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無気力ぼっちの本気プロデュース  作者: 風戸輝斗


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第6話 ここで敢えての変化球

 放課後、わたしは委員長と外食していた。

 というのも、リスナーから「ひびきちゃんが辛いものを食べている動画が見たい」という要望が多数寄せられたからで。

 先日のアニメ同時視聴配信中に「私辛いのめっちゃ得意だから!」と委員長が鼻を高くしていたので、それを証明する動画をリスナーは見たいのだろう。はじめはセクハラの類かと勘繰ったけど、可愛い子が食べるは需要があるようなので要望を聞き入れることにした。

 そして選ばれた辛い料理は――


「まーらつたん?」


「惜しい。マーラータンって読むんだよ」


「全然惜しくなくない?」


 マーしか合ってないよ。

 麻辣湯と書いてマーラータン。……よし覚えた。同じ恥はかかないぞ。

 委員長曰く、イマドキの女子高生のトレンドは麻辣湯のようで、月に一度はこの店に足を運んでいるとのことだった。

 財布に割引券が入っていたのでその話に誇張はないのだろう。イマドキの女子高生であるわたしはそもそも麻辣湯って食べものを知りませんでしたけどね。

 店内にいるのは陽のオーラを放つ人ばかりで、やっぱりこれはキラキラ女子高生のトレンドですよねぇと陰キャな自分を胸のうちで非難していると、きゃぴきゃぴしたお姉さんが注文を取りにきた。


「いらっしゃいませ! 当店のご利用は初めてですか!?」


「はい、初めてです」


 迷わず委員長が答える。

 きっとわたしが麻辣湯初見でなにもわかっていないから、常連客なのに初来店を装ってくれたのだろう。気遣いできる委員長、イケメンすぎて好き。


「かしこまりました! では説明させていただきますね!」


 語尾にぜんぶ!がついていそうな元気のいいお姉さんだ。気圧されてわたしはずっとビクビクしてる。陽キャこわい。

 要約すると、辛さ、麺の種類、具材に至るまで自分で選べるのが麻辣湯の醍醐味ということだった。

 なるほど。こういう自分でカスタムできるの好きそうだなZ世代。同じZ世代のわたしはあらかじめ全部決まってるほうが助かるんだけどさ。


「それでは麺と辛さはどうされますか?」


「とうもろこし麺の8辛でお願いします」


「え、8辛ですか!?」


「はい。追加料金がかかることも承知の上ですのでお願いします」


「か、かしこまりました……!」


 動揺しつつ店員さんはペンを走らせている。

 辛さは1から8まで設定できる。おすすめは2辛と書いてあって、後ろにいるギャルのお姉さんが「3辛ヤバすぎてぴえん」と涙目になっていた。日本語が迷子だけど、涙目になるってことは相当に辛いのだろう。 

 改めてメニュー表に視線を滑らせる。『8辛は注文しない方が身のためです』って注意書きされてるけど、食べたら死ぬんじゃないのこれ。


「委員長、撮れ高とか気にせず自分が好きな辛さを選びなよ」


 YouTuberになってそこそこ日が経つため、委員長もエンターテイナーとして成熟しつつある。背伸びしているのならPとして止めねばなるまい。


「ん、自分が食べたい辛さを選んでるよ?」


 返事をする委員長はけろっとしていた。


「前から挑戦してみかったんだ8辛」


 言い方からするに、委員長も8辛は初めてなのだろう。どうしよう、ここは委員長の身を案じて止めるべきか。


「どれくらい辛いのかなぁ~」


 いや本人の目が輝いている。ここはやりたいようにやらせるべきだろう。わたしは食後に委員長が五体満足であることを神様に祈った。


「お客様はどうされますか!?」


「えと、とうもろこし麺の2辛でお願いします」


「承知しました! では食材を選んだらお呼びください!」


 食材コーナーには見慣れた野菜から未知の食材まで様々なものが並んでいた。

 委員長は慣れた手つきでボウルに食材を放り込んでいく。わたしは、ほうれん草とメンマとうずらの卵とラム肉をボウルに入れた。ラム肉だけが挑戦枠で、ほかは美味しいことが約束された安牌な枠だ。未知はこわいので臆してしまう。

 ボウルを店員さんに渡すと、支払い金額の書かれた伝票が渡された。食材1gごとに料金を算出してるなんて面白いな。ちなみに委員長の支払い金額はわたしの2倍近くあった。まぁボウルてんこ盛りだったし妥当かな。

 撮影準備のためカメラを調整していると、麻辣湯が運ばれてきた。


「お待たせしました! 8辛とうもろこし麺の麻辣湯です!」


 委員長の前に置かれた厚底の容器にはマグマが入っていた。え、これ人間が食べて大丈夫なやつなの? 

 ほのかに湯気が漂ってくる。


「けふけふっ」


 それだけでわたしは大きく蒸せてしまった。湯気の時点で辛いとかそんなアホな。


「い、委員長、これはさすがに無理なんじゃ……」


「おいしそう……」


 箸とスプーンを持つ委員長の瞳は爛々と輝いていた。口から少し涎が垂れている。……おいしそう、なのか?

 スプーンでマグマみたいなスープをすくって、ごくんと飲み干す。委員長は瞳から涙を流しつつ恍惚の笑みを浮かべた。


「痛くて熱くて染みる~」


「……」


 漏れなくすべて負の領域にある感想では? 

 ……まぁそういう楽しみ方もあるか。きっとわたしの世界が狭いだけだ。知見の浅いぼっちでごめんなさい。

 感情を殺して動画撮影を開始する。

 委員長は髪を耳にかけ、ふーふー麵を冷まして口に運んでは涙を流して喜びを露わにしている。

 どうやら辛いものが得意だという委員長の言葉に嘘はないようだ。疑われないように容器の中もしっかり撮影しなきゃね。……う、辛い湯気が鼻の中にぃぃ!


「お待たせしました! 2辛とうもろこし麺の麻辣湯です!」


 少ししてわたしの分が運ばれてきた。スープの赤が目立つけど、委員長が食べてる真紅と比べたら全然って感じである。

 撮影を一時中断して手を合わせる。


「いただきます」


「ほたるちゃんも気に入ってくれるといいな」


 わたしは辛いのが苦手だ。だけど、麻辣湯はその辛さに魅力があるようなので、背を伸ばして辛いものに挑戦してみた。委員長のおすすめ料理だから、その魅力を最大限味わいたいと思ったのだ。

 ラム肉と思しきものと麺を箸でつまみ、えぇいままよと口に運ぶ。


「っ!」


 噛み締めた瞬間、口のなかをぴりぴりした感覚が突き抜けた。

 辛いというか、もはや痛い! 美味しいけども! わたしはきゅもきゅ高速で咀嚼して飲み下し、ごくごくと水を飲む。


「ぷぁ。……え、2辛でこんな辛いの? 委員長の8辛って激ヤバじゃね?」


「一口食べる?」


 そう訊ねてくる委員長は、箸で麺をつまみこちらに伸ばしていた。所謂あ~んをする前の体勢である。


「いただきます」


 委員長のあ~んを無碍にできるわけがないでしょうよ。

 そうやって迷わず麺を口に含んだわたしが地獄を見たのは言うまでもないだろう。割とガチで舌が麻痺するレベルだった。

 舌が落ちついてきたところでわたしは麻辣湯に手をつける。相変わらず辛いけど、委員長のが辛すぎたから、さっきよりもスムーズに食べることができた。

 食べ終わる頃にはなんだかピリッとした感覚が恋しくなっていて、辛さに悶えることになるとわかっているのにスープを飲んでしまった。麻辣湯の魅力を少しだけ理解できた気がした。


「ふぅ。ご馳走様でした」


「おいしかったね」


 微笑みかけてくる委員長の容器は空っぽになっている。……あれって飲んで平気なやつなのか?


「辛いもの食べたら甘いものが食べたくなっちゃったね。帰りにクレープでも買っていこうよ」


「……そだね」


 味覚がおかしくならないのかな。

 そんな疑問を呑み込み、委員長に先導されるがままにクレープ店に足を運ぶ。委員長は期間限定のトッピング盛り盛りクレープを頼んでいた。


「おいしい~」


 頬にホイップをつけて、ぱくぱくクレープを食べている。

 その時、天啓が降りてきた。わたしの直感がこの食事風景を撮影すべきだと言っている。

 撮影開始。カメラがまわっていることに気づくと、委員長はこちらにVサインを向けてきた。


「ぶいっ」


 すごく可愛い。これサムネにしよ。

 帰宅後、編集してYouTubeにアップロードした麻辣湯食べてみた動画は、アニメ関連の動画よりも初動の伸びが良かった。


「もうすっかりみんなの人気者だね」


 画面の中でVサインする委員長にVサインを返し、わたしはひびきちゃんのVのアバターの最終調整に取りかかる。V祭りだ。


【すずりん】麻辣湯おいしそう……


 そうやって作業に夢中になっていたから、麻辣湯食べてみた動画にすずりんからコメントが入っていることには翌朝になってから気づいた。


「お、推しがわたしたちを認知しとる……!」


 起きて早々に驚きで卒倒しかける。

 動画投稿をはじめてから二週間。いよいよすずりん杯でのコラボ権獲得が現実味を帯びてきた。

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