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運で決まる。ガチャつく現代ダンジョン  作者: 甘井雨玉
2章

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第83話 野生のダンジョンマスターが現れた


 ヴェッセルナイトを使ってダンジョンを移動中、イーヴは常に俺から三歩下がった位置で着いてきた。

 格好がバーテンダーの服なのもあり、ちょっと執事っぽい。


「イーヴは何か欲しいものとかあったりしないのか?」


 イーヴとこうして2人で話す機会もないので、せっかくだから要望がないか聞くことにした。

 他の名付けした連中だとそれなりに要望を出してきたりするのだが、イーヴはこっちから聞きに行かないと、今後も特に主張してきたりしないだろう。

 テン君ですら食べ物の要望を出すのに、イーヴはそういった要望を一切出さないんだよな。


 ちなみにテン君からは、もずくなどの少しヌメヌメした食べ物を要求された。

 テン君は獲物の体液を栄養としているのだが、嗜好品としてそういった食べ物を好むようだ。


「欲しいもの、ですか……」


 イーヴは少し困った表情を……いや、表情は一切変わってなくて、そんな雰囲気を出してる気がするだけなんだが。

 無表情がデフォなせいで、感情が読みにくいんだよな。


「これといって必要な物はありませんが」

「何もないのか?」

「はい。不便はありません」


 不便じゃないのと、欲しいものがあるかは別だと思うんだが。


「欲しいものがあれば遠慮せずに言えよ」

「かしこまりました」


 本人が思いつかない以上仕方ないか。

 無理して聞き出すものでもないし、そもそも前まで自我が希薄だったから欲求もそこまで強くはないのだろう。


 2人で話しながら1階層へと向かう。

 話ながらと言っても、俺に聞かれたことをイーヴが答えるだけで、イーヴから俺に何かを聞いてくることはなかったが。


「〝酒場〟でバーテンダーやってもらってるけど、嫌じゃないか?」

「マスターの命令ですからお気になさらず」

「好きか嫌いかを聞いてるんだが?」

「……申し訳ありません。分かりません」

「特に何も感じてないってことか?」

「……いえ、マスターからの指令を全うしたいとは思っています」

「人間についてどう思う?」

「特になんとも」

「〝酒場〟でバーテンダーやってたら人間に話しかけられることが多いと思うが、どうしてるんだ?」

「注文されたお酒は提供しています」

「会話はしてないってことか?」

「はい。不要なので」


 こんなような会話をしながら1階層へと向かったわけだが、イーヴが普段何を考えているのかを多少知ることができた。


 命令されればするが、そうでなければ必要最低限の行動しかしないようだ。


「ちなみに〝名付け〟をあっさり受け入れたが、それは自我が薄かった時だろ。今は後悔したりしてないのか」


 〝名付け〟を受け入れると強くなれる代わりに、ダンジョンマスターと一蓮托生になってしまうからな。


「ありえません。マスターはマスターなので」


 先程までの感情が希薄だった発言と違い、力強くそう言われてしまった。

 そこまでハッキリと言われると少し嬉しいな。


「そうか。なら見限られないよう、マスターとして頑張ろうかね」


 とはいえ、出来ることなんて[ガチャ]で引いたものを適当に配置したり、人間と交渉したりするくらいなんだが。


「あ、ダンジョンマスター!?」


 3階層に辿り着いたら早速大学生くらいの青年と遭遇したか。

 スマホを手に持って撮影をしていないようなので、配信者ではない模様。

 まあここに入ってくる人間の数に比べたら、配信者なんてそんなにいないのだから当たり前なんだが。


「あの、サインもらってもいいですか?」

「ダンジョンマスターに会って要求するのがそれでいいのか?」


 俺は芸能人でもなんでもないし、自分のサインなんて考えた事もなかったから、ただの署名になるぞ。


「悪いがサインは遠慮させてくれ」

「そうですか。分かりました」


 素直に引き下がってくれて助かる。

 でもこれが普通であって、チョウカンが特殊なだけか。ダンジョンマスターなんて存在相手にグイグイ来る方がおかしいんだよな。


「今日、ダンジョンマスターがダンジョンを歩いてるのって、政府と交渉したりするためですか?」

「いや、今日はダンジョンを見て回って、改善点や人間から意見を聞こうと思ってな。何か要望とかはないか?」

「まさかダンジョンマスターから、要望を聞かれる日が来るとは思いませんでした。自分の立ち位置で言えば侵入者なのに」

「それを言ったら、今まで人間相手に交渉してる俺がおかしいことになるから」


 普通のダンジョンであればそんな事できないから、普通じゃないのは間違いないのだが。


「それで、何かないのか?」

「そうですね……あっ」

「なんだ?」


 青年は何か思いついたのか、少し困ったような表情を浮かべた。


「えっと、その……」


 どこか言いにくそうにしているが、どうしたんだろうか?


「俺の方から聞いてるんだから、おかしな事を言っても無礼だとか別に言う気はないぞ?」


 俺がそう言うと、少し肩の力を抜いた青年がポツリと話しだした。


「……あの、〝商人の間〟なんですが、あそこでダンジョンマスターを呼ぶ人が時折いて、中に入りづらいんですよね」

「はい?」


 なんだそれは?



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