第18話 すずりん杯で勝つために
ぶっちゃけすずりん杯でひびきチャンネルが負けることはほぼないだろう。理由は明確。お姉ちゃん大好きっ子のすずりんがこの絶好のチャンスを見逃すはずがないから。
ほな残りの配信動画は手を抜いてもいいか……とはならず。
半ば勝利が確定しているからこそ、重圧は大きく、モチベーションは滾っている。
「すずりんもひびきちゃんも活かす企画か」
授業そっちの気で放課後に備えてペンを走らせる。
来週に前期末テストが迫っててなかなかに大事な授業をしているけど、それよりも今優先すべきはすずりんだ。わたしの将来はどうでもいいけど、わたしが手を抜いたせいですずりんの企画が失敗したら困る。
すずりん杯は、#すずりん杯がついた動画の中から、すずりんが惹かれた動画を選び、その企画を動画主とコラボして配信するというイベントである。
つまり、わたしの企画がそのままひびきちゃんとすずりんのコラボ動画になるのである。
安直にいくべきだろうか。それとも奇抜なことをするべきだろうか。
普段はたくさん浮かぶアイデアの中からもっとも受けが良さそうな企画を選んでるけど、今回に関してはそもそもアイデアが浮かんでこない。
そんな時間がお昼休憩まで続いたので、いよいよわたしは奥の手を使うことにした。
【ほたる】突然のご連絡すみません。動画配信のことで相談があります。お忙しい中恐縮ではありますが、お時間ある時に下記質問にお答えいただけますでしょうか?
・トレンドと独創性ならどちらを優先すべきですか?
・企画が浮かばない時はどうされていますか?
・伸びる動画ってどんな動画ですか?
長文メッセージを送った先は、ここ最近で増えた連絡先のひとつ、双子玉川うずらちゃんこと一ノ瀬さんのLINEである。もし配信で困ったことがあったら連絡してください、と連絡先を伝えられていたので早速活用することにした。
教室の隅で響香ちゃんが早起きして作ってくれたお弁当を黙々と食べていると、スマホがぶーと震えた。なんと早くも一ノ瀬さんから返事が入っていた。なんたるレスポンスの速さ。
【一ノ瀬由利】ご連絡ありがとうございます。上から語れるほど実績は持ち合わせていませんが、私なりの回答をさせて頂くのでよろしければご活用ください。
・トレンドと独創性ならどちらを優先すべきですか?
→再生数をまわしたいならトレンド優先です。ただし完全パクリはダメです。
・企画が浮かばない時はどうされていますか?
→好きなVTuberの動画を思い返し、あの動画のここが面白かったなと要素を抽出し、自分が面白いと思うことを研究します。
・伸びる動画ってどんな動画ですか?
→私も知りたいです。ただ、著しい情熱が注がれたものが評価されていることは確かだと思います。
なんて律儀な人なんだろう。わたしの中で元から高かった一ノ瀬さんの株がさらに高くなった。推しという次元を超えてもはや師として仰ぎたい。
やはりトレンドの意識は必須のようだ。好きなVTuberの面白かったところ……意表を突かれたときのすずりんの反応が好きだな。ま、本気の作品が評価されるのは妥当だよね。
「……見えてきた」
情報を整理する中でひとつ良さそうな企画が思い浮かぶ。
よし、今日の配信はこれでいこう。午後の授業も受けてるふりをして、わたしは企画を固めることに集中する。
◇
「おはひびび~! みんな今日も配信に来てくれてありがと~!」
二日ぶりのVのひびきちゃんの生配信には、たくさんのリスナーが集まってくれている。
ひびきちゃん見たさが食指を動かすもっとも大きな要因とはいえ、企画がつまらなければこうもコメントで盛り上がりはしないだろう。
ま、今回の企画は誰がやってもある程度、盛り上がるやつだし。
「今日の企画は――『常闇の日々』初見プレイしてみた! ……ところでほたるちゃん、これってどんなゲームなの?」
「やればわかるよ」
【常日知らんは安定のひびきちゃんムーブ】
【てか、ホラゲー配信は今回が初めてなのでは?】
はい、初めてです。
『常闇の日々』――通称『常日々』は、かなり知名度のある同人ホラーゲームである。
冒頭はメイド喫茶でのほのぼのした展開が続くけど、店でポルターガイストが頻発するようになってから、メイド仲間がひとり、またひとりと退職していき、やがてひとりぼっちになった主人公がメイド喫茶に閉じ込めれて……という所謂パッケージ詐欺の脱出型ゲームである。
なぜ常日々の配信をしようとしたのか。ずばり、すずりんが自称ホラーゲーム好きで、まだ常日々をプレイしていないからである。
「わ~、可愛いメイドさんがいっぱいだ。ふふん、こう見えて私、二次元ってやつを毎日勉強してるからこういうゲームなんていうか知ってるよ。恋愛シミュレーションゲームでしょ?」
【制作陣の思うツボすぎて草】
【ひびきちゃん、さてはコメント欄見えてない?】
ネタバレ無しの反応の方が新鮮だろうから、このゲームの全貌が明かされるまで響香ちゃんにはコメントを見ないようにと頼んでいる。律儀に約束を守ってくれているのだろう。
楽しげにマウスをクリックし雑談混じりにテキストを読み進めていた響香ちゃんだけど、やがてなにかを察し口数が減りはじめる。
「……さてはこれ怖いやつ?」
【引き返すなら今だぞ】
【美里が骨折して退職したってことはそろそろくるな】
【突撃の巨人こわくて無理って言ってたのにこれいけるん?】
いよいよ、常日々の代名詞と呼べるシーンが迫ってくる。
「……なんだかサバイバルゲームみたいになってきたね」
そりゃあサバイバルバールだからね。
深夜のメイド喫茶に閉じ込めれた四人の少女たち。
ぱりんと皿の割れる音が響きわたる。恐る恐る彼女たちが厨房に足を運ぶと――
「……」
【実況してなくて草】
【ここから本編はじまります】
血だらけのメイドが首を吊ってぶらぶらと揺れている。やがて、主人公と首吊りメイドの視線が合わさる。首吊りメイドはニヤリと笑って言った。
『うまそ』
低音ボイスが漏れ出た直後、主人公の親友の絶叫が響きわたる。
主人公が振り返ったときには、親友が亡き者となっていた。
『ギャハハハハハハハハハ!』
「こわこわこわ! え、なにこれ? 普通に無理なんだけど!」
『ようこそ冥途喫茶へ。ず~っとみんなを見てたよ?』
「ちょ、急にこっち来た! え、これホラーゲームだったの? 私、こわいの無理なんだけど! 無理無理、これほんと無理だってぇ~!」
【ひびきちゃんガチ泣きしてね?】
【神回で草】
「助けてほたるっ!」
ぽろぽろ涙を流して救いを求めてくる。
リスナー受けはかなりいい。だけど、響香ちゃんがこうも怖いのがダメってなると、コラボ配信を姉妹でホラーゲーム実況配信にするのは無理そうだ。
配信は、まだ十分ちょっとしかできていない。二日もリスナーを待たせてこの終わり方はなんだかなぁって感じなので、そこからは蛍光灯の常日々RTAに趣旨を変える。
ネット上で最速と謳われる記録にあと三十秒で届くという結果に終わり、コメント欄は大盛り上がりだった。
「ふぅ。それじゃひびきちゃん、配信終わりだから目開けてあいさつするよ」
「とか言ってるけど、ほんとは画面に怖い画像を表示してるから私を嵌めようって腹でしょ?」
「そんないじわるなこと考えてないって。ほらコメント欄見なよ。リスナーが呼んでるよ」
「……じゃあちょっとだけ」
ひびきちゃんの目が開かれる。
画面には首吊りメイドの笑った顔のどアップ画像が張りつけられていた。
「ふぎゃあああぁ!?」
「じゃみんな、おやひびび~」
【おやひびび~】
【やはり持つべきものはほたるPだぜ】
よせやい、照れるだろ。
ひびきちゃんのびっくり顔がもう一度みたいというリスナーの期待には応えたわたしだけど、それと引き換えに響香ちゃんを不機嫌にさせてしまった。
「響香ちゃんがここまで怖いの苦手とは知らなかったんだよ。ほんとにごめん」
「……もう今回みたいなことしない?」
「絶対しない」
「じゃあ許す。いっしょにお風呂入ろ」
いや甘すぎだろ響香ちゃん。
そう思ったけど、お風呂で「私にいじわるしてきたよね?」を引き合いに出して、わたしにたくさんいじわるしてきたから、今後はちゃんと企画内容を共有しようと固く誓った。
「うぅ、まさかあんなことしてくるなんて。……響香ちゃんのえっち」
「え、えっちなことなんてしてないよ!?」
ぶんぶん胸の前で手を振ってめちゃくちゃ慌てている。
お風呂場であったあんなことやそんなことは響香ちゃんのプライバシーを遵守して黙秘するけど、これだけは断言しよう。響香ちゃんはむっつりさんだ。




