第61話 配信者
「あなた凄い格好してますね」
「ん?」
ダンジョンの入口近くで待機してたら、俺の近くで大きな声で話しかけてきた男がいた。
手には自撮り棒兼スタビライザーのような機材が握られていて、そこに備え付けられているスマートフォンのレンズが地面を向いていた。
「すみません、少しお話いいですか?」
「……人が来るのを待ってるから、それまでだったら構わないが」
なんだこいつ?
スタビライザーなんてものを使ってるあたり、おそらく配信者か。
「それと撮影もいいですか? 必要でしたら……全身甲冑ですから顔が映る事はないですが、身体だけの撮影だけでもダメでしょうか?」
「撮影なら全身映してもらっても問題ない」
撮られたところでプライバシーが暴かれる事もないし、これでこのダンジョンにさらに人が来るきっかけになってくれるなら儲けものだしな。
「ありがとうございます。私は脱サラ冒険配信のダツサラ・レンと申します!
会社辞めてからは、こうして配信活動をしてましてね。
今日はこのダンジョンで活動させてもらってるんですよ」
ダツサラ・レンと名乗る男は続けて配信慣れした笑顔を浮かべ、こちらの全身を構えてるスマホで上から下に往復させて映していた。
「いやぁ、しかし全身甲冑の方にお会いできるとは思いませんでした。
視聴者さんも絶対喜びますよ。もしよければ、ダンジョンの感想とか、
どんな目的で来られたのかなんかも伺えたら嬉しいです!」
「………」
そう言われても、自分のダンジョンの感想とか、元々このダンジョンにいたのに来た目的とか言われてもな。
「あれ? 緊張してますか?」
「いや、ちょっと返答に困っただけだ」
「と言うと?」
仕方ない。思った事をそのまま言うか。
「自分の創ったダンジョンの感想とか言われても、ここまで創るの大変だったなってくらいだぞ」
「えっ!?」
◆
≪ダツサラ・レンSIDE≫
今日は今話題のナオト(仮)のダンジョンに配信に来ていた。
今更何番煎じもいいところだが、それでも配信がある程度伸びるのは確定してる。
1階層最後の部屋での魔物の討伐や、2階層の罠を掻い潜って移動してる時にわざと作動させたりすると、見てる人達がハラハラしだして注目されるからな。
しかし出来れば他の配信者とは違う取れ高が欲しいところ。
そうすればさらに再生数や登録者が増やせるんだが……。
3階層へ入ればワンチャン取れ高がありそうだが、死ぬ危険がある場所への侵入は中々勇気がいる。
配信者の中には取れ高欲しさに入っていこうとしたやつがいるらしいが、そいつは運悪く、いや、運良く3階層に入った直後に大型犬の群れらしき存在に襲われかけ、慌てて2階層に戻って事なきを得ていた。
取れ高バッチリな上、五体満足で生きてるのだから儲けものだろう。
しかも魔物は2階層にまで追って来なかったのだから、運が良すぎる。
「一応3階層の入口で覗くだけはするが、そこに魔物でもいてくれればいいんだがなぁ~」
ダンジョンでは入った瞬間に仮想の肉体――アバターに切り替わり、大怪我を負ってもダンジョンを出れば元に戻るのだが、痛みは当然あるのでそんな目には遭いたくない。
配信者の中にはその特性を利用して、ダンジョンの入口近くで刃物を自分に突き立ててわざと大怪我し、ダンジョンを出て完全回復とかやるやつもいるが、注目度は高くても流血沙汰のせいでBANされてしまっていたりするから、企画は慎重に考えないとな。
「よし、始めるか」
一応周囲に注意喚起と許可をもらって、今から配信を始めることを伝えて開始する。
「どうもー! 脱サラして自由に生きる男、ダツサラ・レンです。今日は今話題のナオト(仮)のダンジョンにやって来ましたー!」
・始まった
・脱サラしてダンジョンで配信するとか自由すぎ!
・他の配信者も潜ってるけど、魔物じゃなくて動物ばっか出てくるとこじゃん
「お、コメント早いな! 今日もみんな来てくれてありがとな!
もうみんなもナオト(仮)のダンジョンは耳にしたこともあれば知ってる人もいるかもしれないけど、ここ最近めちゃくちゃ話題になってるから、オレも遅ればせながら潜りに来ました」
・遅くない?
「なんでそんな酷い事言うの!?」
・草
・泣き顔可愛い
わざとらしくオーバーリアクションで悲しい表情をしたら、思いの外反応が返ってきた。男の泣き顔に可愛いって何? って思うけど、意外と変なのが受けたりするんだよな。
そういうリスナーの反応がすぐに分かるのは配信のいいところではあるから、動画よりも配信が多めなスタイルでやってる。
だからナオト(仮)のダンジョンにWi-Fiが設置された時はマジで神!? って思ったわ。
「確かに他の配信者もいっぱい来てるけど、オレはオレで『ダツサラ視点』の取れ高を狙っていくんで、最後まで見てってくれよ!」
・タヒぬのか、ダツサラ……
「死なねえよ!? そもそもこのダンジョンは他のダンジョンと違ってかなり安全だろうが!
……まあでも、ちょっとくらいはスリルも欲しいよな? 罠とかあったら軽く触ってみるかもしれん」
・ワクワク
・感覚遮断の落とし穴希望
「誰得!? いや、オレが落ちたらそれはそれで取れ高ありそうだけど、絶対嫌だぞ!
ゴホンッ、まあいい。そんじゃ、まずは1階層見て回るぞー!」




