第82話 繁盛期
≪ナオト(仮)SIDE≫
最近なんかおかしい。
具体的にはポイントの収入が妙に増えているのだ。
ダンジョンの宣伝が上手くいって人が増えた影響かな? と最初の頃は思っていた。
しかし、日に日にポイントの増加が妙に多くなるのだ。
人が増えているにしても、ここまでポイントが増えるほどではないはずなのに。
「スライムが倒され過ぎて、倒せる魔物がいなくてイライラさせてるんだろうか?」
「それはないんじゃないですか? マスターが人があまり来ない夜中に、3階層のスライムを回収してもらって、地道に〝再誕の巣窟〟に登録してるじゃないですか。
むしろ多すぎるくらいで、4階層とかに一時的に移動させたりしてるくらいですよ」
「だよな」
マルティアの言う通りなので、魔物が枯渇しているという線はなさそうだ。
だとしたら、何故こんなにポイントが増え始めたんだ?
「なにかダンジョンに不満でもあるんだろうか?」
「普通、ダンジョンマスターがそれを気にするのは集客率が落ちそうな時ですよ」
「でも気にならないか?」
「それはまぁ気にならないと言えば嘘になりますが、ダンジョン内の人間の様子を見る限り、ダンジョンに不満はなさそうですよ?」
2階層で罠にかかって不満気にしているのはいるが、それ以外ではせいぜい1階層の魔物部屋での順番待ちくらいなもの。
それにクラスを得るために1階層の魔物部屋で魔物を倒さなくても、2階層や3階層に同程度の強さの魔物がいるので、そっちに行けばわざわざ順番を待つ必要もないから、そこまで不満はないはずだ。Wi-Fiもあるからスマホで暇を潰せるしな。
う~ん、分からん。
「理由が分からないってのは、なんか気味が悪いな」
「それはそうですけど、もしかしたらダンジョン以外が原因の可能性もありますし。
負の感情エネルギーはダンジョン内だけでなく、ダンジョンの外からも吸収しますから、もしもダンジョン外で大規模なパンデミックとかが起きてたりしたら、ポイントが増加することは十分有り得ますよ」
「そういう事もあるか」
さすがにパンデミックが起きてたら、ダンジョンに来てる余裕はないだろうから、それはないだろうが。
しかしダンジョンの外が原因か……ん?
「なあマルティア」
「なんですか?」
「今、何月だっけ?」
「12月ですけど?」
なんとなく原因が分かった。
「それじゃね?」
「はい?」
「12月って繁盛期の会社が多いじゃん」
「へ~そうなんですか?」
「12月が師走って言われるくらい忙しいからな」
その辺は社会の枠組みに入った事がないと認識しづらいかもな。
「じゃあ毎月繁盛期ってのになってると、もっとポイントが手に入るんですね!」
「いや鬼か」
そんな事になったら、この世からバイバイしそうな人間が大量に出てきてとんでもないことになるぞ。
まあそれはいいとして、ダンジョンが大きくなって負の感情エネルギーの回収範囲が広がったのもあり、近くの会社の量産された社畜から回収しているのだろう。
原因がなんとなく掴めたから、一月待っても増加傾向にあるなら、その時は調べることにするか。
◆
ポイントの収入が増え始めて3週間ほど経過したが、まだまだポイントは増加傾向である。
クリスマスが近いからむしろ佳境と言える。
かつて自分も月の残業100時間越えを経験して大変だった覚えがあるが、その時の俺以上に心をすり減らして働いているのだろう。
もう二度とそんな目に遭わなくて済むと思うと、ダンジョンマスターになれて本当に良かった。
唯一の不満があるとすれば自分がダンジョンを楽しめないことだが、ヴェッセルナイトを使えばダンジョン内を散策して人と交流することができるので、そこまで不満ではない。とはいえ、あの配信以降は一度だけしか徘徊できてないが。
そう思うと久々に1階層へと行ってみたくなってきた。
「よし、久々にヴェッセルナイトでも使うかな」
「最近はマスター目当ての配信者達も少なくなりましたし、前みたいに群がられなくて済みそうですからね」
あの配信の直後は、その配信者達みたいに自分達も恩恵に与りたいとめちゃくちゃ絡まれたからな。
3階層の宣伝はあれ一度だけで十分だし、後は勝手に拡散されていくのだから、配信者の活動に協力してやる意味もない。
以前断られて、最初の3階層の宣伝に参加出来なかったとか言ってくるやつもいるが、それに応じてやる義務はないのでスルーした。嘘か本当かの判別もできなかったしな。
さすがに断ったやつ全員覚えてるわけじゃねえんだよ。
それはともかくとして、早速行く事にするか。
「お待ちください、マスター」
「うん?」
「また前のようにおかしな人間が現れるとも限りません。自分も着いて行きます」
そう言って現れたのはホムンクルスのイーヴだった。
〝酒場〟でバーテンダーを日替わりでやらせるようになった際、せっかくなのでバーテンダーの服(レア度:N)をやったら、それを気に入ったのか、ずっとそれを着るようになったため、今もそれに袖を通している。
中性的な見た目のせいで男なのか女なのか余計に分かりにくくなっているが、生殖器は備わっていないのでどちらでもない。
「そんなに警戒するほどか?」
俺自身が行くのならともかく、ヴェッセルナイトを操作するのだし、俺に身の危険はないのだが。
「不快な存在がいたらマスターの代わりに排除するためです」
ホムンクルスという存在の性質なのか、最初は自我が希薄だったのに、最近では自己主張をするようになったな。
かなり真面目でよく言う事を聞くので、拒否するほどのことでもないし、連れて行ってやるか。
「分かった。一緒に行くか」
「ありがとうございます」
またあのチョウカンみたいな迷惑系がいた時は、追い払ってもらうとしよう。




