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不断のジャカ  作者: 吉良 善
大都市ガーラント
34/92

隊長からの伝言

「ようやく会えたな。

 捨て犬ちゃんたち」

「!」

ガーラントの街を歩くレゼルクらの前に、

鮮やかな緑の短髪が目立つ立派な体躯の男が現れた。

大槍を無造作に右肩に担いだ姿はごろつきのようにも見えるが、

人斬り包丁とでもいうような剥き出しの刃を思わせる

ぎらぎらとした空気をまとっており、

ただならぬ気配を悟った道行く人々はかなりの距離を取って歩いた。

「ガラテア…

 なぜここに?」

男の正体を知っていたレゼルクが目を丸くして言うと、

ガラテアは口の端を上げてにやりと笑った。

ロズウェルとクラトーは、レゼルクにこれほどガラの悪い

知り合いがいたことにやや驚いていた。

「なぜって、物見遊山に来ているとでも思うのかよ?

 仕事だ」

「私たちを探していたのか?」

「ああ。

 地元の人間を何人か雇ってな」

「住民も観光客も多い街で大変だっただろうね、

 その人たち」

「いいや、楽な仕事だろう。

 何しろ美男美女ぞろいだ、この私たちは!

 小石に混じった宝石を容易に見つけ出せるようにね」

そんな感想を漏らすレゼルクの連れたちを、

ガラテアはとりあえず無視した。

何だか面倒そうだったからである。

彼がそうしてくれて助かった、とレゼルクは思った。

「捨て犬と言うからには、事情は知っているというわけか」

「知ってるよ。

 マステマ隊長からの伝言を預かっているからな」

「隊長からの…!?」

思わぬ人物の口から出た名に、三人はそろって目を丸くした。

レキッタの件については、レゼルクはマステマに

『ロスティージャの暴挙に月光騎団は不信感を抱き、

 それをそのまま王都に報告されては七部隊の沽券が下がる。

 そこで、居合わせた我々が不信を払拭すべく

 ロスティージャを止めた』

と説明し、それを聞いた上司は「へえ、そうか」と答えただけで

不機嫌になるでもなかった。

もしかしたらガーラントに置いていかれたことが

マステマの返答だったのかもしれないと思っていたが、

一体何をガラテアに託したのか。

「どういう中身だ?」

「おたくらにとっていい話かどうか知らねえが、

 伝えるぜ」

言って、ガラテアはもう一度笑んだ。

ロクな話ではなさそうである。

が、「やっぱりいいや」というわけにはいかない。

三人は、黙ってガラテアの言葉を待った。

「マステマ隊長いわく、ロスティージャのやり方にはまずい所もあったが、

 奴にはある任務を命じてあった。

 アレクフォンシには貸しがある、

 そろそろ払ってもらおうと考えていた折だ。

 お前たちが任務を引き継げ。

 受けなければロズウェルの命で借りを返してもらう」

「あたしィィィ!?」

口を開きかけたレゼルクより早く、自らを指差しロズウェルが叫んだ。

目を剥いたその表情は迫力があり、髪も逆立ったように思えたが

気のせいだろうか。

「何で彼の借りをあたしが!

 ちょっと、レゼルク!

 あなた、あたしがドラゴンの卵の化石でも買って借金を背負ったら

 代わりに払ってくれるの!?」

「払うわけないだろう。

 何に使うんだ、そんな物」

「ドラゴンは問答無用でかっこいい!

 違う!

 問題はそこじゃないのッッ」

「大体、私の借りというのは君絡みのことだったと思うが…

 そういう意味で隊長は言ったんじゃないか?」

「…う~んと、そんな記憶がないでもないけど、

 それにしてもでしょッ!

 あたしの命で返すのはおかしい!

 あなたが隊長の意向に理解を示そうとするのもおかしい」

彼女の大声のおかげで余計に人目を集めてしまったが気に留めず、

レゼルクはガラテアを見据えた。

「言いそうなことではあるが、確かか」

「一応、書面も預かっている。

 後で渡すよ、握りつぶすなりお偉方の所に持って行くなり

 好きに使え」

笑いながら、ガラテアは言った。

彼が伝言を受けた時、

マステマは「断れば三人とも始末する」とは言わなかった。

ロズウェルの命で、と言った方がレゼルクには効果があると踏んだのであろう。

大雑把な男だが、そういうことには気が回るらしい。

しかし、レゼルクよりも効果のあった人物がいたようで。

「何ということだ!

 実に許しがたい、承服しかねるぞこの私は!

 人の上に立つ者の言うことではない、

 そうは思わないかね!」

「思う思う!

 いいぞー、もっと言えクラトーさん!

 今、出会ってから初めていいこと言った!

 正直、あたしじゃなくてクラトーさんでいいだろ!」

憤慨して拳を握りしめるクラトーに、

ロズウェルが拍手をしながら同意する。

レゼルクも同感ではあるのだが、何しろ相手はあのマステマだ。

単なる脅しではないと考えるべきだし、

逃れるのは容易ではない。

ひとまず従うか、そう見えるように振る舞うのがいいだろう。

「マステマ隊長が君に託したのは、

 君がここに来ることになったからか?」

再びガラテアに顔を向けて、レゼルクが尋ねた。

彼がマステマと交流があったとは聞いていない。

「それとも…

 ロスティージャが帯びていた任務というのが

 君の仕事と重なるからか」

その問いに、ガラテアは左の眉を上げ

おどけたような表情をした。

「両方だ。

 おたくらにオレの指示に従えとは言わないが、

 必要があれば協力してもらいたいな。

 知っているんだろ。

 相手の数は少ないが、どうやら相当に手強いのが

 混じっているらしいんでな」

不殺の天使のことであろう。

そして、もしかしたら光の剣の男のことでもあるかもしれない。

彼と会ったことのあるロズウェルは、

でも、とガラテアに声をかけた。

「その任務って多分、ロスティージャと戦っていた人たちを

 捕まえるなり何なりすることでしょ?

 あたしたちも見たけど、普通の男の子もいたし

 全然悪そうな感じじゃなかったよ。

 軍が追わなきゃいけないようなことをしたの?」

「さあな。

 軍がどうしようとしているかなんか知らねえ。

 オレは命令を受けただけだし、ロスティージャも

 マステマ隊長に従っただけだからな」

「なぁ~んだそりゃ!

 どうすんのよレゼルクラトーさん!」

「…名前を合体させて呼ぶな。

 コンビかと思われる」

「やるな、ロズウェル嬢…!

 負けていられない、この私も…!」

「…むしろこの二人がコンビだよな…」

ロズウェルとクラトーを横目にしつつ、

レゼルクは思案した。

ガラテアとロスティージャが共通して追っていた相手といえば、

おそらく青い光を伴う特殊な力を持つ者たちである。

誰がなぜ、そうさせているのかはわからないが、

任務を引き受け標的と接触すれば、わかることもあるかもしれない。

レゼルクにしてみれば、己も“力の持ち主”なのだ。

狙われている者たちがどんな人物か、

どういう力を持つのか、何をしようとしているのかなど、

知りたいことはいくつもある。

何より、マステマに狙われるのは避けたい。

ロズウェルの命でなどと言っても実際にはどうこうしないだろう、と

尋常な相手なら思えるが、彼の場合はやると言ったら多分やる。

「…わかった。

 君と常に行動を共にするわけではないが、

 協力はしよう」

「あ~あ、いいのかな。

 ねえ、クラトーさん」

「友が言うのだ、信じてついてゆこうではないか、この私たちも!」

「マステマ隊長にはよく取り計らってくれよ?」

連れ二人の言葉を聞きながら、レゼルクは微笑して

ガラテアに視線を合わせた。

両手を広げ、ガラテアは大きくうなずく。

「おたくらにとっても悪い話じゃないさ。

 こちらからの情報はできる限り提供するし、

 今の状況じゃ利用しづらいだろう軍の宿舎も

 使えるように掛け合ってやるよ。

 今は三部隊の連中が我が物顔だろうけどな」

「現状、国内ではこの街ほど駆け回らなければならない現場は少ない、

 赴任して来たばかりということもあって意気は高いはずだ。

 とはいえ、その顔も七部隊の者たちよりは大きくないだろう」

レキッタの戦いで、恐るべき力を見せた光の剣の男。

ガラテアがガーラントに来たということは、

彼らがこの街か、この街の近くまで来ているのだろう。

レゼルクは、彼の力について知りたいと思った。

やや不本意な形ではあるが、ガラテアの持つ情報と手勢を利用すれば

実現の可能性は高まる。

 




ガーラント中心部にあるウィルスター軍の宿舎は

この街に滞在する軍の関係者が寝泊まりする建物だが、

利用者の多くは守備隊や派遣された十隊の内の一隊などの

兵士たちである。

彼らは毎日街中を駆け巡って不逞の輩と対する任に就いているので、

血の気が多い。

しかも、いくつもの部隊が日夜入れ替わり立ち替わりで

出て行ったり戻って来たりするので常に騒々しく、

彼ら以外はあまり使いたがらない。

守備隊の詰所は街の各地に点在しているが

一時的にとどまっているだけの十隊は軍宿舎に入るしかなく、

第三部隊は全員がそこに宿泊することになっていた。

隊員の一人、トラバース・エランカが巡察に出る刻限のため

エントランスに降りて来ると、そこが何やら騒がしい。

早朝であろうが深夜であろうが誰かしらの姿はある場所だが、

常とは異なる空気が感じられた。

「何です?」

野次馬のようにしている連中の中に

任務の際の同組で年長のニナン・フラックスの顔を見つけて尋ねると、

面長の先輩騎士はため息をついた。

「ここへ来てからというもの、皆いつも気が張り詰めているからな。

 捌け口を見つけたんだよ。

 七部隊の居残り組らしい」

「七部隊~?」

十隊の中で最も評判の悪い隊である。

隊同士の間には対抗意識は当然あるが、

第七部隊に対しては共通して

「そもそもまともに仕事をしない奴ら」という認識を持っていた。

その上居残り組となればどんな放蕩者なのかと思い、

エランカは輪の中に入って行った。

そして、輪の中心にいたのがレゼルクら四人であった。

「熱心なことじゃないか。

 本隊が去った後もガーラントのために働こうとは…

 隊長殿はこの街ではずいぶんと評判のお方だったからな」

「君たちが置いて行かれたのは…

 フッ、失礼。

 君たちが残ったのはその後始末か?

 大層元気のいい人だろう、そちらの隊長殿は」

「評判とか元気がいいとか、何言ってんの!?

 クズだよ、クズ!

 いや失言、一応上司だった。

 おクズです、あの方は!

 お人柄が信じられないくらいよろしくないです、

 そちらの隊長殿がうらやましいです!」

せせら笑いながら絡んできた者たちにロズウェルが大声で言うと、

基本的に真面目な人間の多い第三部隊の隊員たちはやや引いた。

「…よそ者の俺たち以上に自分の所の隊長を馬鹿にしているぞ…」

「やはり荒くれ者ぞろいなんだな、七部隊は…」

第三部隊の隊長はまともな人間である。

部下からの信頼も厚く、彼らからすれば己の隊の長を

罵倒するなどありえないことだった。

そんな彼らの前に、一人の男が進み出た。

「もしや、君たち…

 あんな隊長の後始末役などもったいない、

 あたら有為の士を腐らせることになると危惧して

 誘いの手を差し伸べているのではないかね、この私たちに!?

 何ということだ!

 我々の優れた才覚は、隠すことなどできないというのか…!

 わかった!

 そこまで望まれては無下にはできない。

 漢、トゥリート・クラトー、三部隊への異動を

 前向きに検討させていただく」

「お断りだ!

 荒くれ者ぞろいどころか変人だらけじゃないか!

 三部隊に変人はいらん!」

勝手に拒絶されたクラトーをジト目で眺めながらも、

レゼルクはちょっと残念に思った。

第三部隊に入れればマステマも手が出しにくくなるはずなのだが…

しかし、あくまでクラトーがそういう話を口走ったから考えただけで、

心から第三部隊に移りたいと思っているわけではない。

移ったら移ったで、隊の質からして

任務に没頭しなければならなくなるような気がするし。

「別に褒めるわけでも侮辱するわけでもないんだが…」

レゼルクの隣に立っていたガラテアが欠伸をしながら言う。

「お前ら、やっぱし七部隊だわ。

 他の隊は馴染まねえよ。

 三人とも何かどこかがどうかしてるもんな」

「…少なくとも褒められているとは微塵も感じないな」

「君!

 そこの君!」

「?」

自分に向けられた小声を感じたレゼルクは、

腰をかがめた低い体勢で近づいて来る二人の騎士を見つけた。

一方はかなり若い。

同世代であろう。

声をかけてきたのは、その若い方のようだった。

「君は?」

「俺はトラバース・エランカ」

「…アレクフォンシ・レゼルクだ」

「ここを使うために来たんだろ?

 他の隊の人と接する機会なんてそうそうない、

 今夜にでも少し話さないか?

 おもしろそうですよね、フラックス先輩」

「…なぜ俺まで…」

「いいじゃないですか、街で派手に遊べる立場でもないし

 こういう楽しみでもないと!

 どうだい、レゼルク君」

「…かまわないが…」

「決まりだ!

 俺はこれから巡察に出るが、

 七時には戻って来る。

 飯でも食いながら話をしよう。

 まあこういう街だ、何があるかわからないし

 無事を祈っていてくれ」

「変人たちの祈りが天に届くかどうか知らないが、

 そうしよう」

「こんな騒ぎはすぐ終わるさ、

 うちの隊は真面目な人が多いからね。

 だからこそ、君らと話してみたいんだよ」

エランカの若者らしい好奇心に満ちた表情を見て、

レゼルクは清々しい気分になった。

異なる隊の者同士が向き合う場において

素直に感情を表すことに、好意を持ったのだった。

そして、エランカの言ったとおり第三部隊の面々は数分後には

レゼルクたちに突っかかるのをやめ、

ガラテアはやることがあると告げて去って行った。

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