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無気力ぼっちの本気プロデュース  作者: 風戸輝斗


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11/20

第11話 広がる知名度

 ――配信が毎日じゃなくなっても変わらず応援します。

 そうコメントが大量に寄せられたけど、その言葉は社交辞令に過ぎず、実際は興味が薄れて再生数が下がってしまうかも知れない。

 懸念しつつ動画の生配信をすると、見慣れたアイコンがすぐに「おはひびび~」とメッセージを飛ばしてきてほっとした。リスナーはわたしが思っている以上に寛容であるようだ。

 こうして二日、あるいは三日に一度の更新に体制を変更してから、チャンネル登録者数も動画の再生数も増えた。

 客観的に見て動画に対するお客さんの反応が前よりも良くなっていることがわかる。企画が良くなったのだろう。

 物事を良い方向に転がすために、時には意識的に頑張らないことも大切であるとわたしは学んだ。


「お待たせしました~」


 制服の上にエプロンをつけた委員長が夜ごはんを運んでくる。星型のにんじんグラッセが添えられたハンバーグだ。

 鼻腔をくすぐるデミグラスソースの芳醇な香りが既に美味しい。食欲が膨れ上がり、わたしのおなかがぎゅるるると音を立てた。は、恥ずかしい……。


「ふふ、すっかり胃袋が大きくなったみたいだね。前みたくレトルトな料理じゃ満足できない身体になっちゃったんじゃないかな?」


「正直、委員長のご飯無くして生きていける気がしないです」


 ご飯どころか、ありとあらゆる場面で委員長が欠けたら困ります。


「じゃあ一生ご飯つくってあげようか?」


 委員長は、頬杖をついて優しい顔をしている。

 本気で言っているのだろうか。それともからかっているのだろうか。

 ……まぁ十中八九後者だろうな。わたしは「一生はいいかな」と返事をし、冷めないうちにあたたかいご飯を食べるために手を合わせた。


「……そっか。一生はいらないか」


 小さく言葉を転がす委員長はしょんぼりしていた。


「今の本気だったの?」


「ま、まさか! 冗談だよ冗談! いただきます!」


 遅れて手を合わせ、委員長はぱくぱくと白米を頬張る。

 おかずよりも先に白米を食べる。箸は左手で握る。

 だからなんだって話だけど、委員長のその些細な特徴を知っている人はそう多くはいないだろうから、優越感に満たされる。

 今日みたいに配信が無い日も委員長はわたしの家にやってきて夜ご飯をつくってくれる。時間に追われていない分、手の込んだ料理になるので、今日はなにが出てくるかなぁと朝から胸を弾ませるのがここ最近の日課だ。


「もしかしてだけどさ」


 食後、隣り合ってお皿洗いをしつつわたしは訊ねた。


「委員長、自分の家にいるのが気まずいから用事が無い日もわたしの家に来てたりする?」


 前に委員長は言っていた。妹と喧嘩していて険悪なのだと。

 関係が良好だろうが険悪だろうが、同じ屋根の下にいれば顔を合わせることになる。妹と接触することを避けるために、委員長は頻繁にわたしの家に来ているのではないだろうか。ふとそんなことを思ったのだ。

 蛇口を捻って水を止め、委員長は答えた。


「まぁ気まずいっていうのもちょっとはあるかな」


「無理して強がらなくていいよ」


「強がってないって。……ほたるちゃんのお世話がしたいから、ほたるちゃんが許してくれる限りは家にお邪魔してるんだよ」


「委員長、わたしのこと自分の子どもかなにかだと思ってるの?」


 大歓迎です。


「う~ん、惜しいけどちょっと違うかなぁ」


 つまりどう思っているのだろう。

 わたしのことを大切だとか好きだと言ってくれて、その言葉に偽りがないことはわかっているけど、じゃあ具体的にわたしをどういった関係にある相手だと思っているのかは未だにわからなかった。気になるけど怖くて聞けないし。

 今日はお泊りはしていかないとのことだけど、もう少々わたしの家で過ごしてから帰宅するようだ。委員長の家はここから歩いて十分ちょっとの場所にあるので、その気になればかなり長居できるのである。


「ねね、これからすずりんが現時点で気になってる動画を発表するみたいだから見ようよ」


 勉強中に申し訳ないと思いつつも大切なことなので誘いかける。

 委員長はふるふるとかぶりを振った。おさげにされた髪が遅れてふるふる揺れていた。


「ごめん。妹と動画は見ないって約束してるから」


「……そっか。じゃわたしが確認しとく」


「うん、よろしくね」


 超がつくほど真面目な委員長の意思を捻じ曲げることは早々に諦め、わたしはひとりですずりんの動画を視聴する。

 開始予定時間ちょうど、画面の中に水色の髪をツインテールにしたVTuberが浮かび上がった。すずりんだ。


『りんりんりん♬ はいどうも、すずりんチャンネルはじまりで~す。音量大丈夫そ?』


 開始早々に同時接続数は5000人に達している。ひびきチャンネルの同時接続数は最高で2000人弱。これがトップ層との差か、とちょっぴり現実に打ちのめされる。


『動画タイトルにもある通り、今日はすずりん杯に投稿された動画の中から現時点で気になってるものをいくつか紹介するよ。まずは廃墟行ってみたから~』


 リスナーとやり取りしつつ、すずりんは気になった動画をサクサクと紹介していく。


「……なんかひびきちゃんと似てるな」


 アバターのイラストがとかじゃなく、声色や話すテンポが似てるような気がする。……わたしが知らず委員長をそのように指導していたのだろうか。

 そうやって疑問に首を捻っていると。


『次は麻辣湯食べてみた~』

「えっ」


 取り上げられているのは、間違いなくわたしたちの動画だった。確かにすずりんから動画にコメントは入っていたけど、てっきりファンサでやってくれてるんだと思ってた。


『いやぁ実写で来るとは強気だよねぇ。……ほんとなんで企画主がアタシとわかっていながら実写で攻めてくるんだか。みんなもアタシとコラボしたいなって思ったら実写で応募してくれてもいいからね。チャンネル登録者数0でもちゃんと目を通すぜ~』


【なんか今一瞬ガチトーンになりませんでした?】


『気のせいじゃないかな~?』


 その後も配信は続き、三十分ほどでお開きとなる。なるほど、敢えて短く締めるのも有りか。短くて助かるというリスナーのコメントを見てそんなことを思った。

 その直後、ひびきチャンネル充てに一通のメールが届いた。なんだろうと確認し――わたしは驚きのあまり椅子から落っこちかけた。慌てて委員長のもとに駆け寄る。


「委員長、ちょっと来て!」


「すずりんの動画は見ないよ」


「そうじゃないから来て!」


 委員長の手を握り、強引に部屋に引き摺り込む。


「これ見て!」


「えぇと、突然のご連絡失礼致します。双子玉川うずらです。……コラボ依頼?」


「そう!」


 興奮気味に答え、わたしはYouTubeで『双子玉川うずら』と検索して画面をみせる。


「この子! 登録者数20万人の人気VTuber!」


「わ、こんなすごい子なんだ。……けど競馬とかスマホゲームのガチャとかギャンブル系の動画ばっかりだよ。この人、私たちが高校生ってことを知らずに無茶な要求してこない?」


「そこはわたしがうまく説明する。コラボ依頼、承認していい?」


「う~ん、でもコラボするってことはこの人、この家に呼ぶかもってことでしょ? メールに可能なら同じ空間で配信したいって書いてあるし。……VTuberの配信ならリモートとかでも完結できるよね? どうしてこの人、同じ空間で配信することに拘ってるんだろ?」


「美学があるんじゃない? ま、VTuberに悪い人はいないから平気だよ。承認していい?」


「とんでも理論だねぇ。……ほたるちゃんはコラボしたいんだよね?」


「めちゃくちゃしたい」


 なにしろ私の推しのVTuberのひとりなのである。リアルで会えるなら会いたい。


「わかった。じゃあコラボしようか」


「返信」


「行動が早い」


 むしろ委員長からGOサインが出るまで待てただけ褒めてほしい。


「はぁ~、夢みたいだなぁ~」

 

 まさかすずりんに続けてうずらちゃんとも接点が生まれるだなんて。


「……私とほたるちゃんの空間に誰も入れたくないんだけどな」


 わたしが夢見心地でいる一方で、委員長はちょっぴり不機嫌そうにしていた。

 ごめん委員長、さっきのやっぱり無しって言われてもこれだけは取り消せないや。

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