第69話 勝負拒否
中村との交渉の後、しばらくすると魔石が大量に〝商人の間〟に持ち込まれ、〝ポーション〟や武具類と交換されていった。
魔石はエネルギー資源になるが、現代医学を超える〝ポーション〟や、ダンジョン攻略に役立つ武具類と交換できるのなら、損にはならないと判断したんだろう。
「上手くいったな」
「え、大丈夫なんですか?」
「なにがだ?」
マルティアが心配そうな表情を浮かべてこちらを見ているが、何でそんな不安げなんだ?
「だって[ガチャ]回すんですよね?」
「当たり前だな」
「〝魔物発生陣〟を増やす目的で魔石を提供してもらったのに、出なかったらどうするんですか?
[ガチャ]なんて運任せなんですから、出ない確率の方が高いんですよ」
マルティアの言う通りだ。
今まで回した[ガチャ]の回数を考えると、未だ1つしか出ていない〝魔物発生陣〟がそう簡単に出るとは思えない。
半年前に一度出たきり出てこないのだから、物欲センサーが仕事しすぎている。いい加減過労死すればいいんだがな。
「ま、出ないなら出ないで仕方ないだろ」
「何言ってるんですか。これで〝魔物発生陣〟を増やせなかったら顰蹙ものですよ」
「そんな事言われてもな。たとえ9万ポイントあって〝Fランクの魔物発生陣〟と交換できるとしても、俺は[ガチャ]を回すぞ」
「少しは譲歩してくださいよ!」
9万もあったら900回[ガチャ]を回せるのに何を言ってるんだろうか?
今回魔石の交換で得たポイントは13万5000ポイントあるとはいえ、勿体無いだろうが。
それにしてもFランクの魔石1つで1Pであることを考えると、意外と融通してくれたな。
向こうにも〝ポーション〟など、本来ダンジョンを散策しても簡単に手に入らないものが手に入ってるから、〝魔物発生陣〟が増やせなかったとしても文句を言われる筋合いはないのだが。
「さて、回すか……」
「こっちを見るのやめません?」
マルティアは何が起こるのか理解しているだけあって、逃げようと身構えていやがる。
いつものゲン担ぎだと悟られているようだ。
テン君達が出た時のガチャ以降、どうも下振れが激しい気がするので、そろそろ〈妖精泣かせ〉で運が上振れしてもいいころだと思うんだよな。
つまり、貴様を逃がすという選択肢はないのだよマルティア。
「マルティア、勝負だ!」
「それで毎回誤魔化せるわけないでしょ!? 今まで一度も勝てた試しがないんですけど、絶対イカサマしてますよね?!」
ちっ。寿司ワサビロシアンルーレットの後も[ガチャ]を回す前に勝負して酷い目に遭わせてるせいで、さすがに気が付いたか。
「酷い言いがかりだな。毎回真っ当に勝負してお前が負けてるだけだろ」
「仮にそうだとしても、10回以上勝負して一度も勝てない時点で、勝負する意欲を失うんですよ」
それはそう。
誰だって一度も勝てずに罰ゲーム受け続けてたら、どんなご褒美でもやる気を失うだろう。……ふむ。
「それじゃあ仕方ないな」
「あれ? いつもなら勝負を受けるまでしつこく絡んでくるのに、今日はあっさりと諦めるんですね」
「絡んでほしかったのか?」
「いえ全然。ただ、何故なんだろうと思っただけで」
確かに前回の時はマルティアがどれだけ逃げ続けても追い続け、2時間後には疲弊したマルティアが根負けしたからな。
今回もそうすると思ったんだろう。
「単純な話、よくよく考えればゲン担ぎの効果が出てないなって思ったからだな」
「その結論はもっと早く出してほしかったんですけど!!」
マルティアが小動物が威嚇するかのようにキシャーと騒いでいるが気にしない。
そんな事よりも今までの[ガチャ]の結果だ。
[称号]の〈妖精泣かせ〉の効果で運の振れ幅を大きくなっているはずなのだが、ハッキリ言って下振ればかりな気がするんだよな。
フィギュラスやテン君の時ぐらいで、他は大した事がない結果ばかりだ。
妖精の感情変動で運の振れ幅が大きくなるのが〈妖精泣かせ〉の効果だが、もしかして上振れより下振れがしやすいんじゃないのかと、今ふと思ったんだよ。
「しかし上振れした結果、フィギュラスのような強力な魔物が出てるんだよな……」
「はい? 何か言いましたか?」
「気にするな」
小声でボソリと呟いたからか、警戒して離れた位置にいたマルティアが聞き取れなかったからか少し近づいてきた。
いつもならここで捕獲に走るところだが、今回はしない。
「試しに数回普通に回してみるか?」
「普段からそうしてくれれば……、いえ、いっそ[ガチャ]を諦めてくれれ――「それはない」ばって、言い切る前に否定しないでくださいよ……」
[称号]のせいで他のダンジョンマスターと違って、ポイント交換の消費ポイントが30倍なんだから、普通に交換するという選択肢が消えてるだろうが。
「ううっ……。[ガチャ]でしかポイント消費しないせいで、サポート妖精としていまいち活躍できてる気がしないです……」
「なるほど。じゃあ今回はその方向でいってみるか」
「はい?」
何を言い出すのかといぶかしみ始めたマルティアだが、そこまでお前が思ってるような酷いことにはならんぞ。
「ほい、マルティア」
「え、急にスマホ渡してきてどうしたんですか?」
「お前が回せ」
「え?」
「お前が回して、ポイントを消費するんだ。そして――」
「そして?」
「サポート妖精なら物欲センサーに引っかからないと証明してみせてくれ」
「そんなサポート妖精の扱われ方は望んでない!」
「だが100連して何も出なかったら、ゲン担ぎするから」
「結局そんなオチですかチクショウ!!」




