第84話 宗教?
青年から〝商人の間〟でダンジョンマスターを呼ぶ人間達について尋ねたが、詳しい事は何も分からなかった。
何故そんな事をしているのかも、いつごろからそんな事をし始めたのかも分からないらしい。
「私がそれに気づいたのは5日前くらいからですね。
他のダンジョンに行って魔石を回収してきたので、それで何か交換できないかと確認に行ったのですが、10代から50代くらいの男女が『ダンジョンマスター来てください』『ナオト様来てください』って、ずっと呟いてて怖かったですよ」
「なんだその新手の宗教みたいな状態は」
そんな奴らがいたら、誰だって〝商人の間〟には入りづらいだろう。
もしかして最近ポイントの増加が妙に多いのは、繁盛期だったからだけでなく、そいつらが負の感情を抱えてるのと、それに邪魔されてイラついてるやつらのせいでもあったのか?
「一応聞きますけど、新しい宗教でも開きました?」
「生憎と無宗教だし、開祖を目指す気もねえ」
「ダンジョンマスターが開祖をやるとか、十分有り得そうですけどね」
ポーションとか色々出せるから、人間に自身を信仰させて、宗教活動の一環として懺悔室みたいなところで負の感情を吐き出させ続けるとかしたら、ポイントを大量に得られそうではあるな。
適当な思いつきだったが、人間と交渉できるダンジョンマスターならやれそうだ。
俺の場合、アイテムとかは[ガチャ]頼りのせいで難しいから、今はまだできそうにないが。
「話してくれてありがとな。ちょっと〝商人の間〟の方に行ってくる」
「私が言う事じゃないかもしれませんが、気を付けてくださいね」
「あいよ。……あ、そうだ。話の礼にこれをやろう」
俺はもし人間に会った際、気まぐれに渡そうかと思って持ってきていたアイテムの内の1つ、〝軽減のネックレス〟(レア度:R)を青年に渡した。
「ネックレスですか?」
「身に着けてるだけで、ダメージを少しだけ軽減する効果のある魔道具だ」
「え、マジですか!?」
ネックレスと俺に視線を何度も往復させながら驚いていた。
「いいんですか、こんな凄いものを貰っても?」
「一定以上のダメージを受けたら壊れるから、そこまで大したものじゃない」
[ガチャ]で出てくるアイテムの中でも、それほど惜しくないヤツだし。
その内宝箱の中に入れるつもりの物だったので、あげても全然問題はない。
「ありがとうございます! 壊れるとしても、ダメージが軽くなるのは助かりますね」
「うちのダンジョンじゃ3階層までなら強い魔物もいないし、仮にアバターで死んでも帰還しやすいから、あまり活躍の場はないかもしれんがな」
「そうですね。他のダンジョンに行く時は身に着けていくことにします」
喜んでいる青年に見送られて、俺は1階層へと向かう。
その道中、イーヴに青年が話していた事について尋ねる事にした。
「イーヴは〝商人の間〟がそんな事になってるなんて知ってたか?」
「いえ、初めて知りました」
「〝酒場〟じゃ、そういう話を聞いたことなかったのか?」
「人間達の会話を気にした事がなかったので」
「それじゃあこれからは情報収集も兼ねて、少しでいいから気にしてくれ。そしてもしこのダンジョンに関わるような話で、俺が聞いておいた方がいいものであったら報告してくれ」
「かしこまりました」
イーヴはまだ積極性が薄いな。
とはいえ、命令したことはきちんとこなすから、今後は何かあれば報告してくれるだろう。
今回みたいなのはそうそうないとは思うがな。
そうこうする内に1階層へと辿り着き、魔物部屋でホーンラビットと戦っているやつの横を通り過ぎ、目的の〝商人の間〟に着いた。
「……いるな」
「はい。6人います」
別に尋ねたわけでなかったんだが、イーヴが数まで正確に答えてくれた。
その6人は明らかに〝商人の間〟の正しい使い方をしていない。
本来〝商人の間〟は魔石や相応の物品をこちらの用意した商品と交換できるものだ。
それにもかかわらず、その6人は――
「「「「「「来てくださいダンジョンマスター様!」」」」」」
全員が俺をただひたすら呼んでいた。
こんな連中がいる中、〝商人の間〟に入りたがる奴はまずいないだろう。
せいぜい政府の人間が仕事だから仕方なく入るのであって、そうでなければ回れ右していること請け合いだ。
行きたくねぇ……。
俺だってそうだ。
関わると面倒にしか思えない連中がいるのに、何故好き好んで行かなければいけないのか。
だが、このまま無視し続ければ〝商人の間〟を占領され続け、ここに興味を持った人間が寄りつけなくなる。そしてその結果ダンジョンに行っても〝商人の間〟に入れないという噂が広まろうものなら、このダンジョンに来る人間が減る可能性がある。
それはさすがに許容できない。
ダンジョンに入らなくても負の感情エネルギーは吸収できるが、遠方にいる人間は少なくとも近くまで来てもらわないと吸収できないのだから。
「……おい、なにをしている」
俺は仕方なく。本当に仕方なくそいつらに声をかけた。
「あ、ああっ……! 来てくれたんですねダンジョンマスター様!」
「ポーションを、ポーションをくれませんか!?」
「お願いします、助けてください……!」
うっわ、最上級の面倒ごとだろ、これ。




