代わって、ライドが言った。

「軍の別の部隊も、こちらへ接近して来ているようなんだ。

 悪いことに、巡察中のはずの第三部隊もな」

「…三つの…敵…!?」

絶望的な気分になって、ジャカは呆然とした。

偶然か?

それとも、その全てが自分たちを狙っているというのか?

「なぜです?

 なぜ、そんな重なって…」

なおもジャカは尋ねたが、ライドは首を振りながら肩をすくめた。

「オレも教えてもらいたいよ。

 カジノの奥の巨悪をそろって摘発にでも行くのかな。

 じゃなきゃ、軍の一斉訓練か何かだったらいいんだが…」

「何ということだ!

 自分の意志で同行すると言った直後に

 こんなことになるとは誰が想像するでしょう。

 わかっていれば言わなかったのに、無念です!

 神様の意地悪!」

「いずれとも出くわすことなく脱出できるのが理想だが」

ジルドラを突き飛ばして、アンジェは皆を見回して言う。

「三方から来るというのなら簡単ではない。

 ポンペスの手勢の他はまだ目的が不明だが、

 このタイミングでここへ接近しているのなら

 同じと考えた方がいい。

 切り抜けるためには、どれかと一戦交えなければならないかもしれない。

 問題は、そのどれかとは何かだ。

 ジャカが言ったようにあえて敵と言うが、

 三つの敵の中に楽な相手はいないだろう。

 我々は、決断しなければならない」

彼女の言葉を聞きながら、ジャカたちはどうすべきかを思案する。

同時に迫る、三つの敵。

ここでの判断が、自分たちの命運を分けるかもしれない。

その答えを出すまでに費やせる時間は、わずかである。

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