第7話 人類歓迎。交渉でき〼
スーツの男の連絡を受けて、やって来た警察がすぐに俺達のダンジョン前を人が入れないよう封鎖していたが、ダンジョンの入口前からダンジョンの中を見てくる全員が、首を傾げて不思議そうな表情を浮かべていた。
「あの看板、そんなにおかしいか?」
「〔人類歓迎。交渉でき〼〕って書いてあったら、誰だって『なにこれ?』ってなるんじゃないですかね」
しかしこちらが交渉するつもりがあると意思表示するのは大事だと思う。
少なくとも、何かしらの情報が得られるんじゃないかと思ってくれれば、情報を引き出すためにすぐには壊されないだろう。
ただ、こんな事をしても絶対に壊されないという保証は全くない。
「ちゃんと看板に書いてあるんだから、早く政府の人間は交渉に来いよな」
「いや、そんなフットワーク軽くないんじゃないですか? 人間って年取るほどに腰が重くなるんですよね?」
「間違ってはいないが、その理屈だと政府の人間が全然来ないことにならないか? 日本の政治家の平均年齢は50歳超えてるはずだし。たださすがに国家を運営している人間が、ダンジョンなんて未知なものを解明できるかもしれないチャンスの時に行動が遅いとは思いたくないが。
今の現状ではおそらくできんだろうが、第二関門である他のダンジョンマスターの襲撃が来る前に、交渉しないといけないんだぞ。まあ関門とは言ったが
そんな手段は今のところないから、それが起こる確率はほぼないはずなんだが」
マルティアから聞いた話ではダンジョンマスターは他のダンジョンを襲撃して、そのダンジョンを奪うことができるらしい。
ろくにダンジョンを拡張していない状態だと奪う意味もないように思えるが、ダンジョンを奪えば自身のダンジョンコアが破壊されても、復活できるという仕様。
つまり、残機が増えるのである。
他にも当然所持しているポイントを奪えたり、襲撃して奪ったダンジョンのダンジョンマスターを隷属させたりすることもできるので、襲撃しない手はないのだ。
まだ手探りでダンジョンを大きくしていく段階で、いきなり他のダンジョンマスターにちょっかいをかけようとする奴は少ないし、そもそもそんな手段は今のところないのだが、一定のダンジョンの大きさになったらできるようになる仕様になる可能性は0ではない以上、できるだけ早く交渉を終わらせてダンジョンを大きくしたいところ。
「政府と交渉したいという気持ちは重々分かりますけど、日本人って慎重すぎる気質じゃありませんでしたっけ?
リスクを最小限に抑えようと入念な準備をしたり、何事も「まずは検討」「関係者と調整」とか段階を踏む文化が根付いてるせいでスピード感がないというか」
「否定はできんな。そこが本当に懸念点なんだよなぁ~。
それにしてもマルティア、随分緊張感が薄れてないか?」
「そうもなりますよ。ずっと緊張し続けたりできませんし、そもそも一番の山場は発見される最初の段階ですから、それさえ超えれば後は交渉次第になります。
ですから誰かしら人類側が来ない間は多少警戒心を緩めても問題はありません。
まあこんなダンジョンですから、警戒してるだけ無駄なのもありますけど」
一部屋しかなくて、入口から入ったらすぐにコアだから、侵入者に対処しようとする前にやられるだろうな。
「確かにそうだな。それじゃあ何か起こるまでぼんやりと待つか。
……せっかくだし〝抹茶パフェ食べ放題チケット〟使ってパフェでも食ってるか」
チケットの効果で出し放題だから資源の浪費をしなくて済むし。
「あ、私にもください」
「カワウソがパフェ食っていいのか?」
「別に本物のカワウソってわけじゃないんですから問題ありませんよ」
流暢に喋ってる時点でカワウソとは別の存在みたいなものか。
俺はチケットで抹茶パフェを2つ出すと、外の様子を見ながらマルティアと一緒にのんびりと抹茶パフェを堪能した。
◆
「全然来ねえな」
「いくら日本人が決断に時間をかけすぎる気質とはいえ、さすがに遅すぎますよ」
ダンジョンを解放してすでに3日。
あれから全く人類からのアクションがない。
「ダンジョンを遠くから覗くやつはいるんだがな」
「昼夜問わず警備員が入口で侵入を塞いでますから入って来れませんけどね。門番代わりになってくれてるので助かりますが」
「じゃああいつらが俺達のダンジョンのダンジョンボスだな(笑)」
「警備員って不利そうならすぐに仲間を呼びますよね。そう思うとなんかホントにそういうダンジョンの魔物に見えてきました」
敵対したらどこまでも追いかけてくるからかなり厄介な存在と考えると、ダンジョンの門番としてはこの上ない抑止力となってくれているので、大変助かるところ。
とは言え、こちらとしては早く交渉を済ませて自力で身を守れるようになりたいので、早急に話が通じる奴が来てほしいんだが。
「外にいる人間達の不安の感情が流れ込んでくるから多少はポイントが貯まるが、微々たるもの過ぎてガチャ1回も回せやしねえ」
「そりゃそうですよ。ダンジョンが大きくなればなるほど地上の負の感情エネルギーを吸収できる範囲も広くなるんですから、逆に言えば今はせいぜいダンジョンの入口前くらいの範囲からしかエネルギーを回収できてません」
「そういうものなんだな。というか、ダンジョン内じゃなくてもエネルギーを回収できるシステムなのがビックリなんだが」
「掃除機をイメージするとしっくりきません?」
「なんだか途端に自分の身体であるダンジョンがちっぽけな存在に思えてきた」
人間から出るゴミを回収してるとか、凄い複雑な気分だ。
自分がどんな存在になってしまったのか思い知らされたようで若干凹んでいた時だった。
『ここが例の交渉を望んでいるダンジョンですか……』
最初に俺達のダンジョンを発見した男とは違い、高そうなスーツを着た男が俺達のダンジョン前にやってきた。




