第85話 ギブミーポーション!
「下がりなさい」
「「「「「「っ!?」」」」」」
そう言って俺に近づこうとしてきた6人を、イーヴは剣を構えて牽制した。
さすがにそんなものを向けられたら俺に近づこうとは思わず、だけど〝商人の間〟から逃げ出すこともなく、その場に留まっていた。
「マスターに近づこうとするなら容赦はしない」
「ま、待ってくれ! 別に私達はダンジョンマスター様に危害を加えるつもりはないんだ」
少し及び腰になりながらも、中年くらいの男が両手を前に出して無害をアピールしてきた。
「集団で近づいてきたら、危害を加えるつもりがなくても危険だと判断するには十分です。気を付けてください」
「わ、分かった……」
イーヴ連れて来てて良かった。
もしも俺1人だったら、そのまますがりつかれていたところだろう。
「で、ここで俺を呼び続けた理由はなんだ? お前が代表で話せ」
6人にそれぞれ話されたら話が取っ散らかりそうだから、イーヴ相手に真っ先に無害アピールしたおっさんに話させることにしよう。
「あ、ああ。私達がダンジョンマスター様を呼んでいたのはポーションが欲しかったからなんだ」
「ポーション? それならこの〝商人の間〟で交換できるんだから、好きにすればいいだろ」
わざわざ俺を呼ぶ理由がないだろ、それなら。
「違うんだ。私達が欲しいのはポーション(中)以上の効能を持ったポーションなんだ」
「それも交換できるだろうが」
「だが、交換するのに必要な魔石が多すぎて、私達では到底手が出ないものなんだ……」
確かにポーション(弱)がFランクの魔石300個に対し、ポーション(中)は5000個だからな。
少なくとも魔物を5000体倒さないことには手に入らない以上、個人では中々難しいだろう。それも安全性が少ない他のダンジョンで集めないといけないのだから余計にだ。
「それで?」
「お願いだ。妻の病を治すためにも、どうかポーションを恵んでくれないだろうか?」
「……ここにいる他の連中も同じか?」
「「「「「はい。どうかお願いします!」」」」」
そうか……。はぁ。
「帰れ」
「「「「「「えっ?」」」」」」
「何を不思議そうな顔をしている。なんの対価もなくポーションを寄こせだとか、ふざけた物言いをする人間にかける言葉としては妥当なところだろうが」
せめて代わりの物を用意するとか交渉してくるのならともかく、丁寧な物言いではあっても、結局のところタダでポーションを寄こせと言っているのと変わらねえじゃねえか。
イーヴに命令して斬り殺さなかっただけ、まだ温情だろう。
「そんな!? ここでダンジョンマスターからポーションを貰った人間がいるって話だったのに!?」
「そりゃデマだな」
気が向いたらアイテムを渡してやることはあっても、ポーションなどの人間が絶対に欲しがるアイテムは交渉に役立つから、相応の理由がないと渡さないし。
「頼む! 我々にはあなたに頼る以外に方法がないんだ!」
「お願い、子供を助けるためにも……」
「ギブミーポーション!」
最後のやつは絶対余裕あるだろ。
「ダメだ。例外を認めれば次から次へと同じような奴が来るだろうが。俺が用意できるポーションにも限りがあるのに、無償で渡せるわけがないだろう」
俺がそう言って突き放すも、何人かはすがるようにこちらへと近づいて来ようとした。
「そんな事言わないで――」
「先ほど警告したはずです。近づかないように」
だが、イーヴがすぐに遮り、彼らが近づけないように剣を向けて俺を守る。
「くっ……。どうしてもダメなのかダンジョンマスター……?」
「ああ、ダメだ。欲しければここに書いてある通り、他のダンジョンで魔石を集めてくるなりするんだな」
さっきまで様付けで呼んでいたのに、ポーションを渡す気がないと分かったら、すぐに敬称が外れたな。
「……そうか、分かった」
「待って! 私は子供を治すために欲しいのよ!? あなたは子供を見捨てるというの!?」
30代くらいの女性がヒステリック気味に訴えてくるが、正直言ってイラっとするな。
「子供を盾に強請ってくるな。誰にポーションを使うかどうかなんて関係ない。取引できないなら帰れとさっきから言ってるだろうが」
ここで情にほだされれば他の奴らにも同じようにすがられて、全員に渡すことになる。
そして今後次から次へと同じようなのが来て、最終的にもう渡せないってなった時、結局今と同じ光景になるだけだ。
しかも『他の人には渡して自分達には渡せないのか!』と言い出し始めて、余計に酷くなるのが目に浮かぶ。
だったら最初から無償で渡さなければいいだけだ。
「子供が苦しんでるのよ。見捨てるなんてありえないでしょ!」
「いい加減にしなさい。これ以上マスターを不快にさせないでください」
女性の叫びの直後に、イーヴが冷たく告げた。
彼らはしばらくその場に立ち尽くしていたが、イーヴの剣先がわずかに揺れるたびに、じりじりと後退していく。
やがて誰かが小さく舌打ちし、諦めたように踵を返した。
それにつられるように他の者たちも続き、重い足取りで〝商人の間〟の出口へと消えていった。
「はぁ、ようやく出て行ったか」
「お疲れ様ですマスター」
「ホントにな。イーヴもありがとな」
「当然のことですのでお気になさらず」
奴らは散々人に頼ったあげく、未練と悔しさと、そしてわずかな敵意が混じった視線を向けてきたが、俺はそれを受けながら何もしなかった。
一瞬始末することも考えたが、さすがにそれはリスクが大きいからな。
やれやれ。
こういうのは本当に気が滅入るな。
だが、ここまでハッキリ言えば次からは似たような奴らが来るのは減るだろう。
そう思っていたんだがな……。




