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無気力ぼっちの本気プロデュース  作者: 風戸輝斗


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第9話 ひびきちゃんに100の質問!

「ひびきちゃんに100の質問コーナー! パチパチパチ~」


 今日もVのひびきちゃんでの配信だ。恒例となっている20時の生配信には今日もたくさんのリスナーが集まっている。

 ひびきちゃんのアバターの隣にあるコメント欄は数字の8で覆い尽くされていた。言わずとわかるだろうけど拍手の意味合いの8である。


「この企画では前々から募集してた質問の中から選ばれた100の質問に答えていくよ! ちなみに厳選したのはほたるちゃんなので私はなにも知りません」


 募集したところ、1000通近くの質問が集まった。予想よりもずっと多い数だったので、委員長には厳選したと伝えてもらっているけど、実際はツールに読み込ませた1000の質問の中から無作為に100の質問が選ばれる形となっている。さすがに1000通の精査は無理。


「それじゃ早速いってみよー!」


 今日も元気いっぱいな委員長である。声色や乗りがますますVTuberらしくなってきたなぁと思う。「888ってなに?」と首を傾げていたネットの理解が浅かった頃が遠い昔のようだ。

 アプリを起動する。ひびきちゃんの背後にドンッと質問が表示された。


「結婚願望はありますか」


 初っ端からヘビー。


「あります! そりゃ結婚は幸せの象徴だからしたいよ」


【相手は誰がいいですか?】


「そりゃもちろん、チラッチラッ」


「次いきまーす」


 まったくファンサービス精神旺盛なVTuberである。冗談抜きで委員長を好いてるこっちとしては、あざとく上目遣いを向けられて堪ったもんじゃないぜ。いや百合じゃないけどね?


「えー、何歳ですか」


 委員長は、にこりとほほ笑んだ。


「黙秘権を行使します♪」


 ネットリテラシーもすっかり弁えられるようになっていてなによりだ。駆け出しの頃はいったいどれだけわたしが大声という名の規制をかけたことか。

 ちなみに、実写配信をしているので委員長のおおよその年齢は割れている。リスナーの間では大学生という線で確定しているようだ。大人びてて美人だからそれくらいの年齢だと思うよね。


「ほたるちゃんと同棲してますか。――同棲はしてないけど、朝から晩までいっしょに過ごすことが多いから半同棲ではあるのかな。今日もお泊りしていく予定!」


 コメント欄に満開の花が咲き乱れた。委員長が匂わせみたいなことを言うと、コメント欄が花畑になるのがこのチャンネルの恒例となっている。なんでこんな息ぴったりなんだか。


「好きなVTuberはいますか。――ひびきちゃん!」


【自己肯定感おばけ】


「虚滅の刃どこまで観ましたか。――2期の3話まで観たよ!」


【最新話まで追いついたら今年終わってそう】


「歌配信待ってます。――ありがとう! また配信するね!」


【もはや質問じゃなくて草】


 寄せられる質問に、委員長はトントン拍子に答えを返していく。視聴者とやりとりをする委員長はいつ見ても楽しそうで、配信業は委員長の性に合ってるんだろうなと思う。

 100の質問は一時間ちょっとで底尽きた。


「今日は配信に来てくれてありがとね! それじゃおやひびび~」


【おやひびび~】

【おやひびび~】

【おやひびび~】


 統一性された軍隊みたいな返事だ。

 配信を終了する。

 ヘッドフォンを外して深く息をつく委員長にわたしは麦茶を渡した。


「お疲れ様」


「ありがとほたるちゃん」


 ぐびぐびと麦茶を飲む。

 季節は初夏。部屋の中は冷房が効いていて涼しいけど、外はうだるような熱気に満ちている。連日最高気温30度を上まわる日が続いていた。


「体調とか大丈夫そう?」


「ん、平気だけど私体調悪そうに見える?」


「そんなことないけど、もしかしたら無理してるんじゃないかなって思って」


 自己紹介動画で宣言した通り、ひびきチャンネルには毎日動画がアップロードされている。

 はっきり言って毎日投稿はめちゃくちゃ骨が折れる。委員長のためっていう動力源が無ければ、わたしは確実に三日で音を上げている。

 学校では屍のように過ごしているわたしでさえ強い倦怠感を覚えているのだ。模範的な生徒として振る舞う委員長はわたし以上に疲れているに違いない。

 そう思ったのだけど。


「無理なんてしてないよ。毎日が充実しててとっても楽しい!」


 委員長は笑顔を弾けさせる。平気なふりとか、見せかけだけとか、そういった言葉とは真逆の表情。本当にそう思っているであろうことは言われずともわかった。


「そういうほたるちゃんは体調大丈夫?」


「全然平気」


「はい嘘」


 委員長がわたしを抱きしめてくる。嗅ぎ慣れたシトラスの香りにわたしの本能が安心感を覚える。


「ほたるちゃん、最近授業中寝てばっかりだよね。課題はちゃんとやっててえらいけど、このままじゃいつか壊れちゃう。配信、二日に一回にしようか」


「やだ」


「私は大切なほたるちゃんが壊れちゃうのが一番嫌だ」


 間髪容れずに答え、委員長はまっすぐなまなざしを向けてくる。

 放課後に勉強会をしていた頃も、何度か委員長は今みたいな顔をしていた気がする。普段は見せないちょっとこわい顔を。


「手を抜いて勝てるほど甘くないよすずりん杯は」


「だからって闇雲に動画を出せばいいってわけでもないと思う。この100の質問ってVTuberがよくやってる動画だよね。ネタ尽きかけてるんじゃないかな?」


「……そんなことないし」


 図星だった。これまで配信してきた動画はひびきちゃんとの親和性を第一に考えてのものだったけど、今回の動画はとりあえずでやってみた感が強い企画だった。そのことを立案者であるわたし自身が誰よりも自覚している。


「二日に一本、完成度の高い動画を配信するほうに舵を切ろうよ。私はそっちの方がうまくいくと思う」


「……ごめんなさい」


 漏れ出た声は掠れていた。委員長の顔を見るのがこわくて顔を上げることができなかった。


「わたしにもっと体力があれば毎日配信を続けられたのに、ごめんなさい。わたしにもっと企画力があれば動画ももっとまわってるのに、ごめんなさい」


 ごめんなさい。ごめんなさい。

 あやまってばかりの人生だ。過って、誤って、謝って。

 自分がちっぽけな人間であることはわかっている。ぼっちになるのもしょうがない人間だってことはわかっている。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 それでも委員長の期待にだけは応え続けていたかった。

 ぽろぽろと涙があふれる。なにが本気でプロデュースするだ。最後までもたなかったじゃないか。


「そんな風に自分を責めちゃダメだよ」


 目頭を強引に拭うわたしの手首を柔な力が握る。

 委員長は、まっすぐにわたしを見つめていた。


「ほたるちゃんは毎日精いっぱい頑張ってる。その努力する姿を私は誰よりも側で見てる。だから、たとえほたるちゃん自身であってもほたるちゃんの努力を蔑ろにするのは許さない」


 力強い声。委員長の瞳は瞬きせずにわたしを捉えつづけている。


「……けど結実しなきゃ意味ないよ。実らない努力はただの徒労だよ」


「まだ結実しなかったと決まったわけじゃない。それに私たちが配信した麻辣湯の動画はすでにすずりんに届いてる。あの動画が選ばれる可能性だってあるんだよ」


 わたしの手を強く握り、委員長は引き締まった表情で言う。


「ほたるちゃんの頑張りは絶対に無駄じゃない。ほたるちゃんのプロデュースは正しいよ」


 じわじわと目頭が熱くなる。わたしは委員長の胸に飛び込んで涙を流した。


「好き。委員長大好き」


「うん、私もほたるちゃんのことが大好きだよ」


 まったく、ぼっちにこんなにも優しく接してくるなんて委員長は鬼畜だ。

 すずりん杯は七月下旬で終わる。あと一か月でPとタレントの関係が解消されて他人になるというのに、これじゃその先も今みたいな関係で居られるんじゃないかと勘違いしてしまいそうになる。

 その夜、わたしは背中から委員長に抱きしめられてベッドに寝転がった。


「……ありがと委員長」


 首だけ捻り、わたしはすやすやと寝つく委員長の頬に唇を押し当てる。


「……っ!」


 三秒後、自分が無意識にした行為を自覚して羞恥で死にたくなった。なにしてるんだわたし……!

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