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不断のジャカ  作者: 吉良 善
声を聞くもの
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アイスレア

「その剣、勝手に戦ってくれるって本当かな。

 もしそうだとしたらお前が持てよ、ジャカ。

 一番弱いんだから」

「…もうちょっと気を遣った言い方はないのかな…

 大体、一番ってことはないでしょ。

 アイスさんも一緒に行くことになったんだから」

ジャカは、ヴァッセに抗議した。

ルルメクという名剣だか魔剣を買ってもらってしまったので、

もはやアイスレアが同行することを拒むことはできない。

「いくら僕の剣の腕がからっきしでも、

 女性の細腕には…」

その言葉に合わせて、何となく一同の目がアイスレアに向けられた。

視線の先の女性は、相変わらず穏やかに微笑んでいる。

彼女は治癒魔法が使えるらしく、縦に長い菱形の柄頭を持つメイスを

背負っているが一体何者なのか。

「…そういえば、アイスさんは…

 神官さんか何かですか」

尋ねるヴァッセに、アイスレアはゆっくりと首を振った。

「わたくしは、聖魔導士です」

「聖魔導士?」

「聞いたことあるぜ、オレ」

右手の親指で自らを指差し、キーンが言う。

「治癒魔法と援護魔法の専門家だって。

 だろ、アイスさん」

「そうですね。

 神殿と魔導学園の両方で修練を積み、

 人々を癒し、支える術を駆使する魔導士です」

神殿での修行を行いながらも聖職者の道を進まず

魔導学園で学ぶ者が、数は多くはないが存在した。

彼らは攻撃のための魔法ではなく援護を目的とする魔法を

修得しようとすることが多かったので、

魔導学園では支援の専門家たる魔導士、

聖魔導士として育成させるに至った。

アイスレアが身にまとっている青い制服のような

見慣れない衣装は、聖魔導士のものだったのかもしれない。

「ということは、攻撃魔法は使えないんですね」

「氷の魔法だけは使えます」

「…何で?」

「昔から、それだけは得意だったんですよ」

「…もしかして、名前に関係あるんですか」

「そういう意味での親孝行をしたつもりはありませんから、ないですね」

それもそうか、と三人が納得したところで、

アイスレアは旅の資金の足しにしようと自宅から持って来た

食器やら雑貨やらを買い取ってもらうため

一旦彼らから離れた。

五百万アルムをポンと支払った後である。

その金もたまたまもらっただけで、

アイスレアの実家はそこそこの金持ちらしいが

旅立つにあたって両親が辞書のような厚みの札束を

持たせてくれる程ではないとのことだ。





彼女を待つ間に、ジャカたちは今後について話し合った。

「馬車を使って、さっさとここを離れちまおうぜ。

 オレは北のレキッタに行くところだったんだ、

 お前たちもそうしろよ」

キーンはそう言ったが、ヴァッセは難色を示す。

「大丈夫かな。

 俺たちがこの街に来たことは知られていると

 考えるべきだと思うが、ジェルミ発の馬車が

 チェックされていたりしないか」

実際に襲われたのはジャカとヴァッセだけだ。

狙われながらの旅ということは、キーンには実感しづらいだろう。

さらにジャカとヴァッセには、街を出ることへの恐怖があった。

敵が大きな騒ぎにすることなく始末をつけようとしているならば、

街の外で襲うはずだ。

特に不殺の天使やガラテアといった相手と遭遇すれば、

切り抜けるのは難しい。

「でも、この前は歩いているところを待ち伏せされたし…

 向こうからすると徒歩の方が襲いやすいのは

 確かなんじゃないかな?」

迷いながらも、ジャカは言った。

本音を言えば、どちらの方がいいのかなどわからない。

ただ、ガラテアの隊には徒歩の旅で襲われた。

だから言ってみたという程度である。

だが、それはヴァッセに当時のことを鮮やかに思い出させた。

彼は、腕を組んで呻吟するように声を漏らした。

「…どちらも危険の度合いはさほど変わらないか…

 それなら、人に紛れて馬車に乗り込んでみるか」

その意見に他の二人がうなずいた時、

アイスレアが戻って来た。

手ぶらであるところを見ると、

持参した品々は無事処分できたらしい。

「お待たせしました」

「収穫はどうだい。

 さっきの剣の百分の一くらいは取り戻せたかな」

笑いながら、キーンが尋ねる。

素人が家に転がっていた物を売ったところで、

二束三文にしかなるまいと思っていた。

「約五百四十万アルムになりました」

「取り戻したどころかお釣りが出てるじゃねえか!?」

「買い取っていただいた品の中にずいぶん珍しい物があったようで…

 わたくし、昔からそうなんです。

 不思議とお金に縁があるというか…」

言動の端々から感じていたことではあるが、

やはり金に困ったことのない人物だった。

先程のように大雑把に大金を使ってしまうものの、

すぐにそれを補って余りある金運を発揮してきたため、

今のアイスレアという人間になったのであろう。

治癒魔法が使えることとは別の意味で、

心強い存在のような気がしてきた。

彼女とともに必要な物を買いそろえ、

ジャカたちは北の街レキッタ行きの馬車乗り場へ向かった。

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