第76話 今更では?
危うく死ぬところだったからか、チョウカンは尻もちをついた状態でこっちを指さしてきた。
「ふざ、ふざけるなよ!! てめぇ、マジで炎上が怖くねえのか!!?」
おっと、すぐに起き上がったチョウカンが俺を指さして怒鳴ってきたな。
「さっきも言ったが、モラルの無いやつを仮に殺したとして、その結果人類に恨まれても、『お前らあんなの擁護するような程度の低い生き物なの?』って思うだけだ」
・あ、ダンジョンマスターだもんな
・言葉通じてるから勘違いしそうになるけど、人間じゃなかったわ
・これは強い
しのぽんのリスナー達のコメントを横目で見る限り、チョウカンを傷つけたことによる非難は特に来ていないようだ。
「仮にお前らが俺を敵に回すというのなら、それはそれで仕方ないな。人類の味方でいたかったが、敵対するという相手に対して容赦する必要もない」
・え、つまり今までポーションとか取引できてたし、ダンジョンを学ぶ場を創ってくれてたのに、チョウカンのせいでそれが無くなるってこと?
・いや、それだけじゃないぞ! 今後友好関係だったら有り得たかもしれない、まだ未知の利益も失うことになる
・は? こんな害悪のせいで、唯一の友好的なダンジョンマスターを失うとか有り得ないんだけど!?
ふむ。少なくともヘイトは俺じゃなくてチョウカンに向いてるっぽいし、問題はなさそうだな。
「そんな事はともかく、お前はいつまでここにいる気だ?」
「は? まだ話は終わってねえぞ!!」
「今度はホントに死んでもらうぞ?」
「えっ?」
・あっ、そっか。ダンジョンで死んだら、その場でアバターから元の肉体に戻るんだっけ
・え、どういう事?
・つまり、今死んでもアバターから生身に戻るだけだけど、次は死んだら生き返れないってこと
チョウカンやこの場にいる者達、そしてリスナーもその事にようやく状況を把握した。
「マスター。今度は殺せばいいのか?」
「胸でもお腹でも好きなところを貫いてあげるよ~」
「ヒイイイイッ!?」
リィフェリアとルナの発言に慌てふためき、チョウカンは急いでダンジョンの外へと出て行ったな。
「邪魔なのが消えたし、ようやく今日の目的が果たせるな」
「少しスッとしましたけど、良かったんですか?」
「何がだ?」
しのぽんが心配そうにこちらの顔をのぞき込んでくるので、俺は首を軽く傾げながら聞き返した。
「私達はチョウカンに配信中に乱入されたりと迷惑をかけられたことがあるので、今の行動は称賛したいくらいです。
ただ、人類の味方を名乗るダンジョンマスターが人に危害を加えたなんて話が広まったら、このダンジョンに来る人が減りそうですけど……」
「それならそれで仕方ないさ。あんな奴に絡まれて好き勝手言われてることに我慢できなかった。それに――」
「それに?」
「元々ダンジョンマスターってそういう存在なのだから、今更では?」
人の負の感情エネルギーを集めて成長していく存在なのだから、他のダンジョンマスターは基本的に人類を恐怖させたりしようとするものなんだよな。
「あ、なるほど。確かにそうですね」
・負の感情を集めてることは知ってたし、普通のダンジョンマスターは人に危害を加えるわな
・え、でも怖くね?
・いや、他のダンジョンマスターに比べたら、迷惑系すら殺さずに追い返すだけで済ましてくれるだけマシだろ
・そもそもさっき、チョウカンをいつでも始末できたのに、結局見逃してるしね
俺に対して多少なり恐怖を抱く者もいるようだが、それでもごくわずかの人間がそう思う程度のようだな。
そう思っていたら周囲にいた他の配信者達に囲まれ出した。
「でもでも、ナオトさんが悪く言われてたら私達はちゃんと擁護しますから!」
「バズる機会をくれるおれ達にとっての恩人だしな!」
「代わりに取れ高ぷり~す」
なんだそれは。
思わず、ふっと笑ってしまうくらい気の抜けたことをいう奴もいるが、誰も俺に対して負の感情を向けていないのが笑えてくるな。
俺、ダンジョンマスターなんだけどなぁ……。
まあいい。世間の評判がどうなるかは今考えても仕方がないし、そろそろ動くとするか。
「取れ高になるかは分からんが、今からお前達をいいところに連れて行ってやる」
「「「どこですか?」」」
全員が一斉に尋ねてきたので、俺は2階層への階段の、そのさらに先を示すつもりで指をさした。
「3階層だ」
全員が『え、あの死ぬ可能性があると看板に書かれてたとこ?』みたいな表情を浮かべて少し怖気づいた様子を見せているが、俺の次の言葉でそれが一変した。
「リニューアルして安全性が増した後、まだ自衛隊くらいしかろくに入っていない場所だから、世間にはまだどうなってるか知られていないはずだが行くか?」
「「「行きます!」」」
全員が一斉に目を輝かせて即答してきた。




