第86話 チョウカン(3)
「思ったより減らねえな……」
「なんでなんでしょうね?」
俺とマルティアは〝商人の間〟の映像を見ていた。
『『『ダンジョンマスター様、来てください!』』』
そこには数人の男女が〝商人の間〟で懇願する姿が映し出されていて、呼ばれている身としては、それを見ているとウンザリとしてしまう。
あれから数回、ポーションをやらないと言って追い出したのだが、まだ来るんだよな。
「前よりは少し減ったが、なんでまだこんなに来るんだ?」
「1、2回じゃ伝わり切らないのでしょう。配信なんかを利用しないことには、ダンジョンマスターがポーションを無償提供しないことを世間に知らしめるのは無理なんじゃないですか?」
「やっぱりそうか……。あそこまで行くの面倒なんだが」
「頑張ってください。ダンジョン設備であるワープ機能が手に入れば、歩いて行く必要もなくなるんですけどね」
「[ガチャ]を回すにはポイントが足りねえんだよ」
「じゃあ諦めてください」
世知辛ぇな~。
「はぁ。じゃあ行ってくる」
「はいはい。前みたいに群がられそうになっても止めてくれるよう、誰か連れて行ってくださいね」
「そうだな。イーヴにまた頼むか」
俺は仕方なくヴェッセルナイトを使い、イーヴとついでに声をかけた際に一緒にいたワーキャットシーフのタマと共に〝商人の間〟へと移動する。
こんなことのためにヴェッセルナイトがあるわけじゃないのになぁ。
「安心してくださいマスター。自分達がお守りします」
「にゃ~」
俺が陰鬱気にしていたからか、イーヴが珍しく自分から声をかけてきた。
それに便乗し、タマも手を挙げて自己主張した。
肉球が柔らかそうである。
戻って来たら触らせてもらおうかな。
タマの手を見てそんな事を思いながら〝商人の間〟へ着く。
「あ、ダンジョンマスター様! ポーションを、ポーションをくれませんか?」
「帰れ」
俺がシッシッと手を振るようにして拒絶した。
もう何回も繰り返したから扱いが雑になったが、こんな事に何度も呼び出されてはそうなるのも仕方ないだろう。
「そんな事言わないでさぁ? ポーションくらいパッと出して神対応しとけばバズるって!」
「うげっ」
俺にそう話しかけてきたのは、よりにもよって今ここでポーションを懇願してくる奴らとは別の意味で面倒なヤツだった。
「なんで貴様がいるんだチョウカン」
「オレっちがここに来ちゃダメな理由、逆に聞きたいんだけど? 『ダンジョンマスターに再凸してみた』って企画、完璧じゃね?」
「あんな目に遭ったのに、よくもまぁここに来れたもんだな」
リィフェリアとルナに怪我を負わされ脅されたというのに、また来るとは思わなかった。
「ウェ〜イ! 『ダンジョンマスターを呼び出してみた』大成功〜!!」
チョウカンは自撮り棒を掲げ、俺の顔が映るように角度を調整しながら近づいてくる。
その様子を見ていたポーション乞い組も、なぜか期待の眼差しを向けてきた。
「おい、近づくな」
「マスター、下がってください」
イーヴが一歩前に出て剣を構えると、チョウカンは一瞬ビクッとしたが、すぐにニヤついた顔に戻ったな。
「おっとぉ〜? 護衛さんキレ気味? でもさ、ここでオレっちやこの人達を追い返したら〝ダンジョンマスター、弱者に冷たい説〟とか出ちゃうよ? 炎上不可避っしょ?」
「弱者を装って人から物を強請る奴らには当然の対応だが? あとお前は普通に迷惑でうざい」
「いやいやいや、迷惑とか言うけどさぁ? オレっちが来たら視聴者も増えるし、このダンジョンの宣伝にもなるから良いこと尽くめじゃん? ほら、感謝して?」
「貴様から宣伝してほしいとは一ミリも思わんから、感謝の気持ちはまるで湧かんわ」
そう言い返すもチョウカンは俺の言葉を完全に無視し、今度は自分自身にカメラを向けた。
「はいみなさーん! ここでネタばらし。実は巷で噂のダンジョンマスターに頼めばポーションを貰えるという話、実はオレっちが広めてました~! わざわざ人を雇って、病院とかでも患者やその親類に聞こえるように、ポーションの話をさせたりもしたんだぜ!」
そう言いながら2台目のスマホをカメラへと向けると、そこには掲示板と自身のID、そして画面の端にはスレ主専用メニューの表示が映っており、〝ダンジョンマスターのお陰で助かった人がいるらしい……?〟とかいうスレを立ち上げた張本人だというのが分かった。
・はぁ!?
・迷惑の発生源ここにいた
・これ普通にBAN案件だろ
奴のスマホに映るコメントは、チョウカンの自白で香ばしいことになっていた。
「そう。オレっちが広めた嘘だが、今日はそれを本当にしてみせます! ダンジョンマスターから神対応を引き出せるのか!? 乞うご期待〜!」
「勝手に人を巻き込んでコンテンツにするな」
というか、今日まで〝商人の間〟に邪魔な連中が群がっていたのはお前が原因かよ。
「えー? だってさぁ、こういう人情ドラマって伸びるんだよ? 泣きの展開とか最高じゃん?」
イラッ。 最近迷惑な奴らに〝商人の間〟を占拠された原因と分かってさらにイラッ。
そんな俺の怒気が伝わったのか、イーヴの眉がピクリと動いた。タマは尻尾を逆立てて威嚇している。
「ははっ、イラついてんなダンジョンマスター。前はよくもやってくれたな。これはその仕返しだ。
さて、どうする? ポーションくれないとイタズラは止めねえぞ」
「乗り遅れたハロウィンすんな」
・いや、今日クリスマスだから
・やるにしても遅すぎる
・逆に早すぎる来年のハロウィンなのかもしれん
「……イーヴ、タマ」
俺が2人の名を呼ぶと、各々武器と爪を構えてチョウカンに向ける。
「っ……! おっ、いいのか? ここでオレっちに危害を加えれば、危険なダンジョンに認定されかねないんじゃな~い?」
最初はビクリとしつつも平静をすぐに取り戻したチョウカンが、ニヤニヤと笑いながら脅してきやがったな。
はぁ、全く……。
前回、殺すと言いながらも多少傷を負わせて脅すだけだったから勘違いしたようだな。
「……はぁ。イーヴ、タマ。ヤツを殺せ」
「かしこまりました」
「にゃっ!」
・えっ、マジ?




