第49話 約束
カグラの声が、奪われていた命令権を破棄させることができた喜びではなく、どこかうかない声だったのが気になった。
「ビデオ通話できるか?」
『なんで……、まあいいけど』
だから俺は顔を見て話した方がいいと思い、ビデオ通話に切り替えることにした。
ビデオ通話に切り替え、スマホにカグラの顔が映るようになったが、どう見ても落ち込んでいるような暗い表情だった。
『それで、どうして助けてくれたの? 正直言って、さっきのはあなたに益の無い戦いだったじゃない』
今回のダンジョンバトルではせっかく出てきたSRの魔物の半分がやられてしまったし、ミカゲ(仮)からむしり取れたポイントも、[ガチャ]11回分とかなりしけたポイントしか得られていない。条件は違えどゴウ(仮)ですら37回分だったのに。
ミカゲ(仮)しょっぺえな。(゜д゜)ペッ
ミカゲ(仮)しょっぱさはともかく、確かに益で言えばカグラの言う通り、ろくな成果なんてないのは間違いない。ただ――
「協力するって約束しただろ?」
約束があっただけだ。
『えっ』
「ハッキリ言えば、余裕が全くなければダンジョンバトルをけしかけようとは思わなかっただろう。
だが相応の戦力があって、なんとかなりそうだったから助けた。それだけだ。
思ったよりもギリギリだったのは焦ったがな」
テン君がいたし、特殊なフィールドが2つも手に入ってたから、フィギュラスなしでもある程度余裕で倒せると思ってたんだが、カグラの鬼人武者がここまで厄介だとは思わなかった。
『……そう。律儀なのね』
「だから言っただろ。余裕があっただけだ」
『そう。でもありがとう』
うかない顔をしていたが、ようやく笑みを見せたカグラだった。
しかし、さっきよりはマシだがうかない顔、というより困った表情になってしまう。
『だけどこの恩に報いるにはどうすれば……』
「そう言われてもな。あくまで協力関係なんだし、余裕のある時に俺が困ってたら手助けしてくれれば、それで充分なんだが」
そもそもの話、勝手にやったことで恩を着せるつもりはない。
「だからまあ、気にするな」
『嫌よ』
「あっ……」
しまった。カグラが【自律・反抗願望】持ちで、命令やそれに近い言われ方をすると、反抗したくなることを忘れてた。
「すまん。今のなしで」
『別に願望は関係ないわよ?』
「ん? そうなのか?」
てっきりそのせいで嫌だと言ったのかと思ったんだが違ったのか。
『ふふっ、当たり前でしょ。命令されるなんて絶望的な状況下から助けられたのだもの。死にたくなるほどの苦痛から解放してくれたのに、その恩を気にしないのは無理ってだけ』
まあもし俺も似たような状況、仮に命令権を取られて[ガチャ]を禁止されたものの、すぐに助けてくれたら間違いなく恩義を感じるだろう。そう思うと、カグラのその反応も無理はないのか。
『ただ、恩とか言っておいてなんだけど、1つだけ言わせてもらいたいことがあるわ』
「なんだ?」
『桜に対してあの扱いは酷くない!?』
「桜とは?」
『鬼人武者のことよ。どうして媚薬に漬け込んだ状態で放置するの!?』
あの鬼人武者、〝名付け〟を受け入れてたのか。
俺が言うのもなんだが、カグラのダンジョンも鬼人武者が召喚された時はまともに育ってなかったのに、よくそれを受け入れたな。
って、そんな事はどうでもいいことか。今はカグラに弁明しないとな。
「あいにくとあの状況で鬼人武者を止められるのがテン君しかいないのに、ダンジョンを攻め入らせる魔物がろくにいなかったから、鬼人武者が復活しないように処置してからテン君を攻め込ませるしか手がなかったんだ」
『それは見てたから分かるわよ。あの状況じゃどうしようもなかったって』
「それが分かってて何故文句を?」
『桜が今も床に転がって、ビクンビクン身体を震わせてる姿を見せられてるからに決まってるでしょ。
さすがに同じ女として、これはないって言わせてもらいたいわ』
カグラのその声が聞こえたのか、テン君と共に戻ってきて近くにいたエルフとサキュバスが2人そろって頷いていた。
エルフはともかく、なんでエロの権化であるサキュバスまで頷いてるんだよ。
「あ~すまん」
『冗談――ではないけど、さすがに桜のためにもこれだけは言わないといけないと思ったのよ。
ただ、言っといてなんだけど、今回は仕方が無かったことだからあまり気にしないで』
「そう言ってくれると助かる」
いくら敵だったからとはいえ、客観的に見て、かなり酷いことをしたのは間違いないからな。
だがもう一度同じような状況になったら、容赦なくお薬に漬け込んで動けなくするのは間違いないが。
倫理? それよりも自分の命の方が大事だろ!
そんな事を考えていたら、カグラが軽く俺に頭を下げてきた。
『今回は本当にありがとう。ナオトさんが協力者になってくれて本当に良かったわ』
そう言って頭を上げると、先ほどまであった暗さが一切見えない、笑顔のカグラがスマホに映っていた。
「困った時はお互い様だ。今後もよろしくな」
『ええ、よろしく、次は私があなたを助けてあげるわ』
「そんな危機的状況にならないようにしたいがな」
俺達はそう言って笑い合った。




