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運で決まる。ガチャつく現代ダンジョン  作者: 甘井雨玉
2章

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第68話 投資


「少しいいですか?」


 こちらにとってもあちらにとっても魔石が必要なせいで、ポーションやエリクサーの交換ができそうにないことに若干気落ちしていた中村に声をかける。


「なんでしょうか?」


 先程までわずかに沈んだ気配をにじませていたが、すぐに切り替えこちらを見てきた。

 さすがは交渉専門官なだけあって、切り替えが早い。


「1つ提案してもいいですか?」


 中村は軽く顎を引き、続きを促すように視線を向けてくる。


「これは提案なのですが、魔石を私に投資してみませんか?」

「投資、ですか?」


 中村の表情は一瞬固まった。


 投資という単語の突飛さに、思考が一瞬追いついていないのだろう。

 だが、交渉専門官らしくすぐに表情を整え冷静な顔つきになっていた。


「はい。私が魔石を望むのは〝魔物発生陣〟を手に入れたいからです」

「その〝魔物発生陣〟とは?」

「1階層の最後の部屋でホーンラビットが1体ずつ出現していますが、それを可能にしている装置のことです」

「何故その装置を?」

「以前にも言いましたが、私のダンジョンは機能の一部に重大なエラーがあり、アイテム入手する際は全てランダムになってしまいます。

 そのため〝魔物発生陣〟はあの1階層にある1つだけで、人類側に倒されても問題ない魔物がホーンラビットしかいないのです。

 しかしあなた方に魔石を供給してもらい、〝魔物発生陣〟を増やすことができれば……」

「っ! このダンジョンで倒せる魔物が増え、取得できる魔石量が増えるということですか」

「その通りです」

「なるほど……。それは検討の余地がありますね」


 他のダンジョンに行って魔石を手に入れればいいだけの話なんだが、他のダンジョンに比べれば安全度が違うからな。

 アバターの状態で死んだ場合は生身でその場に復活することになるが、俺のダンジョンなら配下の魔物に命じてダンジョンから出るまで陰ながら護衛させることはできるし。


 陰ながらなのは当然死の恐怖を味わわせて、負の感情エネルギーを搾り取るためだ。

 だからもしも俺のダンジョンで魔石を集める際に、人死にが出ないようにしてほしいと頼まれた場合は、国民には決して実はある程度安全が保障されていることは内密にしてもらわないといけない。


「このダンジョンであれば少なくとも人死には避けられますよね?」


 早速言ってきたか。

 国としては魔石というエネルギー資源は欲しくても、人が死ねば関係ない人間が騒ぎ立てて責任の所在を求めて国を非難してくるから、できるだけ人が死なないように配慮したいだろう。


「さすがに完全には防げませんよ。最大限配慮しますが、アバターから生身に戻った人間がパニックになって崖から落ちたりしたら助けられませんし。

 他にもアバターの状態でマグマに落ちた場合、もしその場で復活する仕様だったらどうしようもありません」

「生身に戻る際に近場の安全な場所で復活しないのでしょうか?」

「申し訳ありませんがそれは分かりませんね。このダンジョンで死んだ人間がいないので、どのような形で復活するか知らないんですよ」

「なるほど。それなら仕方ありませんね。でしたら、アバターから生身に戻った人間が魔物に襲われないようにはできますでしょうか?」

「それなら問題はないですが、2点だけ条件があります」


 俺は指を2本立てて、中村に向けて続けた。


「1つは生身に戻った人間が魔物に襲われないからと、ダンジョンの奥に侵入し始めたら、生身であっても魔物をけしかけます」

「そんな人いるんでしょうか?」

「宝箱を設置してますから、それを手に入れるために行動する者がいてもおかしくないかと」

「確かにその可能性はありそうですね。ただせめて一度だけでいいので警告してもらえないでしょうか?」

「分かりました」


 条件のひとつがまとまったので、指を1本たたむ。


「2つ目は、このダンジョンでなら生身に戻っても魔物に襲われないという情報を拡散しないでほしいことです」

「それは何故でしょうか?」

「単純に恐怖心が大きくなるからですね。魔物に襲われないと分かっているかどうかで、死ぬ恐怖を感じるのに差がありますから」

「そうですか……」

「どうしましたか?」


 中村が何か悩む素振りを見せているが、そんなに難しい要望ではないはずなんだが。


「いえ、その条件は少し厳しいかもしれませんね」

「何故ですか?」

「もしもこのダンジョンで生身に戻ったら魔物に襲われないという体験をした者がいたとして、生身なら襲われないと勘違いして他のダンジョンで生身に戻った際、隠密行動をせずに魔物に見つかって襲われる、なんて危険性がありますから」


 なるほど。それは思いつかなかったな。

 だが、生身に戻った時点で生き残れる可能性はないと思っていいから、考えるだけ無駄な気はする。


「そうですか。しかし、他のダンジョンで生身に戻ってしまった場合、1階層ならともかく、それ以外の階層では生存が絶望的になりますから変わらないのでは?」

「ですが前もって人間側に伝えておくのとそうでないのでは、あなたの印象がガラリと変わりますよ。

 知っていたのに教えなかったなんて、あのダンジョンマスターは人類を油断させて殺そうとしている、って。

 それに1つ目の条件を受けるとなると、それをダンジョンに入る人に伝達しておかなければなりませんから、2つ目の情報を伝えないというのは無理があるかと……」


 そう言われると2つ目の条件は諦めるしかないか。


「分かりました。それなら1つ目の条件はよろしくお願いします」

「かしこまりました」

「ですが伝達する際に1つ追加でいいですか?」

「なんでしょうか?」

「『生身でダンジョンを移動する際、ダンジョンの罠は無効にならず、大怪我を負っても治らない』、と」

「なるほど。それなら問題ないかと」


 事実を伝えてるだけだし、罠にかかってケガしても治らないと分かってれば、ケガをする恐怖でそれだけでも相応の負の感情エネルギーは得られるだろう。


 俺はその後、中村にダンジョンの数がなぜ半分に減ったのかなどを聞かれたので、分かることは教えてやった。


 そのついでに、魔石を得たいのであればカグラのダンジョンを利用するよう勧めておいた。

 あそこは俺と協力関係にあり、生身でも襲われないよう配慮してもらえるからだ。

 そのことを中村に伝え、そちらへ行くのが安全だと説明し、今日の交渉はひとまず終わった。



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