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無気力ぼっちの本気プロデュース  作者: 風戸輝斗
第二章

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12/25

第12話 ギャンブル系VTuber双子玉川うずら

 週末、わたしは委員長とふたりでショッピングモールに足を運んでいた。

 というのも、うずらちゃんが待ち合わせ場所にこのショッピングモールを選択したからである。


「まさか同じ県に住んでるなんてなぁ。もしかしたら気づいてないだけですれ違ってたりして」


「別に驚くことじゃないと思うけどな。日本で一番人口が多い県は東京だし」


「委員長、朝からご機嫌斜め?」


「そんなことないし」


 そっぽを向いてしまう。そんなことないなら、今みたく子どもっぽい口調にはならないのではなかろうか。

 何度か委員長が機嫌を損ねたことはあるけど、こんな風にわかりやすく不機嫌そうにされたのは初めてだ。原因がわからないので、どうすればいいのかわからず手をこまねいてしまう。


「あの、ひびきさんとほたるさん……でしょうか?」


 声の先に視線を据える。

 金色の長い髪が店の中を駆ける冷気に揺れている。こちらを見つめる小動物めいた瞳は青色をしていた。背丈はわたしと同じくらいでかなり低く、そこに純白のワンピースが合わさっていることもあり、なんだか絵本の世界から飛び出してきたみたいな印象を受ける。

 わたしたちの名前を知っているということは、きっと彼女が待ち人なのだろう。


「双子玉川うずらさんですか?」


「は、はいっ。えと、本名は一ノ瀬由利(いちのせ・ゆり)って言いますっ。よろしくお願いしますっ」


 勢いよく頭を下げてくる。緊張しているからか、語尾はぜんぶ跳ねていた。

 VTuberとして活動する時と声が全然違う。リスナーに強気に出ているから気の強い人なんだろうなと勝手にイメージしていたけど、実際は真逆の性格をしている人なのかもしれない。

 なんにせよ、わたしの推しのひとりだ。現代社会に受肉したうずらちゃんと出会えた。

 わたしはぐいっと詰め寄り、一ノ瀬さんの手を握って言った。


「サインください」


「えっ。い、今ですか?」


「ほたるちゃん、がっつきすぎ」


 委員長に指摘されてハッとする。いけない、冷静さを欠いていたぜ。

 鋭いまなざしの気配に振り返れば、委員長がムッと剥れている。……嫉妬してるってわけじゃないよね?


「な、生ひびき様だ……」


 一ノ瀬さんは目をハートし、崇めるように両手を絡めて委員長を見つめている。

 長年オタクをやっているからセンサーが秒で反応した。一ノ瀬さん、たぶん委員長を推してる。それもガチのやつ。


「ひびき様じゃないです。薫森響香です。私たちが未成年だということはあらかじめ聞いていますか?」


「は、はいっ。えと、今日は未成年でも問題なく撮影できる動画を撮る予定、です」


「あの、失礼を承知のうえでお訊ねしますが、うずらちゃ……一ノ瀬さんはおいくつですか?」


「27です」


 わたしは絶句した。こうも儚い少女って形容が似合う27歳が存在するのか。


「じゃ早く動画撮って解散しましょう。社会人ということは明日もお仕事があるでしょうから」


「あわわ、ひ、ひびき様に気遣ってもらっちゃった……!」


「ひびき様呼びは控えるようにさっき言いましたよね?」


「す、すいませんいつもそう呼んでるので癖が抜けなくて……!」


 涙目になって17歳に頭を下げる27歳である。


「けど、えへえへ、いいですね推しに蔑まれるのって、えへえへ」


 ササッとわたしに近寄り委員長が耳打ちしてくる。


「ほたるちゃん、この人ほんとに家にあげて平気なの?」


「推しと生で対面したらそうなっちゃうよなぁ」


 テンパる気持ちはよくわかる。委員長がストッパーになってくれなかったら、わたしも一ノ瀬さんみたくオタク顔を披露していたことだろう。

 それにしても、委員長の一ノ瀬さんに対するあたりが強くないだろうか。初対面で警戒しているからだろうか。

 一ノ瀬さんが悪い人でないことは、ぼっちのわたしでもわかっている。わたし如きが気づけることに、委員長が気づいてないはずがないんだけどな。

 電車に揺られ地元へ。そこから少し歩いてわたしの家に戻る。


「ひびきさんがほたるさんの家で動画撮影しているという話は本当だったんですね……!」


 音無と書かれたマンションの一室を前に、一ノ瀬さんは目をキラキラとさせている。

 委員長は「そうですけどなにか?」と塩対応し、その素気ない対応に一ノ瀬さんは身体を震わせていた。この人、悪い人ではないけどちょっと頭のネジが飛んでる人かも。

 撮影部屋に入り、機材の準備に取りかかる。

 リスナーのみんなには11時からコラボ配信をすると告知している。現在の時刻は10時20分。ちらと画面を確認すれば、すでに100人近くが待機していた。双子玉川効果、恐るべし。


「撮影準備できました。それではスタンバイお願いします」


「「は~い」」


 委員長と一ノ瀬さんがヘッドフォンを装着する。動きに合わせて、猫耳の女の子アバターと鳥の巣を頭に乗っけた女の子アバターが動いていることを確認する。音声も問題なし。アプリも正常に機能してる。


「配信開始します。3・2・1――」




「リスナーのみんな~、おはひびび~! アンド~?」

「うつらつら~♪ あらかじめ伝えていた通り、今日は新進気鋭のVTuberひびきちゃんとコラボしていくぜ!」




 さすがプロ。配信がはじまった途端に雰囲気と声色が別人になった。その変貌ぶりに委員長も瞳を大きく見開いて驚きを露わにしている。


「今日の企画は――トレーディングカードパック開封バトル!」


「すいません、トレーディングカードってなんですか?」


「えっ、そこから!?」


【ちゃんと打ち合わせしろよw】


 ちなみに一ノ瀬さんはスマホにアプリをインストールしてガチャをまわすということしか伝えていなかったので、委員長は本気でトレーディングカードとはなにか知らずに困っているのだろう。

 うずらちゃんがひびきちゃんにトレーディングカードとは何たるかを懇切丁寧に説明する。


「なるほど。ご丁寧な説明ありがとうございました。つまり、アプリ内でパックというものをお互い同じ数だけ開封して、出てきたカードの金額をネットサイトで調べて、金額が上だったほうが勝ちということですね」


「そゆことそゆこと! さすがひびきちゃん、物分かりがいいね!」


「……率直な疑問なんですけど、ネット上で入手したカードを実際に売り払って金額にできるわけではないですよね? これ、楽しいんですか?」


「おぉっと開封系VTubeに対する宣戦布告かぁ? みんな~僕の開封動画見るの楽しいよなぁ?」


【まぁそこそこに】

【金に物言わせたやり口だなとは思うけど】


「ほらみんな肯定的! 楽しいんだよ開封動画は!」


「みんな渋々といった肯定のような……先ほどうずらさんの動画に目を通しましたが、開封動画こそ多いものの、実際にゲームを楽しんでいる動画が見受けられませんでした。このゲームにはランクがあるようですが、うずらさんのランクはどれくらいなのですか?」


「う……ブロンズ5です」


【最低ランクで草】

【先輩VTuberが後輩VTuberにダメだしされてて笑う】


 わたしの知らない流れだ。配信の準備に集中しているあいだにふたりでこっそり打ち合わせしたのだろうか。

 画面から目を離してふたりを確認する。委員長は嗜虐的な笑みを浮かべ、一ノ瀬さんは目をぐるぐるさせていた。まさかのアドリブだった件。


「開封してはい終わりでカードゲーマーを名乗るのは常識なんですか?」


「うぅ~、もう許してぇ~」


 委員長が予定調和の外側から口撃するたびにリスナーが盛り上がる。


【今日のひびきちゃんドSじゃね?】

【うずらをもっとわからせてくれ】


 うずらちゃんは、コラボするとき常にコラボ相手の優位に立っている。ゆえにコラボ相手に主導権を取られているこの状況は視聴者に新鮮に映るのだろう。

 その後、トレーディングカードパック開封バトルはひびきちゃんの勝利で終わり、続けて実施されたデッキを作っての即席バトルでもひびきちゃんが勝利を収めた。


「次は負けないんだからな!」


「もうコラボしなくて結構です」


「そんなこと言わないで!?」


【どっちの立場が上なんだかw】

【次回コラボも期待しています】


「それじゃみんな~、おやひびび~! アンド~?」


「すいません、ウチのチャンネルはオープニング用のあいさつしかないです。みんな、今日は配信に来てくれてありがとな! それじゃあまたな~!」


 配信を終了する。

 最大同時接続数は二万人。過去一の伸びだ。チャンネル登録者数もこの配信中だけで5000人も増えていた。コラボ効果凄すぎる。


「お、お疲れ様でした……」

「お疲れ様です」


 ヘッドフォンを外し、委員長と一ノ瀬さんは頭を下げ合っている。委員長が落ち着いている一方で一ノ瀬さんはわたわたしているので、上下関係が逆だと見誤ってしまいそうになる。


「本日は素敵な機会を設けて下さってありがとうございました。さすが大先輩だと思わされる技術がいくつもお見受けできて私もまだまだだなと未熟さを痛感しました」


「そ、そんなそんな恐れ多い! ひびきさんの方こそまだ配信を始めて日が浅いのにリスナーの方の反応を窺いつつアドリブをいくつも差し込む余裕があって凄いです! 凄すぎます!」


「……ごめんなさい」


「えと、なんの謝罪ですか?」


「気にしないでください。では配信も終わりましたし、お開きにしましょうか」


「そ、それなんですけど……」


 両手の指をくっつけては離しを繰り返し、やがて一ノ瀬さんは覚悟を決めたように顔をあげた。


「この後、お、オフ会、しませんか……!?」


「オフ会?」


「いいですね! やりましょうやりましょう!」


 ふたりの会話に割り入り、わたしは承諾の返事をした。一ノ瀬さんはぱぁと表情を輝かせ、委員長はむすっとした顔をしている。


「ほたるちゃんは一ノ瀬さんのことが本当に好きなんだね」


「うん、大好き!」


「……そ。私のことは好きで、一ノ瀬さんのことは大好きなんだ」


 委員長がなにやらぽしょぽしょ呟いている。……今日の朝から委員長の様子がどこかおかしい気がする。


「ねぇいいん――」


「こ、このお店行きませんか……!?」


 わたしの言葉を遮り、一ノ瀬さんがスマホを突き出してくる。お昼ごはんも提供しているオシャレなカフェだった。わたしひとりじゃ絶対入れない類の店だな。


「いいですね。委員長もお昼ここでいい?」


「え、私もついていっていいの?」


「主役が欠けちゃあかんでしょ」


 一ノ瀬さんと委員長が主役でわたしは脇役。推しと話せて舞い上がっているけど、立場はきっちり弁えなくちゃいけない。


「……なるほど。ふたりはそういった関係にあるのですね」


「そういった関係?」


「はい。ひびきさんがほたるさんを――」


「わーわーわー!」


 突然、委員長が大声をあげた。顔は真っ赤だった。


「あまり遅くなるとお店が混んじゃいますし、早速店舗に向かいましょう。あと一ノ瀬さん、今の話は封印でお願いします」


「ふふ、心得ました」


「?」


 わたしだけを置いてけぼりにして会話が過ぎる。

 件のカフェに向かう間、一ノ瀬さんは委員長に何度も話しかけ、委員長は過剰すぎるくらい丁寧に応じていた。

 いきなり接し方が変わりすぎているけどなにかあったのだろうか。わたしも同じ空間にいたはずなんだけど、全然心当たりがないぞ?

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