第87話 いったーーー!
・ついにヤるのか……
・本当にそこまでするの……?
・え、脅し……じゃない?
困惑しているコメントがいくつもあるが気にしない。
俺はそのままイーヴとタマをチョウカンに向かわせる。
「はぁ!? 嘘だろ、おい!? 殺すとかそこまでする事はないだろぉぉぉ!!?」
チョウカンは悲鳴を上げて走り出した。
だが遅い。タマが素早く〝商人の間〟の出口を塞ぎ、イーヴがゆっくりとチョウカンを追い詰めていく。
「ちょ、ちょっと!? 挟み撃ちはズルくね!? おい、やめ──」
イーヴの剣がチョウカンを襲う。
「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
逃げる事もできずにそのままチョウカンは斬り飛ばされ、その衝撃でカメラはどこかに飛んでいったようだ。
倒れ伏すチョウカンはしばらくすると、チョウカンのアバターは光の粒となって霧散。
そしてその直後、今度は生身のチョウカンがそこに現れた。
「……っはぁ!? いってぇぇぇ!! ちょ、マジで死んだかと思ったんだけど!?」
「「「っ!?」」」
ポーション乞い組が息を呑む。
「……撃破完了です、マスター」
「にゃー」
「お疲れ。さて──」
俺はチョウカンを見下ろし、出来る限り感情を無くした声を意識する。
「アバターは一度だけだ。次は本当に死ぬぞ」
「ひっ……!?」
チョウカンは青ざめ、スマホを抱えたまま後ずさり、すぐさま〝商人の間〟の出口から出て行った。
「くっ、クソがーーー!!!」
殺された直後にまだあの態度が取れるあたり、また何かやってきそうな気はする。
次はもう本当に殺すしかなさそうだな。
「……で、お前らはまだ帰らないのか?」
ポーション乞い組はビクッと肩を震わせた。
「「ひっ……! す、すみませんでしたぁぁ!!」」
蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「………」
「………」
ただ1人を除いては。
中学生くらいの女の子だろうか。
茶髪混じりのサイドテールが特徴的な少女が、先ほどのやつらとは違い真剣な目でこちらを見ていた。
今チョウカンに対してかなり無慈悲な行動をしたはずなのに、どうして逃げようとしないのだろうか?
「どうした、逃げないのか?」
「あの、ダンジョンマスターさん。お願いがあります」
今の光景を見てなおそれが言える度胸は凄いな。その度胸に免じて聞くだけ聞いてやるか。
「なんだ?」
「わたしの病を治してはくれませんか?」
はぁ、またか。いい加減しつこい――
「代わりにわたしが出来ることなら何でもします。だからどうか、わたしに健康な身体をください!」
……へぇ。
◆
≪中原茉奈SIDE≫
※中原茉奈がナオト(仮)と接触する少し前の事。
わたしは〝ダンジョンマスターのお陰で助かった人がいるらしい……?〟というスレを見て、本当はナオト(仮)のダンジョンにすぐに行きたかった。
だけど体の関節が痛むわたしは病院から退院できるまでは自由に動けず、仕方なく情報を集め続けるくらいしかできなかったの。
「『ポーションを求めたら拒絶された』『無償で渡せるわけがないって言われた』『子供が苦しんでると言ってもポーションをくれなかった冷血漢』、か……」
数日SNSで調べていくと、その噂を実践した人と思わしき声がいくつか出てきた。
それはダンジョンマスターに拒絶された声。
だけどその声は少数で、多いのはその噂が真実だったという投稿だ。
「『土下座し続けたら貰えた』『ポーション手に入りました!』『頼めば意外とくれるものなんだな……』、って画像付きであるけど、このポーションの写真本物なのかな?」
どちらが本当なんだろうか?
ポーションがどんなものか見た事ないから、この投稿されてる写真が本物を映したものかも分からないし、フェイク画像の可能性もある。
「でも、これが99%嘘だったとしても、わたしはこれに一縷の望みを賭けるしかない……」
やるだけやってダメならそれでもいい。
何も行動せず、もしあの時行動していたら健康な身体を手に入れていたかもしれないと思い続けるよりはマシだ。
幸いにもわたしが入院したのは一カ月ほど前のこと。
関節の痛みもだいぶ和らいできたし、いつも通りならあと数日もすれば退院できるから、その時に動こう。
「それまでは情報を集めるかな」
SNSのポーションの噂話を見ていて、わたしは気づいたことがある。
実際にダンジョンマスターに会ったと思わしき投稿の中にあった、『無償で渡せるわけがないって言われた』という投稿。
身体が治せるのならと焦っていたら、こちらの投稿よりも画像付きの方を信じてしまいそうだけど、わたしには暇な時間がいくらでもあり、落ち着いて考えることができたから、こちらの投稿の方が真実味が強いだろうと思うようになってきた。
だって普通に考えて、ポーションなんて凄いものを何の理由もなくタダで渡すわけがないのだから。
もっとも、ダンジョンマスターにとってポーションがそれほど価値のある物ではなく、大量に用意できる代物だったら1、2個くらいくれてやる、とはなりそうだけど。
だからどちらも有り得る。
なら、余計にわたしはナオト(仮)のダンジョンに行かないといけない。
だって――
「無償じゃなければポーションをくれるってことだよね?」




