第47話 決着
鬼人武者は頑張った。
ろくに力の入らない手。呼吸が荒くなり体温が上がっていると錯覚するほどの不調。
だがこんな状態でも迫りくる触手に対し、拾い直した刀を布で手に縛り付けて懸命に戦った。
が、テン君を斬ってその体液を撒き散らせば、当然体に回る毒は酷くなる一方。
最終的に鬼人武者はテン君の触手に絡めとられてしまった。
いや、絵面がシュールすぎる。
鬼の仮面を被った鎧に身を包んだ人物を触手で絡めとった姿はこれじゃない感が凄い。
だからといって鎧をはぎ取って触手まみれにしたらR18直行だった。
――カラン
鬼人武者が被っていた仮面が、何故か狙ったかのようなタイミングで地面に落ちた。
「え、マジ?」
鬼人武者は女性だった。
しかもどう見ても人間にしか見えず、鬼の要素が見当たらない和風美人。
先ほどまで苛烈に戦っていた人物がこの女性だとは到底思えないほどに。これはもう薄い本案件だ。
「びっくりする気持ちは分かりますけど、まだダンジョンバトル中ですよ?」
「あ、ああ、そうだな。それじゃあテン君にはその鬼人武者にたっぷり毒をぶっかけてもらって、縛り上げて動けなくした後、他の魔物を引き連れて向こうのダンジョンに攻めてもらうか」
「鬼人武者に容赦なさすぎる……」
「自力で解毒して復活したら怖いだろうが」
女性だからとか関係なしに、普通自分を襲ってきた相手を無力化するのは当たり前のことだと思う。
多少過剰であっても自分の命が関わるのだから、容赦なんてしている余裕はない。
鬼人武者を縄で縛り上げ、大きいタライの中に寝そべるように設置。
あとはテン君にタライの中いっぱいになるくらい、毒の体液を満たしてもらった。
そのせいか鬼人武者が時折ビクンビクンと震えてるが知らん。
「それじゃあテン君には残りの戦力を引き連れて、相手のダンジョンを攻めてもらおうか」
そう指示を出したら、テン君は残りのSRの魔物も連れ、最低限の守りを残して相手のダンジョンに攻め込んで行った。
残りのSRの魔物でエルフ(女)とサキュバスはその知能の高さもあり、渋々言うことを聞いていたはずなのだが、何故か素直にテン君と共に相手のダンジョンに攻め込んでいる。
役に立たないならテン君に任せるかと呟いた時に側にいた気はするが、確かその時は鼻で笑ってなかったか?
「あの光景を見て、テン君が教育係になると言われてたのを覚えてたら、嫌でも従順になりますよ。ああはなりたくないでしょうから」
あの鬼人武者がタライの中で無様な姿になっているのを見れば、それはそうか。
ただ、サキュバスだったらこういったエロ系の事は耐性があるから平気に思えるのだが、それとこれとは違うということなのだろうか。
それはともかく今はダンジョンバトルだ。
とはいえ、もう俺が何か指示する必要はなさそうだが。
◆
≪ミカゲ(仮)SIDE≫
『ちょっと! ワタシのケットシーが皆殺しにされてるじゃない!』
「うるさい! 今それどころじゃないんだよ!!」
クソクソクソ!
何なんだ何なんだアイツは!?
あれだけの広大で複雑なダンジョンを創っていた上に、1万体もの人形を操る強力な魔物までいたのに、それとは別のあの鬼人武者が無力化できるほどの魔物がいるだなんてありえないだろ!?
「左右から挟みこんであのテンタクルを始末しろ!」
魔物達に命令してテンタクルへと攻撃命令を行うも、まるで居場所が分かっているかのように触手で迎撃され、周囲の他の魔物がトドメを刺している。
あのテンタクルだけでも厄介だが、魔法を扱うエルフとサキュバスまでいるだと!?
「どれだけ強力な魔物を従えているんだ!?」
36人ものダンジョンマスターを屠って得たポイントが思った以上に膨大だったのか……!
「おい、もっと魔物を貸せ!」
『無理よ。あんたに全員持ってかれたから1体もいないわ~』
『ふんっ、あの子以外の魔物はもういないわよ』
くそっ! どちらも罠重視のダンジョンと一体の魔物にリソースを割いたダンジョンという魔物が少ないタイプのせいで、借りられる魔物が全然いないじゃないか!
テンタクルが素早く動けないから移動速度は遅いが、それでも確実にこっちのダンジョンコアへと近づいて来ている……。
どうすればいい!?
再び向こうのダンジョンに隠密能力に長けた魔物を送り込んだが、最初にそれをやったせいで向こうも警戒して、察知能力の高い魔物が所々に潜んでいて、4~6階層の特殊なフィールドを利用して始末されてしまう。
なんとかあのテンタクルを始末できればまだ逆転の目はあるはずなのに、戦闘力よりも隠密能力を重視した魔物ばかりを交換していたせいで、あんな魔物と戦える魔物なんていやしない。
くそっ! 魔物と戦闘しなくてもこっそりダンジョンコアに近づくだけで勝てると踏んでいたのに!
カグラの時はそれで通用したし、ミウ相手には鬼人武者を矢面に立たせるだけで余裕で勝てたのに!
「どうやってこんな戦力を集められたんだよ!!?」
どれだけ必死に頭を巡らせたところでこの状況を打開する手段はオレにはなく、あっけなくテンタクルがダンジョンコアに触れてしまった。




