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無気力ぼっちの本気プロデュース  作者: 風戸輝斗


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4/7

第4話 陰キャは嘘に敏感

 学校にいる間もYouTubeに投稿した動画が気になって全然授業に集中できなかった。

 見たところでなにか変わるわけじゃないってわかっているけど、どうしても気になる。休み時間にこっそりYouTubeを開くたびに、チャンネル登録者数と再生数は増え続けていた。

 そんな風にPたるわたしがソワソワしている一方で、委員長はいつも通り過ごしていた。さすが委員長、これくらいのことでは動じませんってか。

 そう尊敬していたけど、どうやら純粋に気づいていないだけのようだった。

 帰り道、ひびきチャンネルを開いた委員長は目を真ん丸にしていた。


「15000再生!?」


「チャンネル登録者数はもうすぐ5000人。まさか自己紹介動画だけでこんな伸びちゃうなんてね。動画でアニメやゲームに関連した配信をするって言ってる手前、しばらくはそこにフォーカスしなきゃだけど、リスナーが委員長の虜になりはじめたら敢えて関係ない動画を出すのも手かも」


「次、ティーバッグがぽたぽたしなくなる動画あげたら再生数7超えるかな?」


「余裕で超えるだろうけど、それをメインにして一本ってのは厳しいかな」


「そっか。リベンジしたかったんだけどなぁ」


 ちょっと悔しそうな委員長である。

 どうやら再生回数7回は委員長の心に深い傷を負わせたようだ。今は難しいけど、ゆくゆくはYouTubeショートの方でリメイク版の動画をアップロードしてみよう。撮影の裏側みたいな扱いにすれば、コンセプトから外れてても許してもらえるだろう。

 動画のこととか、今日の授業のこととか話しているうちに、高層マンションの五階の角部屋、わたしの家に到着する。暗証番号を打ち込み部屋の鍵を解除する。


「どうぞお上がりください」


「昨日に引き続きお邪魔します」


 律儀にあいさつし、靴をしっかり揃えていて委員長らしいなと思う。撮影部屋に入ると、委員長は「えっ」と驚きの声をあげた。ふふ、いい反応。


「撮影機材もう届いたの?」


「わたしプライム会員なので」


 とはいえ即日発送なのとそうじゃないものがあるから、委員長のプロデューサーに就任した当日に、即日発送のものを選んで注文しておいた。優秀な機材がぜんぶ即日発送になっててすごく助かりました。☆5。

 カメラ。マイク。その場凌ぎではあるけど、ちゃんと起動するわたしのお下がりのノートPC。椅子と机。真っ白な壁には、あざとく「目指せすずりんコラボ!」と書かれた垂れ幕を下げておいた。あそこに下げておけば、動画撮影の際にいつも映る。やりすぎな気もするけど、まぁアピールしすぎるくらいでちょうどいいだろう。


「これぜんぶ私が帰ってからほたるちゃんひとりで準備したの?」


「そだよ。YouTubeめっちゃ伸びててドーパミンどぱどぱ出たからその勢いでブワーって」


「ありがとう」


 身体が温もりにつつまれる。少し遅れて委員長がハグしてきたんだって理解した。


「委員長、あったかくていいにおいがする」


「ほたるちゃんもあたたかくていいにおいがするよ。これだけ準備するの大変だったでしょ? お金もすごくかかったでしょ? ほたるちゃんは私にどうしてここまでしてくれるの?」


「言ったはずだよ。本気でプロデュースするって。あとは委員長がメリットも無いのにわたしに放課後の時間を割いてくれたからその恩返し。ごめん、自己完結してて伝えてなかったね」


 伝えるべき言葉を省きすぎてしまうのは、ぼっちに共通する悪いくせである。


「メリットは充分すぎるくらいにあったんだけどなぁ」


「ん、さては担任からお小遣い貰ってた?」


「お小遣い制でいやいや勉強を教えてたわけじゃないよ。なんにせよ、ここまでお膳立てされた以上はなんとしても目標を達成しなくちゃいけなくなったね」


 委員長はわたしの手を恭しくつかみ、そして手の甲に口づけを落としてきた。


「必ず、すずりん杯でコラボ権を勝ち取るからね、プロデューサーさん」


「……う、うん」


 え、委員長今、わたしの手にちゅーしてきたよね? 

 委員長は顔を赤らめて幸せそうに笑っている。どうしてちゅーしてきたのかはわからないけど、委員長が笑ってるならいいか。

 なんでちゅーしてきたの? と聞く勇気はもちろんないので、細かいことを考えるのはやめた。



 ◇



 ひびきチャンネルのふたつ目の動画はアニメ同時視聴配信にすることにした。

 委員長がまったくアニメを知らないと証明する。証明して視聴者からの信頼を得る。かつリアルタイムで交流することができる。

 いろいろ踏まえて生配信を選択した。強いて不安要素があるとすれば、委員長がリアルタイムで飛んでくるコメントに対応できるかどうかくらいだ。

 同時視聴という特質上、あまり早くに配信しすぎると視聴者が集まらない可能性があるので、19時30分というゴールデンタイムを狙って一時間の生配信をすることにする。

 それまでの時間は、委員長と勉強して、委員長と夕飯を済ませた。いつも夕飯はインスタント食品で済ませてるって言ったら割とガチで説教されて、明日は帰りにスーパーで食材を買っていこうということになった。えへへ委員長とお買いものデートだぁ。


「これから私が夕飯つくってあげるからインスタント食品は禁止ね」


「え、そこまでしてくれるの? さてはこれ、いっしょに暮らそうって言ったら暮らしてくれる流れ?」


「う~ん、そうしたいのはやまやまだけど現実的に難しいから週末に泊まるが限度かな」


「そうしたいのはやまやま?」


「っ! い、今のは聞かなかったことにして! いっしょにお風呂入りたいっていうのも!」


「後半のやつは聞いてないけども」


 顔を真っ赤にして手をぶんぶんしてる委員長可愛すぎるでしょ。いつも凛としててカッコ可愛いって感じなのに、こんな幼い一面まで備えてるとか全局面で可愛いチートやん。

 そして配信の時間がやってきた。


「委員長準備はいい?」


「うん、ばっちり」


 気負った気配は全然感じられなかった。きっと委員長には元から配信者としての素養が備わっているのだろう。大勢の人の目に晒されてもいつも通りでいられるという素養が。


「じゃはじめるよ」


 動画の概要の説明も、コメントが飛んできた時の対応の説明も済ませている。委員長はわかったと頷いていた。この後、わたしにできるのは撮影に問題がないか確認することだけだ。

 3・2・1――19時30分になる。


「おはひびび~! みんな夜遅くにわたしの配信に集まってくれてありがと~!」


【おひひびび~! 非公開になってるティーバッグぽたぽたしない回からファンです。引き続き応援しています。いっしょにすずりん杯で結果を出せるように頑張りましょう!】

【早速ですが結婚しませんか】


 はい、セクハラコメントブロック。絶対来るだろうなとは思ってたけど、まさか開始早々来るとは。

 てか一発目にコメント送ってきた人のユーザー名、委員長が顔出しする前から動画にコメント送ってくれてたガチ古参じゃん。この人は多少過激発言があっても見逃してあげよう。

 同時接続数は500人ちょっと。

 最前線にいるVTuberとかと比較したら全然だけど、駆け出しYouTuberの初生配信としてみれば驚異的な数値だ。コメントも結構な速さで流れている。


「年齢はおいくつですか。……ふふ、それは秘密です♪」


 お茶目に答え、委員長はウインクを飛ばす。たぶんメッセージの送り主はキュン死してるだろうな。

 好意的かあるいは反応することでリスナーが喜びそうなコメントが来たら反応するようにと委員長には伝えている。言わずと委員長は学習能力が高い。コメント欄の反応をみれば、どういった反応がリスナーのこころをくすぐるのかおおよそ掴めるはずだ。

 委員長がヘッドフォンを装着する。


「じゃ虚滅の刃の一話見ていこうと思います。虚を滅ぼすで虚滅か。これってさては結構過激な描写があるやつかな。私、スプラッター系統の作品ダメなんだよね……」


【お手本のような前振りで草】

【さすがに演技がすぎて冷める】


 来たなアンチっぽいコメント。

 虚滅の刃もVoundyも知らないというのは信じるには無理のある話だ。きっと視聴者の大多数も、これはYouTuberとして活動するひびきというキャラクターを作るための要素だと思っていることだろう。

 それでいい。


「え、この背景って実写じゃないよね? というか冒頭からめっちゃ不穏じゃん。待って待って。これ誰も死なないよね? いやタイトル的に虚? ってのは殺めてそうだけども!」


【これひびきちゃん、マジ初見説ある?】


「わ~、兄弟いっぱいいてたのしそ~。あ、そういえば私も妹がひとりいるんだ。あの子もちっちゃい頃はこの子たちみたいに無邪気だったんだよねぇ。この子、名前なんて言うんだろ?」


【絶対推しちゃいけないキャラ推そうとしてて草】


 この動画を見に来てる層は、きっとわたしみたいな陰キャが多いと思う。そして陰キャは、嘘に敏感だ。繕っていればすぐに見抜ける。

 その厄介な性質は、裏を返せば、ひびきちゃんがありのままであれば、なにもせずとも繕っていないと証明できるいうことである。その証拠にコメント欄にアンチコメント浮かび上がることはなくなった。よしよし、計画通り。


「ぎゃあああ!? え、ちょ、ま、スプラッターないってみんな言ったじゃんかぁ!」


【スプラッターではないんよ】

【ひびきちゃん、ガチで虚滅初見じゃんこれ】


 うん、みんなすっかり委員長の話を信じはじめてる。

 こうなればこっちのものだ。委員長のリアクションは、新鮮かつバリエーション豊富で見ていて飽きない。演技してるんじゃないかという疑りのフィルターを外して眺める委員長は、きっと輝いててちょっぴり滑稽で見ていて楽しいはずだ。


「あ~、こわかったぁ。けど、すごくおもしろいね! これこのまま二話まで見ていい?」


 わたしは頭の上にバッテンをつくった。


「あ、ダメかぁ。じゃ続きはまた後日配信するね。……ん、なんかひとつだけ強調されてるコメントが届いてるけどこれなに?」


 マジか。スパチャ入ってるじゃん。


「なになに、そこに書かれてる金額がチャンネルに入る投げ銭機能です。え、うれし~、すぱちゃ? してくれてありがと~! これからも週一でも構わないので生配信あったら助かります。承知しました! この後ほたるちゃんに相談しておきます!」


「ちょ、わたしの名前……!」


「あ……」


【ほたるちゃんって誰?】

【名前的にちっちゃそうな気がする】


「……あ~、また今度紹介します! それじゃ今日はみんな配信に来てくれてありがとね! それじゃおやひびび~」


【おやひびびー】

【おやすみなさい】

【次回、ほたるちゃん参戦期待してます】


 期待しないで。

 動画配信を終了し、ふぅと息をつく。委員長は怒られる前の子どものような顔でわたしを見つめていた。


「ごめんなさい、名前出しちゃって」


「いいよいいよ。けど、学校名出したりとか年齢明かしたりとかそういうのは気をつけようね」


「はい、気をつけます」


 しょんぼりしている。いつだってみんなを先導する委員長がわたしの注意を真に受けているのがなんだかおもしろくてわたしは吹き出してしまった。

 この配信の後、チャンネル登録者数は7000人に膨れ上がった。コメント欄は委員長を賞賛するものばかりで、その中に「ほたるちゃんも声だけでもいいので参加してほしいです」という要望があって、それは有りかもなと思った。

 配信中、わたしはずっと無言っていうのも寂しいし。それにわたしの声掛けでもっと委員長の魅力を引き出せる自信もあるし。要検討。

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