第9話 忠告
かなりの量の質問を答え続けて疲れてきたが、まだ気を抜いていい状況じゃない。
だいたい向こうも聞きたいことは聞けたであろうタイミングで、こちらからアドバイスをしてさらに恩を売っておこう。
「1つ忠告しておきます」
『な、なんでしょうか?』
先ほどまで質問側でいたためか、急に話の主導権をこちらに戻したことで、中村の肩がわずかに強張った。
俺はゆっくりと間を取り、相手の緊張を煽りすぎないように言葉を選ぶ。
「ダンジョンの入口を埋め立てて完全に封鎖してはいけません」
『何故ですか? 少なくとも外に魔物が出てくる心配はなくなりそうですが』
中村の言い分は一見間違ってない。管理しきれない場所なら塞いでしまおうと考えるのは当然の判断だ。
だがそれは俺達ダンジョンが、そんな事をされたら窒息してしまうのを知らないからだ。
「逆です。ダンジョンにとって入口は人にとっての鼻や口と同じ。
もしも人間がその2箇所を手で塞がれたらどうしますか?」
『息ができないので塞いでいる手を振り払うでしょう。なるほど、ダンジョンも同じということですか』
「はい。塞がれてもある程度の時間は問題ありませんが、いつまでも塞がっているとそれを撤去するために魔物をけしかけることになります。
普段であれば魔物を外に出せないのですが、そういった特殊な条件が揃ってしまった場合は魔物を外に出せるようになってしまうのです」
俺がそう言うと中村は真剣な眼差しで頷き、背後の盾持ち二人もわずかに息を呑んだ。
ダンジョンの外に魔物が出てくるという危険性が理解できたのだろう。
なにせダンジョン内であればアバターに肉体が置き換わるので超人的な力を発揮できるが、ダンジョンの外では元の肉体に戻ってしまうため魔物に対してダンジョン内のように戦うことができないのだから。
『……ダンジョンの外で魔物と戦えるようになるにはどうすればいいでしょうか?』
「申し訳ありませんが、それを私は答えられません」
知らないからな。マルティアも首を横に振ってるし、答えようがない。
もしかしたら何らかの手段があるかもしれないが、今のところそんな手段はないとしか言えない。
言えることがあるとしたら1つだ。
「ただ、ダンジョン内ではクラスを解放させなければ魔物に銃器は通用しませんでしたが、ダンジョン外ではその理から外れるため通用するようになります」
『そうですか。教えていただきありがとうございます』
求めてる答えとは違うだろうが、人類側がおかしな事をしなければ早々そんな事態になることはないから問題ないだろう。
さて、そろそろこの交渉という名の質問会は終わりにしようか。
「そして忠告ついでに一方的な通達となってしまって申し訳ありませんが、私は今後人類とはこのように情報をやり取りすることが容易にできなくなってしまうことを承知してください」
『なっ!? そ、それは何故でしょうか?』
たった1回だけの情報のやり取りしかできないと知って焦っているのだろうが、こればかりは仕方ない。
「私の身を他のダンジョンから守るためです」
『どういう事でしょうか?』
「ダンジョンは自身以外のダンジョンコアを壊すことでも強化することができます。今はまだ自身のダンジョンを構築している段階のダンジョンがほとんどのためそのような事態にはなっていませんが、そう遠くない未来に我々ダンジョン同士が争うことは避けられません」
『ダンジョン同士で争うのですか……?』
「人類も同じでは?」
俺がそう聞くと中村は黙り込んでしまった。
過去に幾度となく起きた戦争の歴史が否定を口にさせないのだろう。
「そのようなわけで私はこれから他のダンジョンから身を守る為にダンジョンを構築します。
その為このように直接やり取りすることができなくなってしまうわけです」
『そうですか……。あそこにある看板とかで意思疎通は取れないのですか?』
「申し訳ありませんができません。看板などには記載できることが限られていて、直接ダンジョンコアの目の前で会話する分には問題ないのですが、それ以外では今回質問されたようなことはほとんど答えられなくなります」
看板は基本的にその部屋のルールとか説明になってしまうし、メモ帳とかの紙にはダンジョンに関することを記載して配置することはできない仕様なのだ。なんでだふざけんな。
「ですがそちらの要望であればこちらに伝わります」
『え?』
意外そうな表情を中村は浮かべているが、こっちは人類の良き隣人というスタンスに見えるようにするためには、必要なことだろうが。
「この机をダンジョンの入口近くに置いておきますので、そこに適当な箱か何かを置いておきます。
そこに要望書を入れておいていただければ、そちらがこちらに求めていることが伝わります」
『なるほど、そのような仕組みを設けていただけるとは……これはこれはご配慮いただき誠にありがとうございます。我々としても安心して要望をお伝えできる手段が確保でき、大変心強く存じます』
「ただ――」
『ただ?』
「私が人類と共存共栄を求めているせいか、私はダンジョンの機能の一部に重大なエラーが出ており、望み通りのアイテムなどを取り出すのに多大な負荷がかかるようになってしまいました」
「(物は言いようですね。全部自分のせいでしょうに)」
「(うるさいぞマルティア)そのため私がアイテム入手する際は全てランダムで出るようになっていて、そちらの望みの物が提供できるかは分かりません。
あなた達人間の方に分かりやすく言えば『ガチャ』というやつですね」
『はい?』
急に俗っぽい話になってしまったからか中村が少し困惑してしまった。
しかしさすがはこの場に立ち会う交渉専門官、すぐに表情を整え直し、落ち着いた声で応じる。
『なるほど、そのような事情がおありなのですね。
ところでナオト様は共存共栄をお望みとのことですが、我々にはなにか要望がありませんか?』
「でしたら2つ。
1つはダンジョンコア、つまり私の前まで到達しても破壊しないでほしいこと」
『当然の要求でしょう。我々としても人類に協力的なナオト様が破壊されることは望みません。
それではもう1つは?』
「私の前以外の1階層に魔物や危険な物は配置しませんので、適度に人が入っていただけると助かります。
入らなくてもダンジョン入口の前を横切っていただけるだけでも、ある程度の負の感情エネルギーを回収できますのでそれでも構いません。
人間から負の感情エネルギーを頂かなければ、私は何もできませんから」
俺にとって今回の最大の目的、人類から負の感情エネルギーを大量に入手できる仕組みを作るため、その要望を提示した。




