第75話 殺してないから
しのぽんと雑談しながら待つこと1時間。
その間に続々と慌てた様子でダンジョンに入ってきた配信者達が集まってきた。
「あの、ボク達も撮影に参加していいですか?」
「悪いな。配信の始めにも言ったが、先日撮影を断った配信者たち限定なんだ。今回関係のないやつは遠慮してくれ」
「そうですか……」
もちろん便乗して参加しようとしてくる者もいるが、そいつらは当然断った。
そういう奴らはともかく、以前断った配信者たちの何人かは元々今日は撮影するつもりでいたのか意外と早く集まったものの、1時間ギリギリに現れた者もいた。
かなり急いで来たのか、青年が額に汗を垂らして膝に手をつきながら、こちらに顔を向けてきた。
「はぁはぁ、本日は、よろしく、はぁはぁ、お願いします……」
「大丈夫か?」
「すいません、はぁはぁ、急いで来たので。……準備時間が1時間は短すぎますよ」
「すまんな。俺が先にSNSで告知できてれば良かったんだが、ダンジョンのルールなのか、見る事はできても発信はできないんだよ」
「そうなんですか?」
そうなんだよ。
もしそんなルールが無ければ、Wi-Fiを設置できた段階でスマホ使って人類とコンタクトできたし。
わざわざ配信者に頼らずとも、自分のチャンネルを作って発信すればいいだけだからな。
「さて、まだ来てない奴らもいるが、そいつらは運がなかったということで、そろそろ行く――」
「ちょっと待ったー!!」
「うげっ」
俺の近くにいたしのぽんが思わず顔をしかめて声のした方を見た。その瞬間、しのぽんが手にするスマホから見えたリスナー達のコメントが爆速になった。
・チョウカン、まさかの登場!?
・チョウカンキタ―(゜∀゜)―!!
・チョウカンが乱入して、ある意味歓迎されるのは今この時だけだろうな
「企画練ってたらまさかのダンジョンマスターの企画が行われるなんて、そんなの参加しないわけにはいかないじゃん!」
派手なパーカーがトレードマークなのか、それを今日も着たチョウカンがこちらに指さして、以前と同じように鬱陶しく絡んできた。
「配信やSNSで見なかったか? チョウカンはNGだ。帰れ」
・即拒絶w
・当然の反応だな
・魔物けしかけないの?
いくらムカついても、いきなり魔物をけしかけたりはさすがにしないぞ。
「そんな事言わないでオレっちにもやらせてくれよぉ!? 視聴者も期待してんだしさぁ! ほらほら、ダンジョンマスターさん、空気読んでよ〜?」
・うわ出た
・迷惑ムーブ全開で草
・どうすんのダンジョンマスターさん?
イラッ。
「サムネも“ダンジョンマスターに再び突撃してみた”で準備しておいたのが丁度あるんだよ! それにここで追い返したら逆に炎上するって! いやマジで!」
・タイトルやべぇ
・なんでダンジョンマスターにこんな態度が取れるのか
・もう帰れ
チョウカンはさらに一歩踏み出し、俺の肩に手を置こうとした。
「なぁなぁ、いいじゃん? どうせ配信者集めるなら、数字持ってるオレっちがいた方が盛り上がるって! 感謝してほしいくらいだよ?」
イラァッ……。
・ダンジョンマスター怒ってね?
・ダンマスの肩に触れたら終わるぞ
・魔物出していいよもう
リスナーも周囲の空気もやっちゃえ、って雰囲気になってきたし、これ以上我慢する必要もないだろう。
「リィフェリア、ルナ。追い払え」
「「かしこまりました」」
「「「っ!?」」」
突然現れたエルフとサキュバスである、リィフェリアとルナに配信者もリスナーも驚いているが、リィフェリアの魔法で身を隠して潜んでいただけだ。
こういう輩が現れた時に対処してもらうためにな。
ついでに、こいつらがいるとリスナーが増えるらしいので、今回は宣伝目的だから来てもらったのもある。
「ふん、マスターを不快にさせた罪を思い知れ」
「そうだね~。新しい武器の肩慣らしをさせてもらおうかな~」
そう言って2人はこの前渡した弓と槍を構える。
リィフェリアとルナが一歩前に出た瞬間、チョウカンの顔から余裕がスッと消えたな。
「え、ちょ、ちょっと待って? なんで武器構えてんの……?」
散々警告したし、来るなら覚悟して来いと言ったはずだが?
・あ、これガチのやつだ
・チョウカンの顔色変わったぞ
・初デスくるか?
「お、おいおいおい……!? 今の身体がアバターって言ってもさ、殺されるほどのことはしてなくね!? 初めてがこれっておかしくない!? ねぇ!?」
「むしろ美味しいだろ、喜べよ。
あ、他の配信者達はBANされるかもしれないから、ここからは音声だけにした方がいいぞ」
俺が冗談めかしてそう言うと、しのぽん含めて全員がカメラを下に向けるか、自身の顔だけが映るようにしていた。あ、ガチでヤルって思われてんのね。でもリィフェリアとルナの2人の興が乗ったらワンチャン有り得なくはないか。
そうして最悪殺しても問題なくなった時、リィフェリアが冷ややかに矢をつがえる。
「安心しろ。丁重に殺してやる」
「安心できるかぁぁぁ!!」
そんなリィフェリアとは対照的に、ルナは槍を軽く回しながら、にこにこと笑ってチョウカンに徐々に近づいていく。
「大丈夫だよ~。痛覚はちゃんとあるけど、死んだら元に戻るから。ね?」
「『ちゃんとあるけど』って言ったよね!? 今『ちゃんとあるけど』って言ったよね!?」
・草
・痛覚が無ければこんな必死になってなかっただろうな
・チョウカン、逃げろ(笑)
いつ殺されてもおかしくない状況でありながら、チョウカンはそれでも必死にスマホを構えながら叫びだした。度胸だけは人一倍だな。
「ふざけんなよ!! てめえ炎上が怖くないのかよ!」
「ダンジョンマスターが炎上を恐れるわけないだろ。モラルのなってない奴はこうなるという見せしめになって、むしろ好都合だ」
俺がそう言い終えた瞬間、リィフェリアが矢を放ち、ルナが地を蹴った。
「ひっ……ま、待っ――」
チョウカンの悲鳴がダンジョンに響き渡る。
「ギャアアアアアアア!!?」
・悪は滅びた
いや、滅んでないから。
ちょっと攻撃を掠めた程度で、大した怪我もしてねえよ。




