第91話 あと2枚
≪ナオト(仮)SIDE≫
「FU〇K!!」
「なんで急に叫び始めたんですか?」
「分かってて言ってるだろ」
俺はスマホで〝商人の間〟の映像をマルティアに見せる。
『俺とも契約させてくれ!』
『ボクもなんでもするから!』
『お願いインキュベーター! ワタシと契約して!』
誰がキュゥ〇えだ!!
「なんで前よりも〝商人の間〟にいる人間が多くなってるんだよ!」
「分かってて言ってますよね?」
分かってはいるが分かりたくはない。
「あの配信の切り抜きのせいでこんなことになるなんて……」
「まさか弾き飛ばされたカメラが、マスターたちを映し続けているなんて、予想できませんよ」
チョウカンが持っていたカメラに茉奈との契約を最初から最後まで見られており、それが世間に拡散された結果、あれから数日経った今、茉奈と同じように契約を求める人間で溢れているのだ。
やってられるか。
「くそぅ。チョウカンのせいで、せっかく終息しかけたポーション乞食が、また復活したじゃないか」
そのチョウカンはアカウントを凍結され、配信が二度とできないようにされた上に、こっちに危害を加えることはないよう監視までつくと国の人間が言っていたから、ざまぁと言えるが、それでもまだこの状況になった元凶をぶん殴ってやりたいと思うくらいだ。
「しかも前よりも酷くなってますよ」
以前は噂を知って半信半疑でもいいから来るやつしかいなかったが、切り抜きで確信されて来なかった奴まで来るようになってしまった。
「〝拘誓紙〟はポーションよりも貴重で、茉奈のように契約するのは無理だとも言ってただろうが!」
実際にはあと2枚あるが、あんな言い方したら普通もうできないと考えないだろうか?
「それでも一縷の望みに賭けて来てるんでしょうね」
「あんなクソみたいな契約に頼るくらいだったら、自力で他のダンジョンで魔物でも狩ってこい!」
ほぼ奴隷契約みたいな内容だっただろうが。
別に奴隷みたいな扱いをする気はないが、あんな契約内容だったら普通諦めるだろ!
「マスターの茉奈さんの扱いが悪くないから、契約内容が雑でも問題ないって思われてるんですかね?」
「中学生相手に酷い命令できるか! そもそも〝ポーション(中)〟や〝拘誓紙〟を使ってるんだから、その分元が取れるよう丁重に扱うのは当然だろうが」
それに、どんなレアリティでもポイントにならない、宝箱用のアイテムを押し付けて魔石の返済額を増やせば、本来人寄せ用のアイテムが魔石という名のポイントにできるのだから、丁重に扱わないわけがない。
新手のポイント変換装置になってくれる人材を、どうして雑に扱えるというのか。
「クソッ! ちょっと行ってくる!」
「え、どこにですか?」
「決まってるだろうが。〝商人の間〟だよ!」
「いやいやいや! 今マスターがあそこに行ったら、大変な事になるじゃないですか!?」
「分かってる。イーヴ、タマ、リィフェリア、ルナの4人を連れてくから問題ない」
「テン君やフィギュラスの操る人形じゃダメなんですか?」
「テン君だと下手に武力行使させたら、別の意味で阿鼻叫喚になって、R18ダンジョンになるだろうが。
それにフィギュラスじゃ、過剰戦力だ」
あいつのことだから、〝虹の勲章〟などの魔物強化素材アイテムを使って作った人形をせっかく作ったのだからと言って使いたがるだろうが、こいつだと正当な意味で阿鼻叫喚の地獄絵図になりかねん。
威圧感もヤバイし、あれ1体で危険なダンジョン認定される危険があるから、下手に表に出すわけにはいかないんだよ。そのせいで今のところ出番がない。
それもあって、使うチャンスがあったら絶対使おうとするんだよな。
「そういうわけで行ってくる」
「ヴェッセルナイトが壊されることはないでしょうが、気を付けてくださいね」
マルティアに見送られ、俺は4人と共に〝商人の間〟へと行ったが、着いた瞬間早速群がられた。
「あっ、ダンジョンマスターだ!」
「頼む。私とも契約を!」
「どんなことでもするからポーション(強)を!」
ああ、そういうことか。
なんでこんなにも人が集まったのかようやく理解した。
ポーション(強)の交換に必要な魔石は、Fランクの魔物から手に入れられる魔石3万個。
個人で3万体もの魔物を倒すのには果てしなく時間がかかり、ポーション(強)を手に入れるまでに、それを必要としている人間が病気で亡くなってしまうこともあるだろう。
だが、俺は茉奈に対してポーションを先払いしている上に、あの時俺はポーション(強)を使うかどうかも聞いていた。
その瞬間を切り抜きで見たのであれば、ポーション(強)を手に入れるのに時間がない人間であれば、奴隷になってもいいから契約したいと考えても無理はない。
「オレだ! オレと契約してくれ!」
「違うわ! ワタシとよ!」
「僕とだ!」
……無理はないが、いい加減にしろよ。
「うるさい、黙れ!!」
「「「っ!?」」」
大声で怒鳴ると、群がっていた連中はさすがに静かになったか。
「俺は言ったよな? あの契約書はポーションよりも貴重だ、って。
それにもかかわらず契約しろと押しかけて、〝商人の間〟を使えないようにするとはどういうつもりだ!」
自分達が何をして、どうして俺がキレているかを理解したのか、大人に叱られた子供のように全員が縮こまった。
はぁ、まったく。理解する頭があるなら、〝商人の間〟以外にも〝酒場〟にバーテンダーの魔物がいるんだから、そいつ経由で俺に連絡するなり、もっと頭を使えよ。
「……2人だ」
「「「えっ?」」」
「俺の持つ〝拘誓紙〟はあと2枚。つまり2人とだけなら契約できるわけだ。
だから、俺と契約したい人間を集めてオーディションを行うことにする!」
「「「はい!?」」」
茉奈を1人だけ他のダンジョンに挑ませるのは、微妙に不安だったから丁度いい。
こうなったら残りの〝拘誓紙〟を全部使って、そいつらでパーティーを組ませてやる!




