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無気力ぼっちの本気プロデュース  作者: 風戸輝斗


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第3話 けっきょく世の中顔

 ひとり暮らしの女子高生に1LDKの部屋は広すぎて、洋室のひとつはがらんどうになっている。

 その部屋を配信用の部屋にすることにした。確認してみたらどうやら防音仕様らしくて、さてはこうなる運命にあったのかな、なんて思った。


「今はちゃぶ台しか無い寂しい部屋だけど、これからどんどん設備拡張していく予定だから今日のところはこれでお許しを」


「それは全然問題ないけど……」


 委員長は頻りに部屋に目を配っている。

 マンガとかだと女の子の家の内装はパステルカラーだとか、アロマディフューザーの香りが漂ってるだとか表現されてるけど、わたしの部屋は無味香料の無添加状態だ。生活に必要最低限のものしかない。

 今は、だけども。


「ほたるちゃんの部屋、全然モノがないね」


「まぁ時代はミニマリズムですので。マンガとかラノベもネット購入で済ませてるし。今の時代、パソコンとタブレットさえありゃあ無敵なんよ」


「ミニマリズムだなんて意識高いなぁ。私、これまでたくさん友達の家にお邪魔してきたけど、ここまで清潔感のある部屋は初めてだよ。きっと毎日掃除してるんだよね。ほたるちゃんすごいや」


「そ、そう?」


 掃除は月一でしてるかしていないかだという真実を呑み込み、わたしは委員長からのお褒めの言葉を頂戴して浮かれた。人生、都合よく物事を解釈してなんぼだと思うのです。

 今日がゴミ回収日で助かった。もし大切なものを誤って捨てちゃってたら後で買い足そう。両親が過剰に振り込みしてくるからお金はたんまりあるので。


「じゃ早速本題に入ろうか」


 わたしは座布団の上に腰を下ろし、腕を組みどっしりと胡坐をかいて構える。委員長はしゃんと背筋の伸びた正座でわたしを見つめていた。もはや姿勢が美少女な件。


「まず委員長の最終目標から確認していこう。すずりん杯でコラボ権を獲得する。ここが到達目標であることは間違いないね?」


「うん、その通りだよ」


「おけ。じゃすずりんの動画を見てる客層が求めてるものと委員長の出してる動画のコンセプトが全然合ってないってところから説明しよう。すずりんがアニメの感想とかを日頃配信してるってことはもちろん知ってるよね?」


「ごめん、知らない」


「はぇ?」


 想定外の部分で躓いたものだから変な声を出してしまった。


「知らないって……え、じゃあなんですずりん杯に参加しようと思ったの?」


「たまたま鈴香りんかの部屋からその話が聞こえてきたからこの好機を逃すわけにはいかないなって思って」


「鈴香って誰?」


「ん、あぁ妹の名前だよ。私たちと同じ高校に通ってる高校一年生」


「ほぅん。道理で面倒見がいいと思ったら妹がいたんだ」


 響香と鈴香か。どっちも音を連想させる綺麗な名前してんな。


「それで好機とは?」


「鈴香と仲直りする好機」


 なるほど。

 つまり、委員長の妹さんが大のすずりん好きで、その妹さんにコラボ権を譲渡して仲直りしようとしてるってわけだ。たぶんこの解釈で合ってるはず。ぼっちは会話を最小限にしたいがために、行間を読む能力に長けてるっていう特徴があるのだよ。


「ちなみにすずりんの動画を見たことはある?」


「鈴香に見るなって言われてるから見てない」


「いや真面目か」


 破れよそんな約束。てか、妹さんもなんですずりん視聴制限掛けてるんだよ。あれか、嫌いな人には好きなものを見て欲しくないとかいう思春期のよくわからん衝動か。

 断言しよう。委員長の妹は、今思春期真っ盛りで委員長を嫌ってるふりをしてるだけだ。わたしの勘がそう言ってる。


「そうなってくると、ターゲット層がズレちゃうのもしょうがないかぁ。前提として、#すずりん杯の動画を見にくる層は、すずりんを好いてる視聴者である確率が高い。そうなると視聴者はすずりんを彷彿とさせる動画を期待してる。つまりわたしたちが注目を浴びるためには、アニメやゲーム関連の動画を配信するのがもっとも手っ取り早いってわけさ」


「あのほたるちゃんがすごく理に適ったことを言ってる……。確かにその通りだね。アニメの感想動画見たい~って人が世界史の年号の覚え方解説に目を向けるわけないもんね」


「うん、そゆこと」


 すごく初歩的なことだけど、ネット世界とのかかわりがほとんど無かった委員長にしてみれば新しい視点なのだろう。


「ほたるちゃんはネットに詳しくて頼もしいね」


「ふふん、せやろ?」


 委員長に尊敬のまなざしを注がれて気分が良くなる。まかせろ二次元ならわたしは最強だ。Wadoになって負けないぜ。私はさい……ごめんそれは言い過ぎた。


「とはいえ、よくわからんやつがアニメの感想を語っててもなんも感じない。ここで委員長が持ってるSSS級の武器を使おう」


「というと?」


「抵抗が無ければ顔出しで配信しよう。委員長はめちゃくちゃ可愛いから、たぶんそれだけである程度リスナーがついてくる」


「うん、わかった」


「あ、そんなあっさり」


 ここが一番の難所だと思ってたんだけどな。


「えへへ、ほたるちゃん私のことそんなに可愛いと思ってくれてるんだ?」


「いやわたしに限らず全会一致で委員長はSSS級美少女だと思うよ。てか、そんなすんなりOKしてくれるんだ。ちなみにこれまで顔出ししてなかったのはどうして?」


「個人撮影だからうまく撮影できなくてね。ならいっそ無いほうがいいかって諦めてた」


「なるほど。そりゃどうしようもないですのぅ」


 他にも改善の余地がある部分はたくさんあるけど、一気に話して一気に直すのは不可能だ。

 少しずつ着実に変えていこう。幸いにもすずりん杯の開催期間はまだ一か月もある。


「説明も済んだし、動画まわしていこうか」


 本格的な撮影機材はまだ届いていないので、今日のところはスマホで動画を撮影し、それをパソコンで編集してアップロードすることにする。まぁ最近のスマホは高性能だから、目も当てられないほどに画質の悪い動画になるってこともないだろうし。

 必死に頑張っていた委員長には申し訳ないけど、これまでにアップロードした動画は一括非公開にして、自己紹介動画から始めることにする。

 わたしの用意したスケッチブックを見つめ、委員長は首を傾げた。


「ひびきって私のことだよね?」


「そ。委員長のタレント名。馬鹿正直に響香ちゃんって名乗るのもあれだから、わたしがそれっぽいのを考えといた。自己紹介文はまんまそこに書いてある通りに読んでくれてもいいし、大枠さえ満たしてくれれば委員長なりのアレンジを加えて読んでくれてもいいよ」


「じゃ、ほたるちゃんが用意してくれた通りに読むよ。うん、覚えた」


「え、もう?」


 結構長い文章なんだけど。

 だけど、委員長が覚えたというのなら覚えているのだろう。委員長は高スペックなので、そもそもわたしの尺度で考えるのがまちがってる。


「それじゃいくよ」


「は~い」


 うぅなんだか緊張してきた。


「3――」

 ここからわたしと委員長の――ひびきチャンネルの物語がはじまる。


「2――」

 自信満々にプロデュースするとは言ったけど、わたしは所詮二次元に詳しいだけのオタクだ。こうすればいいんじゃないかって予感こそあれど、こうやればうまくいくっていう実体験に基づく確証は持っていない。この動画の再生数がまわらず爆死する未来だって全然あり得る。


「1――」

 神様、どうか委員長の願いを叶えてあげてください。

 この期に及んで最後の最後で神頼みとは我ながら情けないなぁと思いつつ、わたしは震える指先をスマホに押し当てる。


「アクション!」




「おはひびび~! アニメミリしら駆け出しYouTuberのひびきです!」




 ぞわぞわっと背筋が粟立つ。

 まだ第一声だ。だけど、その自信に満ち満ちした第一声を聞いてわたしは確信した。

 ――これは伸びる。


「こんなこと言ったらみんな誇張してるだろってツッコんでくるかもしれないけど、私ほんっとうに虚滅の刃もVoundyも知らないんだよね。だからこれから配信をする中でみんなと関わりながらアニメとかゲームのことを知っていきたいなって思っています!」


 目線、表情、声色。ぜんぶ完璧だ。まるで自分ひとりに語り掛けてきているような、そんな錯覚さえ覚える。

 わたしの方で準備が整い次第、Vのアバターを中心軸にして配信をしていく予定だから、委員長が顔出しNGだったら実写は無しでいこうと思ったけど。

 こりゃ想定以上だ。素体が強すぎる。


「すずりんとコラボするのが最終目標だからみんな応援よろしくね! 明日から毎日投稿するのでぜひ気軽に遊びにきてください! それじゃチャンネル登録よろしくお願いします! ではでは次の動画で!」


 撮影を終了する。

 ふぅと息をつき、不安げな面持ちをする委員長に、わたしはグッとサムズアップして言った。


「百億点」


「よ、よかったぁ~」


「待ってね、サクっと動画編集済ませるから」


 五分ほどで編集が完了する。


「編集作業ってこんな早く終わるものなの?」


「わからん。まぁわたしこういうの得意だから遅いよりは良きでしょう」


 最終確認を済ませたところで『ひびきチャンネル』に動画をアップロードする。


「あぁドキドキする。みんな気づいてくれるかな?」


「わたしのXで拡散しとくよ」


 実はわたし、Xのフォロワーが5000人近くいる。高一の頃から頻繁に推しのVのつぶやきをしていたら同じ趣味を持つフォロワーが爆増していたのである。

 フォロワーさん、どうかうちのひびきを拡散してください。


「あとはなるようになるって感じかな。明日から本格的に撮影はじめると帰りが遅くなっちゃうかもだけど、委員長門限とか大丈夫そう?」


「うん、パパもママも放任主義だから問題ないよ」


「へぇ意外」


 委員長、両親のことパパとママって呼んでるんだ。可愛いくていいと思います。


「じゃ今日のところはお開きってことで」


「わかった。なにからなにまでありがとうねほたるちゃん!」


 ありがとう、か。日中、誰かにそうやって感謝されることが無いから、慣れない言葉に顔を火照らせてしまう。チョロいなわたし。


「いやいや、わたしは企画して撮って編集して拡散してるだけなので」


「はは、全部やってるじゃん」


 言われてみればそうだ。だけど、委員長のためと思えば頑張り過ぎるのも全然苦じゃない。今日も徹夜して動画の勉強がんばろう。

 委員長が帰宅してひとりになる。勉強をサクっと済ませて、雑に夕飯とお風呂を済ませて、動画の勉強をして、いつの間にか寝落ちして……


「……ん?」


 意識が浮上したのはお日様が寝つく深夜のこと。

 寝惚け眼を擦りつつ手に取ったスマホには大量の通知が届いていた。すべて矛先は『ひびきチャンネル』に向いている。

 画面をタップし、わたしは頬をゆるめた。


「けっきょく世の中顔ってことですか」


 ひびきチャンネル。

 総動画数1。

 チャンネル登録者数2122人。

 自己紹介動画の再生数はまもなく一万回を超えようとしている。


「こりゃマジですずりん杯でコラボ権勝ち取れちゃうかもな」


 気持ちが昂ってすっかり目を覚ましたわたしは、Amazoonから届いた撮影機材を組み立て次の動画の撮影に備えることにした。

 委員長の願いが叶って、推しと会える可能性もあるとなったら、さすがのわたしも極限まで頑張っちゃうよね。どこにいった無気力なわたし。

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