第6話 最初にして最大の関門
「本当にこれで大丈夫なんですか!? 本当にこれでダンジョン解放するんですか!?」
「何度も言っただろ。このまま普通にダンジョンを解放したところで、ろくに交渉もできずにコアを壊されるだけだ。
だったら、まだ交渉の余地が出そうなこれに賭けるしかないだろ」
マルティアは涙目で俺を揺すり、ガタガタと震えながらやっぱり止めませんかと訴えてくるが無視だ。
今更ここでチキるなよ。
「だって、だって、一部屋しかないんですよ!!」
そう。俺のダンジョンは外と繋がるゲートから入ったら、すぐにダンジョンコアがあるという狂った構造なのだ。
正確には入口であるゲートのところに〝看板〟があり、ダンジョンコアの前には〝机〟があるのだが、こんなもの障害物にもならないだろう。
ちなみに俺達はダンジョンコアの内部が居住空間となっている。
「仕方ないだろ。人類と交渉する。これしか俺達の生き残る道はないんだ。
〝看板〟や〝メモ用紙〟を使って安全な場所から交渉できたら良かったんだが、イタズラと思われる云々以前に、その方法じゃ特定の文言しか記載できないのだからどうしようもない」
なんでこんなルールがあるんだよ。
人類に下手にダンジョンに介入されたくないのか、もしもそれをするなら命を賭けろと言われてるようなものだ。
「ダンジョンコアの前でのみ人類と会話が行えるだなんて、こんなの最後の命乞いの時に行うものだと思ってましたよ」
「まあ自分の心臓や脳みそさらけ出してるようなものだからな」
そんな危険を晒して交渉するくらいなら、安全な場所でダンジョンを黙々と大きくしていく方がマシだろう。
「それじゃあダンジョンを解放するぞ。わざわざ窒息するギリギリ3日まで待ったんだ。上手くいくといいが」
「いかなかったら?」
「死ぬな」
「もうこのダンジョンマスター嫌あああああー!!」
ええい、うるさい!
もう何度も話し合って決めたことだろうが。
世間にダンジョンの存在が浸透し、情報を欲する今なら交渉ができるだろうって。
もちろん真っ先にダンジョンを解放して、ダンジョンがこれから出現し始めるから準備をしろと言うのもありだっただろう。
ただ、俺と同じでスタートダッシュが肝心だと動く奴もいるだろうから、いくつか現れたダンジョンのうちの1つだと思われた場合、交渉する前に破壊しようとする馬鹿が現れる危険が高い。
ダンジョンコアを破壊することで強大な力が手に入る、なんて物語もあるし、十分有り得る。
だが、ダンジョンが次々と現れ出したら、日本の政府ならとりあえず一般人が入って危険な目に遭わないよう、立ち入り禁止区域として封鎖するだろう。
その状態なら少なくともゲートが現れたら警察へと報告するよう報道がされ、ダンジョン内には入らないよう警告されるはず。
つまりいきなり一般人が入ってくるという事態は避けられるのだ。
まあ警告なんて無視して入ってくるであろう人間がいるのは0ではないが、少なくとも好奇心から中に入って覗いてみようと思う人間は少なくなる。
「それじゃあダンジョン解放だ」
「壊さないで壊さないで壊さないで……!」
お前が命乞いするのかよ。
ダンジョンコアが壊されたらサポート妖精も死ぬのだから、必死になるのも分からなくはないが。
『なっ、なんだ……!?』
「うわっ、最悪だ……」
「そ、そんなぁ……」
ゲートを開くまで俺達自身、ダンジョンの外の様子は朝か夜かすら分からない。
唯一分かっていたのはサポート妖精であるマルティアに、どこがダンジョンの入口になるかを知らされていただけ。
それ故にダンジョンを解放するタイミングが難しく、出来れば人が沢山いるタイミングで解放したいと思っていたができなかった。
人が多ければダンジョンに入ることが規制されていれば、ゲートに入りたくても周囲の視線が邪魔をする。
その視線を振り切ってダンジョンに入ろうと思う人間は少ないだろうから、出来れば朝の通勤時間とか昼の時間帯が望ましかったのだが、ダンジョンコアの外の様子映す画面を見る限り、今はどうやら早朝のようで、ゲートのすぐそばを横切ろうとしていたスーツ姿の男以外、誰もいなかった。
「やめろ、やめろよ……。外からすでにコアが見えてるだろうが入って来るなよ!」
「お願いです。すぐに警察に連絡するなりしてダンジョンに入ってこようとしないでください!!」
ダンジョンマスターとそのサポート妖精が言うセリフじゃないのは分かってる。
ダンジョンに人類を引き込んでなんぼなのに、それを拒絶しているのだから一周回って笑えてくる。
そんな祈る俺達に対し、こちらの事情など知りようもない男が取った行動。それは――
『もしもし、警察ですか』
「「よっしゃーーー!!」」
スマホで警察に連絡したのだった。
「よし、これで第一関門クリアだ!」
「ですね! 早朝で人が他に誰もいないのが逆に幸いでした。第一発見者が入ってこないなら、警察にここを封鎖されるまで誰も入っては来ません!」
俺とマルティアは互いにハイタッチして今は喜びを分かち合った。
まだ乗り越えなければならない関門はあるので、喜ぶのはまだ早いのだろうが、少なくとももっとも死ぬ危険のあった山場は乗り越えられたのだから、多少喜ぶくらいはいいだろう。




