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無気力ぼっちの本気プロデュース  作者: 風戸輝斗


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第2話 ぼっちなわたしと人気者の委員長

 委員長は常に誰かと接している。

 勉強に関する話をしていることが多いけど、ほかにも趣味の話だったり人間関係の話だったりと、様々な話題を振られている。

 遠巻きに話を聞いている感じ、委員長は流行に乗り遅れていて、話についていけていないことが多い。それでも頻繁に話しかけられているのは、委員長が聞き上手であるため、話している側は楽しいからだろう。

 やっぱコミュ強だよな委員長。なにしろクラスで唯一このわたしと関係を築けているわけだし。


「響香ちゃん、いっしょにお手洗い行こうよ」


「もうしょうがないなぁ」


 でました、委員長の口癖しょうがないなぁ。それはともかく、トイレはひとりで行きましょうよ前田さん。どうせ個室に入るんだし。

 相手に合わせてばかり。笑ってばかり。

 その生き方は大変じゃないかなぁと思うけども、そうすると決めたのは委員長なので、わたしからどうこう言うのはお門違いだろう。負担になってないかなって気に掛けてるのはわたしだけで、本人は全然平気ってパターンもあり得るし。いらぬお節介は反って迷惑なんよ。

 委員長が教室に戻ってくる。出し抜けに委員長がわたしを見やってきて視線がぶつかった。

 あ、気まずいやつ。

 じわじわと焦りと罪悪感に駆られる。いやべつに悪いことはしてないんだけども、この時間ってなんか気まずくない?

 いよいよ額に冷や汗が浮かびはじめた折、委員長はひらひらと微笑み混じりに手を振ってきた。

 柔らかな対応に肩の荷が下りる。

 人気者の委員長と、日陰者でぼっちのわたし。そんな客観的レッテルを意識して日中わたしから話しかけることは躊躇ってしまうけど、委員長はその壁を易々と乗り越えてわたしに関わってくる。控えめにいってすごく嬉しい。ますます好きになる。

 恥ずかしいなと思いつつも、無視するのはあんまりだよなと思って、わたしは小さく手を振り返す。委員長は微笑みを濃くした。

 お昼は自認ぼっちに恥じない孤食で済ませる。その後、五限、六限と続き、帰りのショートホームルームが終わってお開きとなる。

 疲れたぁ~。

 倦怠感がいつもより強く圧し掛かっているのは、昨夜遅くまで作業していたため、睡眠時間が削られているからだろう。

 中学生の頃は5時間睡眠でも余裕だったけど、高二の今はしんどいな。もう一日試してダメそうなら6時間睡眠にしよう。オーバーワークは毒です。

 背もたれに体重を預けてぐでっとしていると、逆さまになった視界に整った顔が飛び込んできた。


「すごい疲れた顔してるけど大丈夫?」


「うおっ!?」


 驚いて椅子から転げ落ちそうなる。委員長が慌てて支えてくれたおかげで事なきを得た。


「あぶなかったぁ。ごめんねびっくりさせるつもりはなかったんだけど」


「いやいや委員長が謝ることはないよ。油断しきってたわたしが悪い」


 教室でクラスメイトに迫られることも話しかけられることもまずないので、たまに話しかけられると過剰なまでに驚いてしまうのである。

 たぶんこれ、わたしみたいな友達がいないぼっちの宿命だと思う。なんかもう生物的に弱いよね。たまに生きてて申し訳なくなる。


「ふふ、またひとつ、ほたるちゃんの可愛い顔が見れちゃった」


 勝手に沈んでいたわたしだけど、委員長の満足げな笑みを見て気持ちが晴れる。

 マジか、わたしの呆けた顔ひとつでこんな笑顔もらっていいんですか。3円のレジ袋と高級ポシェットを交換した気分だぜ。


「今日は随分とお疲れだね。さてはちゃんと真面目に授業受けてたのかな?」


「そだね。こんなちゃんと授業受けたのは高校入って初かも」


 基本、目を開けてペンを持ってはいるけど他事を考えているので。


「これ昨日出された課題」


 リュックサックからノートを取り出して委員長に渡す。ぺらぺらとページをめくるにつれて、委員長の表情が険しくなる。


「ほんとに音無ほたるちゃん?」


「ほんとに音無ほたるちゃんです」


 そりゃまぁこれまで学習意欲皆無だった子が、突然真面目に授業受けたり、率先して課題を済ませてきたりしたら驚くのも無理ないか。

 わたしは椅子から立ち上がり、委員長の手首を両手でつかんで、手のひらを頭に乗せた。


「頑張ったからご褒美」


 委員長から出された課題を終わらせるたびに、ご褒美として頭を撫でてもらっている。いつもは終了と同時に撫でてもらっているけど、先んじて終了させた今回もその制度は有効であるはずだ。というか有効じゃなきゃ困る。この時間欲しさに頑張ってるから。

 委員長は、ふっと笑って手のひらをゆっくりと動かした。


「ちゃんと勉強できてえらいね」


 あぁ心地良くて死ねる。

 ちょっとだけ答えを見ちゃったけど、どうやらバレていないみたいだ。真実の中にちょっぴり嘘を混ぜる。昨夜、課題に着手する前に読んだギャンブルマンガから得た教訓を生かして正解だったぜ。今後もこの方向でいこう。


「顎もさすってくれたらうれしい」


「はいはい。ほたるちゃんはお犬さんみたいですね」


 犬でも猫でも委員長に甘やかされるならなんでもいいよ。あぁ気持ちいい~。

 中学までは頑張っても親に褒めて貰えなかった。その反動で、わたしは委員長に甘やかされる時間の虜になっているんだと思う。わたしに優しい委員長大好き。


「よし充電完了。それじゃこれからわたしの家で動画撮影しよう」


「え、ほたるちゃんの家で撮影するの?」


「安心して。ごみ屋敷じゃないよ」


「そこを懸念したわけじゃないけど」


 少し間をおいて委員長が訊ねてくる。


「親御さんの迷惑にならないかな? 動画撮影するってことは配慮させちゃうわけだし」


「親は別居してる」


 端的に答えて委員長の手を優しく握る。わ、やわらか。


「これからバリバリ活動してもらうから覚悟してね、タレントさん」


「……うん」


 なにか言いたげにしつつも、委員長が質問を投げてくることはなかった。

 そりゃ気遣っちゃうか。普通じゃないもんね、親と別々に暮らしてる女子高生なんてさ。

 けど、おかげで動画の撮影場所が確保できたから、不謹慎だけどここまで人生うまくいかなくて良かったなってわたしは思ってる。わたしの不幸を踏み台にして委員長の幸運が築かれるのなら悪い気はしないぜ。

 基本誰の役にも立てないから、役に立てると嬉しいんだよな。

 ご奉仕して心地良く感じるのは、わたしみたいなぼっちも同じなのである。

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