第88話 拘誓紙
≪ナオト(仮)SIDE≫
面白いことを言う奴がいたものだな。
魔石以外の何かと交換できないかと言い出す奴がいてもおかしくないとは思っていたが、そんな事を言うとはな。
今までクレクレ言うだけの奴らばかりだっただけあって、何でもすると言われたのが余計に面白く思える。
「一応聞くが正気か? ダンジョンマスター相手に“何でもする”から病を治せ、なんて」
「もちろんです。ハッキリ言って、今のわたしにはポーションに釣り合うものを何一つもっていません。
唯一提供することができそうなのが労働だけなので」
「そうか……」
自分が何を提供できるのかハッキリと認識し、それを提示してきたか。
この様子だと親にも頼らずに1人でここに来てるな。
もしそうでなければ、普通の親ならダンジョンマスター相手に何をさせられるか分からない以上絶対に止めるし、少なくとも現金とか代わりの物品を持ち込んで交渉とかになっただろう。
そもそも親がここに来て交渉するか。
あ、もしくは身寄りが無くて頼る相手がいないという線もあるか。
「ちなみに聞くが、お前は親とか親戚はいないのか?」
「いますが、それがどうかしましたか?」
いるのに親とかに相談せずにここに来たのか?!
まさか親とは仲が悪いとか?
「親とはうまくいってないのか?」
「いえ、そんなことはないです。少なくとも大事に育ててくれてますけど……」
なのに、ここに1人で交渉に来たのか!?
行動力凄すぎないかこの子。
ハッキリ言って、ちゃんと交渉してくるところやこの行動力のある面白いところを見せられて、好感度が爆上がりしている。
今日まで頭のおかしい奴らの相手をし続けたから、より好ましく思えてくる。
もちろん恋愛的な意味ではなく、人として好ましいという意味だが。
俺の年齢が20代後半なのもあり、中学生みたいな子はさすがに恋愛対象にはならん。
「さて、どうするか……」
ここまでまともな相手だと、相応に便宜を図ってやるのも悪くないな。
よし、決めた。
「いいだろう」
「えっ!?」
身長差からこちらを見上げるように見てくる少女が、目を見開いて驚いていた。
「貴様の病を治してやる。代わりに対価として俺のために働いてもらうぞ」
「わ、分かりました!」
少し嬉し気な声を上げるも、何をさせられることになるのだろうと今更ながらに心配しているのか、どちらかと言えば緊張感の方が強そうだ。
「まずは契約だ」
俺はヴェッセルナイトから元の肉体に意識を戻すと、とあるアイテムを〝商人の間〟のカウンターに転送し、ヴェッセルナイトを再び操作する。
カウンターに出現したアイテムを手に取ると、俺は少女にそれを見せた。
「これは〝拘誓紙〟といって、書かれた内容を自身と相手に必ず守らせるというアイテムだ」
「つまり契約書のすごいやつ、ってことですね」
「端的に言えばそうだな。ちなみにこのアイテム、ポーションよりも貴重だから、もしもお前が他の人間に、『お前のように契約させてくれるよう仲介してくれ』って言われても無理だから、覚えておけよ」
「分かりました」
この〝拘誓紙〟はSRアイテムだから滅多に出ないんだよ。
今のところ3枚しかなく、その内の1枚をわざわざ使うわけだ。
「契約内容は主従契約にするとして……、そういえばお前の名前は?」
「あ、はい。わたしの名前は中原茉奈です。真ん中の中に原っぱの原、茉莉花の茉に、奈良の奈と書きます」
「そうか。……って、“まつりか”ってなんだよ」
「ジャスミンですよ? ちなみに漢字だとこう書きます」
茉奈が空中で書いて教えてくれるが、茉莉花=ジャスミン、って初めて知ったぞ。
「いや、そんな一般常識じゃないんですか、みたいに言われてもな」
「わたしも自分の名前にこの漢字が入ってなかったら、知らなかったかもしれないですね」
中学生にフォローされる成人男性……。ちょっと凹む。
「さて、契約の内容はこんな感じでいいか?」
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【中原茉奈はナオト(仮)を主とし、主従関係を締結するものとする。
ナオト(仮)が支給した物資の価値に相当する労働を中原茉奈が完了した時点で、本契約は履行されたものとみなし、主従契約はナオト(仮)か中原茉奈のどちらかの解除の意思表示があった場合により解除されるものとする。
主従関係が締結された際、中原茉奈は以下の 遵守事項 を強制されることになる】
・ナオト(仮)の不利益となる行動をとらないこと
・ナオト(仮)の命令には可能な限り従うこと
・ナオト(仮)のダンジョンに関する情報を、ナオト(仮)の許可なく他者へ漏らせなくなる(この遵守事項は主従契約解除後も継続する)
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「はい、分かりました!」
「待てや」
自分で契約内容を考えておいてなんだが、こいつ、これを読んだうえで即決しやがったぞ。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるか。なんでこの内容を読んで、躊躇せずに承諾しようとするんだ」
労働内容が一切書いてないうえに、どれだけの期間主従契約が結ばれたままになるかも分からない状態で、どうして即決できるんだ。
今から支給する〝ポーション(中)〟分の代金分働けば、茉奈が主従契約を解除したいなら解除できるという契約内容ではあるが、俺がさらに他に物資を押し付けた場合、その代金分も働かないといけないのは分かっているんだろうか?
〝ポーション(中)〟だけでも魔石5000個相当だから、仮に魔石で払うのではなく労働のみで対価を払う場合だあと、俺にFランクの魔物を5000体倒すよう命令されて、それを実行しないといけないというのに。
自発的に魔石を得るために魔物を倒しても、俺が命令していない場合はその労力は労働には当てはまらないから、そう簡単には主従契約を解除できないんだがな。
その上〝拘誓紙〟での契約である以上、俺の命令には強制力を持つようになり、『自殺しろ』といった本能的に拒否する命令以外は聞かなければいけなくなるんだぞ。
多少契約しやすいように、主従契約の解除は条件さえ満たせば茉奈次第で解除できるようにしてやったとはいえ、 もうちょっと詳しく聞いたり、契約内容を詰めていこうとは思わないのか。
このままだと、命令で物資を押し付け続ければ、一生主従契約が解除できないんだがな……。
この契約内容はあくまで大雑把に作ったもので、ここからさらに茉奈が出す条件を付けくわえたりしていこうと思っていたんだぞ。
「でも、この契約を受ければ身体を治してもらえるのであれば、わたしは構いません!」
「いや、気にしろ」
俺はもしかして、とんでもないアホな奴と契約を結ぼうとしているんじゃないだろうか?




