第59話 ヴェッセルナイト
フィギュラスに案内され、新しく作ったという人形の元へと移動した。
『これがマスターが操作する人形だよ』
フィギュラスがそう言って指し示したのは、どこからどう見ても暗黒騎士と言わざるを得ないビジュアルの人形だった。
「……いかつ過ぎないか?」
『何言ってるんだいマスター。ダンジョンマスターなんだから、これくらいの威厳はないと』
「俺が直接交渉できるようにしたかっただけなんだが?」
こんな暗黒騎士の見た目では交渉相手を不必要に怯えさせるだけだと思うんだが……、負の感情エネルギーを回収できるからいいか。
俺はそう前向きに考え、暗黒騎士の横にあった座り心地の良さそうな大きな椅子を見る。
普通のゲーミングチェアとは違う存在感を放ち、座面以外は金属フレームで覆われた無骨なデザインの椅子。
〝VRチェアー〟である。
これがもう一つのURの〝ダンジョン施設〟アイテムとして[ガチャ]から出てきたものだ。
その効果は〝VRチェアー〟という名前の通り、ダンジョン内を直接見て回っているかのように感じられるというもの。
今までスマホで見ていたものが、侵入者目線でより分かりやすくなるのだ。
これでよりダンジョンを創りやすくなる、はずだった。
『これ、ボクに預けてみない?』
そこに待ったをかけたのはフィギュラスだった。
フィギュラスは〝VRチェアー〟を見て、これを使えば人形をマスターである俺が遠隔操作できそうだと思ったそうだ。
『でも失敗するリスクはあるよ。〝ダンジョン施設〟アイテムは普通のアイテムと違ってダンジョンと連動してるから勝手が違うし、成功率はおそらく4割、下手すれば3割ってとこだと思うけど』
「よし、やれ」
「即決!?」
マルティアに異常者を見る目で見られながらも俺は〝VRチェアー〟をフィギュラスに預けたというわけだ。
『それじゃあ早速試してみてよマスター。不備があるようなら調整しないといけないからさ』
「ああ、だから家に持ち込まずに工房の中でお披露目したのか」
完成したら家の中で使う事になるのに、わざわざ工房に連れて来たのはそれが理由か。
フィギュラスに促され、俺は〝VRチェアー〟に座る。
一見フィギュラスに預ける前と後で違いがあるようには特に見えないが、これで人形と連動してるのだろうか?
「うおっ!?」
そう思っていたが、その考えは一瞬で払拭された。
「なんだこれ? 暗黒騎士に乗り移ってるのか?」
〝VRチェアー〟に座ってしばらくすると、いきなり視点が変わった。
周囲を見るとフィギュラスとマルティアがいる以外に、自分が〝VRチェアー〟に座って目を瞑っているのが見える。
『きちんと正常に動くみたいだね。身体を動かしてみてくれないかな? 違和感はない?』
「ちょっと試してみる」
俺は暗黒騎士の身体を動かすが、まるで自分の身体のようにスムーズに動かせる。
凄すぎないか?
「問題ないな。というかこっちの身体でちゃんと喋れてるし」
『それはもちろんだよ。むしろそっちがメインなのに、喋れなかったら本末転倒じゃないか』
「最悪喋れなかったとしても、この身体でダンジョン内をうろつけたから問題はなかっただろうな」
人と関わる際にも筆談をすればいいわけだし。
「よくやったフィギュラス。俺にとってこれは最高の人形だ」
『そう言ってくれるのは嬉しいけど、それの戦闘性能はそこそこ程度だから気を付けてね』
「分かった」
これで戦う機会はほぼないだろうから無用な心配だろうが。
「これで国の人間とまた直接交渉できるようになったな」
「こんな裏技で人間と意思疎通が取れるようになるなんて……」
「普通は無理だろうな。〝Wi-Fi〟、フィギュラス、〝VRチェアー〟の3つが揃ってないと、この暗黒騎士は作れなかったし」
実はこの暗黒騎士。〝VRチェアー〟と連動させるために〝Wi-Fi〟により電波を送受信させている。
つまりこの暗黒騎士はSR1つ、UR2つがあってようやく作る事ができる代物なのだ。
フィギュラスがユニークであることを考えると、俺達以外にこの方法で人類との意思疎通は無理だろう。
もっとも、いい加減ではあるが一応公平な神のことだから、他にも何かしらの方法があってもおかしくはないが。
「よし。とくに違和感もないし、〝VRチェアー〟ごとこの暗黒騎士を持って行くがいいか?」
『動かすのに問題が無いなら持っててもいいよ。だけど1つだけ』
「なんだ?」
『暗黒騎士じゃなくてちゃんと名前を付けてほしいな。
ボクは特別な人形には個体ごとに名前を付けてるんだ。だからその子にもちゃんと名前をあげてよ。
マスターが動かすんだから、マスター自身がね』
自身のネーミングセンスにはそこまで自信がないが、そう言われてしまっては仕方がない。
それにまだ使って数分も経っていないが、これから長い期間使うことを確信しているので、大事に使う意味でも名前は付けておくべきか。
「……じゃあヴェッセルナイトで」
「どういう意味なんですか?」
「この暗黒騎士は言うなれば俺の器みたいなものだろ? だからマスターの器って意味と騎士のような見た目から、そう名付けてみた」
『いいじゃないか! それじゃあキミはヴェッセルナイトだ』
フィギュラスはニコニコと笑いながら俺を、正確にはヴェッセルナイトを見ながら何度も頷いていた。




