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不断のジャカ  作者: 吉良 善
全ては北に
24/92

レキッタの街で

ウィルスター軍第七部隊に属するディンキン・ロスティージャが

レキッタにやって来たのは隊の長、

マステマ・マステリオンの命である。

人格的には歪んだ男で、他人を信用して

本心を見せるということは稀だが、

常に何かを探るように左右を行ったり来たりさせている

三白眼が彼の人物の一端を見る者に伝える。

ひょろりと背が高く、黄土色の縮毛が複雑に絡み合った頭部と

吹き出物の痕がいくつも残る両頬は

周囲に良い印象を与えたことは皆無と言ってよい。

そんな彼が、薄い唇を開いて笑みを見せていた。

「やはり最寄りのレキッタにそのまま向かっていたか…

 俺の手勢と月光騎団から借りる部隊で待ち伏せれば

 始末できるだろう。

 よくやった」

「…」

「浮かない顔だな。

 心配するな、お前だけでなく

 レキッタに網を張るのに協力した者全員が

 褒美を受けられるよう隊長には伝えておく」

「…私がお聞きしたいのはそんなことではありません。

 あなたの言っていた反逆を企てている者たちというのは、

 本当に危険人物なのですか」

正面に立つ女騎士の問いに、ロスティージャはさらに笑った。

人を不快にさせる笑顔だった。

「どうした、直に会って情が移ったか?

 危険人物の全てがいかにもな風体をしているわけじゃない、

 大抵は巧みに市井に紛れているもんだ。

 作戦には当然お前にも参加してもらうぞ…

 異存はないな、ルベール・サンヤ」

「…はい」

複雑な表情で、サンヤはうなずいた。

ロスティージャはマステマの命令で反逆の疑いがある連中を

捕えに来たのだという。

レキッタに着くなり数人の女騎士を使い、

上司から与えられた反逆者の情報を元に街中に網を張った。

先日サンヤが偶然出会った不審者がその中の一人と特徴が合致しており、

「男二人、女二人で旅をしている」との彼の発言も情報と合っていて、

さらに不審者が常人には不可能な加速を見せたという話で

確信するに至った。

「だが、いかにこちらが奴らを遥かに上回る数で待ち受けるとはいえ

 予断を許さない状況ではある。

 情報の中身でここだけは俺も懐疑的だったのだが、

 もし敵の中に不殺の天使がいるのだとすればだ。

 俺でも単独で討ち取るのは難しいかもしれん、

 四方を囲んで攻めることになるだろう…

 月光騎団一の猛者と評判のブロンスト・クレミアの手も借りてな」

不殺の天使の名は、サンヤも聞いたことがあった。

自分より四つも年少だが、戦場においては

屈強な戦士たちを震え上がらせるほどの剣の名手だという。

それを、実際に目の当たりにすることになるのか。

若き乙女が集う月光騎団は今日、初めての実戦を迎える。





ロズウェルのダークブルーの瞳は、据わっていた。

もうじき、目指すレキッタに到着する。

それなのに、彼女はここ数時間おかんむりであったのだ。

「―――――そこで言ってやったんだよ、この私は!

 キミ、もしかしてそれはピボリーグの詩集ではなく

 ヌメルケンの紀行だったのではないかね?とね!

 一同は地鳴りのような笑いに包まれたよ。

 それからは皆に握手を求められて難儀した、

 『おいおいみんな、そろそろ私の右手を解放してくれたまえ。

 フォークだけで食事をしろというのかい?』

 なんつってね、この私がね!」

「…え~っと、テキトーさんでしたっけ?

 そろそろいいかげんにしてもらっていいですか」

「明らかにわざと名前を間違えている!

 お嬢さん、もしかするとご立腹なのかな、この私に!?」

平時からは想像できないような低い声で言うロズウェルに、

クラトーは動揺して尋ねた。

「何が『もしかすると』ですか、

 何ではっきりわかってないんですか。

 ずっっっとしゃべり倒してる上に

 当時の御一同と違ってあたしたちには理解できないんですよ、

 そのクラトージョーク!

 あと、この私はとかこの私がとかの口癖はやめてください」

「…むごいな、ロズウェル嬢…

 あまりにもむごい…

 それは死ねと言っているようなものだ、この私に…」

「何でだァァァ!」

わざとらしいくらいに沈むクラトーの態度と返答に

納得のいかないロズウェルは、

彼が左手に持っていたピボリーグの詩集だかヌメルケンの紀行だか

よくわからない本をむしり取って地面に叩きつけた。

その本の著者には非はないが、あんな与太話を

道中ずっと聞かされていたロズウェルの身になってみれば

同情の余地は十分にある。

「ああっ、人生の一冊が!この私の」

「口癖を直したくらいで人間は死にませんよ!」

「口癖も含めてトゥリート・クラトーです、この私は!

 それに、レゼルク殿は表にこそ出していなかったが

 ずっと楽しんでいたぞ、この私の話を」

「うわ~、センス疑っちゃうなあ」

「…おい、そこだけクラトー殿の言葉を信用するなよ」

言いながらもレゼルクは、

この二人はそれほど噛み合わないわけでもないなと思った。

これまで一人の行動が多かったこともあって、

クラトーの話はともかく三人での旅を楽しんでいるというのは

事実であった。

しかし、ロズウェルとクラトーがどちらも一人で二、三人分騒がしいので

実感としては六人くらいで歩いているような気がしていた。

「街も近いことだし、クラトーさんのことはこの辺で置いておきましょう。

 着いたらすぐにロスティージャを探して問い詰めなきゃね」

「とはいえ相手が相手だ、一筋縄ではいかないだろうな。

 それに奴が隊長にどう報告するかによっては厄介な事態になるかもしれない」

「もし悪だくみしていたのなら隊長だって下手なことはできないでしょ!

 よ~し、待ってろロスティージャ!」

「やれやれ…

 ん?

 何か見えるな…

 あれは街の西門の辺りか?」

レキッタの西側から入ろうとしていたレゼルクたちは、

目前に迫った西門付近に多くの人影があるのを見た。

まだ距離はあるが三人には、

そこにいる人々の緊張が伝わって来るように感じた。

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