第72話 正直すまんかった
〝再誕の巣窟〟の前にはすでにたくさんの魔物が集結していた。
〝再誕の巣窟〟はパッと見洞窟のような見た目だが、洞窟の壁面は岩ではなく、脈動する膜のような表皮で覆われていた。
入ってすぐに行き止まりになるので奥行きは狭く、仮に侵入者がここに入ったとしても何もないとすぐに引き返すことになるだろう。
〝再誕の巣窟〟の登録はその中に魔物に入ってもらって、俺がスマホを操作して行うことになる。
二百体近く魔物がいるから地味に大変な作業だ。
ん? 登録時には〝名付け〟が行われている魔物は、その名も登録することになるのか。
だったらちょうどいい機会だ。
「マルティア。エルフとサキュバスはダンジョンコア内に呼んでくれ」
「了解です」
マルティアにそう指示すると一分も経たないうちに2人が現れた。
「どうしたのだマスター?」
「何か用事~?」
エルフとサキュバスだけあって容姿がかなり整っていて、慣れている俺でも思わず目を引く存在だ。
お陰で〝酒場〟でバーテンダーをしている時なんかは、酒の売り上げがよくなるんだよな。
酒を飲ませてどうするんだと人間側は思うかもしれないが、割とこちらにとっては重要な意味がある。
〝酒場〟の効果としては、酒を飲ませた人間が内に抱えている負の感情を無意識に心の奥底から引きずり出させるというもの。
これによりポイントが効率的に得られるようになるのだ。
しかも無意識だから人間側は気づかず、楽しくお酒を飲んでるだけなのに妙に心が軽くなるので、リピーターも多い。
そんな〝酒場〟だが、バーテンダーとして働ける人材はそう多くはない。
さすがに人型だからといって〝酒場〟にゴブリンがいたら落ち着いて人間側はお酒を飲めないだろうからな。
だからこの2人には大変助けられているんだよ。
「〝再誕の巣窟〟への登録前に〝名付け〟をしておこうと思ってな」
頼んだ仕事に文句を言わず真面目に役目を果たしているので、〝名付け〟を行ってもいいと思うくらいにはな。
「いいのかマスター?」
「何かしら活躍してからって話じゃなかった~?」
「そのつもりだったが、まさか半年経っても何のイベントも起こらないと思わなくてな。
これまでの行動から十分に信頼に値すると判断したのと、〝再誕の巣窟〟に登録するからちょうどいい機会だと思ったんだ」
本来ならもっと前から〝名付け〟をしても良かったが、機会がなかったんだよ。
「そういうことならありがたく〝名付け〟をしてもらおう」
「ワタシ達にピッタリの名前にしてね~」
そういう風に言われるとプレッシャーだが、気に入らなければまた考えればいいだろう。
「エルフは葉っぱのイメージからリィフェリア、サキュバスは金色の髪が月のようだからルナだ」
それなりに時間をかけて考えたがどうだろうか?
「リィフェリアか。いいな、悪くない」
「えへへ~。お月様みたいだなんて~」
2人ともニマニマとしてくれているので、どうやら気に入ってくれたようだ。
ああ、そうだ。
「あとついてにこれをやろう」
俺はそう言って2人に[ガチャ]から魔物育成アイテムのカテゴリーで出た武器を手渡した。
エルフ――いや、リィフェリアにはSR〝フィル・エアリア〟という弓を。
ルナにはSR〝ミスティルスピア〟という槍だ。
「ん、これは?」
「なんで装備までくれたんですか~」
「なに、遅れた詫びだ。それに2人が強くなればダンジョンの守りも強くなるのだから、良い装備を与えるのは当然だろ」
これらの装備はSRだけあって強化アイテムの中ではかなりの上位のもの。
〝名付け〟をしていない相手にはおいそれと渡される代物ではなかったので、詫びも兼ねて今渡したのだ。
「ふっ。それならばマスターの期待に応え、必ずや力を示してみせよう」
「ワタシもマスターのために頑張るよ~」
〝フィル・エアリア〟には風の精霊が宿っていて、その弓で放たれた矢は風を纏い、どれほど遠くにいる相手にも命中させられる。
〝ミスティルスピア〟は防御無視の効果と刺した相手を幻惑させる効果がある。
またいつダンジョンバトルのようなイベントが来るか分からないが、その時にはこの武器と共に2人が活躍してくれるだろう。
2人に武器を渡した後、〝再誕の巣窟〟への登録を開始。
二百体だけでなく、人が大勢来ることを想定して、〝草原〟に設置した〝Fランクの魔物発生陣〟から出たスライムが枯渇しないよう、出てきたスライムたちもフィギュラス達に頼んで連れて来てもらったので、その日はずっと〝再誕の巣窟〟への登録作業を延々と行う事になってしまった。
「な、なんでダンジョンマスターになってまで、こんな内職のような単純作業をし続けないといけないんだ……」
「[ガチャ]でダンジョンを創ることを決めたマスターの自業自得でしょうが」
「作業、代わらないか?」
「サポート妖精ですから、頼まれればそういった作業を代行できなくもないですよ。もちろん断りますが」
「何故に?」
「ハリセンでバンバン叩きまくった記憶をどこかにやったんですか?」
「……頑張るか」
「そうしてください」
さすがの俺も、LRを出してくれた上にハリセンで叩きまくった負い目もあって、泣く泣くこの作業をこなし続けた。
正直すまんかった。
さすがに後でちゃんと謝り、いくつか日用雑貨のカテゴリーで出たアイテムを渡して許してもらえた。




