第52話 食べ物系ロシアンルーレット
「じゃあフィギュラスが人形を制作しに行く前に、[ガチャ]回すか」
チラッ。
「何で私を見たんですか」
それは〈妖精泣かせ〉の[称号]の効果を発揮させるからだが?
〈妖精泣かせ〉:妖精の感情変動で運の振れ幅を大きくする
運の振れ幅を大きくするということは下振れする場合も当然あるが、別に今は切羽詰まってないから堅実にいくとか考えず、最悪最低保証だったとしても問題はない。
……もっとも、フィギュラス達がいなかった時ですら、堅実とか知った事じゃないと言わんばかりにマルティアの感情を揺さぶっていたのは考えないものとする。
そのお陰でフィギュラスが手に入ったのだから、本当に運が良かったと言える。
しかしどうしたものか。
感情を揺さぶると一言で言うのは簡単だが、具体的にどうすればそれができるかが難しい。
前は最悪な結果の未来を語ったり、マルティアにポイント交換でダンジョンを創る素振りをみせて揺さぶったんだよな。
何かいいアイディアは無いかとスマホを見てると、ふと今までの[ガチャ]を回して具現化させていないアイテムが目に入った。
……よし、せっかくだしコレでいくか。
「ほい、マルティア」
「何故いきなりパック寿司を取り出してきたんですか?」
「ゲームしようぜ」
「突然どうしたんですか!?」
「相手に内緒でお互いに好きなネタにワサビを大量に隠し入れ、その後交互に食べてくゲームな」
「人の話を全く聞かないですね!?」
食べ物系ロシアンルーレットで、マルティアの感情がどれだけ揺さぶれるかだな。
マルティアが何でも食えるのは抹茶パフェで分かっているので、寿司も問題はない。
「じゃあマルティアから好きなネタにワサビ仕込んでいいぞ」
「拒否権まるでないですね。……はぁ、分かりましたよ。ちなみに勝ったら何かあるんですか?」
「お前のおススメのダンジョンアイテムをポイント交換してやる」
「やりましょう!!」
渋々といった様子だったのが一転して、やる気に満ちたな。
今まで[ガチャ]で出てきたモノを組み合わせてダンジョンを創っていた都合上、マルティアはダンジョン創造関連のアドバイスは封殺されていたし、前の[ガチャ]の時も何を交換するか意見を求めたら生き生きとしだしたから、この手の誘いに乗らないはずがない。
刺激物を食べるとはいえ、ただ淡々とゲームをするより、希望をちらつかせて絶望に叩きこむ方が感情の揺れが激しくなるのは間違いないから、悪くない誘い文句だったな。
問題は勝てなければポイントを無駄にするという点だ。
ここでもし俺が負けたとして、マルティアが勝った時の褒美を無視するという手もアリと言えばアリなのだが、その後の関係が悪くなるので出来ればそれはしたくない。
「よし、仕込みましたよ。次はあなたの番です」
「あいよ」
「……不正して私がどのネタに仕込んだか確認した場合、今あるポイント全部私が使用してもいいと宣言してください」
「用心深いな」
「当たり前です。あなたには散々おちょくられてますからね」
「はいはい。俺がワサビを仕込む際にマルティアがどのネタに仕込んだか確認した場合は、今あるポイントは全てマルティアが好きに使っていいぞ」
「いいでしょう」
この宣言はただの宣言ではない。
普段ならマルティアはポイントの使用ができないが、条件付きで許可した場合、その条件に当てはまっていればマルティアでもポイントが使用できる、らしい。
こういったルールは【逃避願望】や【休息願望】みたいな、ダンジョン運営をしたがらないマスター向けなんだろうな。
「準備完了だ」
10個あるうちの一つに大量のワサビを仕込み、マルティアを呼ぶ。
たまたまだがマルティアが選んだ寿司と被らなかったから、スムーズに準備できたな。
「……残念ですがポイントが使用できないということは、不正はしてないようですね」
「念入りだな」
「当然です。さて、それではゲームですが、厳密にはどうやって勝敗を決めるんですか? もしも先行がワサビ入りを食べたら、後行は食べずに勝ちになるんですか?」
「そうだな。それじゃあ――」
・先行がワサビ入りを食べても、後行もワサビ入りを食べてしまったら再ゲーム
・どちらもワサビ入りを食べずに8個全て食べてしまったら再ゲーム
ということにした。
この条件でゲームがスタートする。
先行後行はコイントスで決まり、先行は俺になった。
「当たれ当たれ当たれ!!」
「ダンジョンが一部屋だった時の、侵入者が入って来ないでほしかった時並みに祈ってるじゃん」
どんだけ必死なんだか。
まあいい。さて、どれを食べるか。
俺は若干迷いながら寿司に手を伸ばす。
マグロ、サーモン、イカ、ホタテ――
――クイクイ
じゃあ、王道のマグロにするか。
「うん、セーフだな」
「ちっ!!」
「舌打ちデカ。ほら、マルティアの番だぞ」
「分かってますよ。まだ大丈夫。9分の2、実質8分の1ですから当たるはずないです」
自分がどれに仕込んでるのかは分かってるから、そりゃそうだろうな。
「これです!」
マルティアがエビを選んで口に放り込み――
「に゛ゃあああああああ!!!?」
「お前カワウソじゃなくてネコだったの?」
ものの見事に一発で当たりを引いた。嘘だろ? ある意味引き強。
「じゃあ[ガチャ]回すか」
「に゛ゃんでえええぇ……」
あえて見せびらかすようにしてマルティアを煽りながら[ガチャ]を回す。
涙目のマルティアの様子を見て、確実に〈妖精泣かせ〉の効果が発揮するだろうと確信した。
もっとも、この結末は必然だったが。
チラリと視線を向けると、フィギュラスがこちらに向けてサムズアップしており、テン君も触手をこちらに向けて振っている。
そう。
俺は『ワサビを仕込む際にマルティアがどのネタに仕込んだか確認した場合』とは言ったが、ゲーム中にどのネタに仕込んだかフィギュラス達に確認する分には問題はない。
フィギュラスにとっては[ガチャ]の方が人形を作るのにいいモノが出るかもしれないから[ガチャ]を回してほしいと考え、テン君はフィギュラスと仲がいいからその気持ちを汲んだのだろう。
俺が寿司のネタの上で手を動かした際、ワサビ入りの所でテン君が合図してくれたのだ。
マルティアは俺の手元を凝視していたからテン君がそんな事をしているのなんて気づかなかった。
悪いなマルティア。
この場にこの2人がいたのがお前の敗因だ。




