第46話 最後の正念場
残ったたった一体で鬼人武者が俺のダンジョンを進む。
これまでの階層を見て、ダンジョンマスターがもうこれ以上の階層はないと判断したのだろう。
残ってる魔物を送り込んで鬼人武者と合流させようとしたところで、2〜5階層の時のように妨害され、しかもその時間で鬼人武者対策をされるだろうと考えたのかもしれない。
実際6階層が最後の階層だし、時間をかけて合流しようとするなら、こちらも魔物を相手のダンジョンに送り込んでダンジョンコアを狙いに行ったんだが、そう容易く許してくれる相手ではないか。
「ここが最後の正念場か」
突破されたらダンジョンコアの前まで辿り着かれてしまう。
負ければフィギュラスは取られ、命令権まで取られることを考えると、負けられない戦いだ。
「頼むぞテン君」
――プルプル
こちらの声は届いていないはずだが、まるで呼応するようにテン君は震えていた。
テン君が気合を入れてる(?)間に、いつの間にか6階層への階段を見つけた鬼人武者が階段を降りてきた。
そして鬼人武者は6階層を見て、ピタリと立ち止まり微動だにしなかった。
おそらく驚愕しているのだろう。
それもそのはず。
4、5階層では〝変幻庭園〟、〝毒沼〟、〝爆発床〟、〝ボーンドラゴン〟と一見かなりのポイントを消費しているように見えただろう。
それにもかかわらず、この最後の6階層では〝幻影迷宮〟という霧が満ちた迷路のフィールドなのだ。
どんなフィールドかは具体的には分からないだろうが、少なくとも迷路になってる上に濃い霧が充満しているとなると、そこそこのポイントを使っていると思うはず。
ポイント換算だとどれほどのポイントになるかは不明だが、少なくとも36人葬ったところで真っ当に交換していたらとてもじゃないが足りないだろう。
このフィールドを見て一旦引き下がるか、それともこの階層が正真正銘最後だと鬼人武者を進ませるかは向こう次第だが、果たして……?
「……挑むか、この迷路に」
鬼人武者が6階層へと踏み入れた。
「これを余力を持って凌げば勝ち、凌げなければ負けですよ」
「そんな事を言ったところでどうしようもないだろ。後はテン君に全賭けだ」
「だからまた顔が笑ってるんですね」
自分ではそんなつもりなかったんだが、無意識に笑っていたようだ。
もうこの癖は直せそうにないな。
そんなどうでもいいことはともかく、今は鬼人武者だ。
ゆっくりと周囲を警戒しながら迷路を進む鬼人武者。
まず間違いなくテン君を警戒しており、いつでも攻撃できるよう、迷路という構造で薙刀を振り回すには狭い空間だからか今は刀を構えている。
〝変幻庭園〟のある4階層で隠密行動していた敵を倒したのがテン君なので、まだ出てこないテン君を警戒するのは当然か。
――ニュル
『っ』
テン君がこっそりと伸ばした触手を瞬時に切り落とす鬼人武者。
そして触手が伸びてきた方向に瞬時に駆けだした。
危険な敵をなんとしても倒すためなのか、即断即決で動いていた。
『っ?』
しかし触手を辿ったはずなのに、そこにはテン君はいなかった。
それもそのはず。
テン君は触手を分離させて自律行動させることができるので、触手が鬼人武者に近づく前にはすでにテン君はその場にはいないのだから。
そしてその行動はテン君に読まれていた。
『っ!?』
鬼人武者は十字路におびき寄せられ、四方から触手に襲われた。
何故か自分が通った通路からも触手が伸びてきたからか、かなり驚き焦っている様子を一瞬見せた。
しかし鬼人武者はすぐさまその手に持つ刀を振るう。
自身に向かって来る触手を次々と斬り落とし、一度たりとも己に触れさせることがなかった。
「いや、バケモンか」
「初期ポイントのほぼ全てをつぎ込んだだけだけあって、身体能力がハンパないですね」
6階層に来るまでにそれなりどころか、相応のダメージを受けてるはずなのにまだこんな動きができるのかよ。
こんなの相手に勝てるのか?
そう心配になりそうになったその時だった。
――ガシャン!
『っ……!?』
鬼人武者が突然刀を落とし、膝をついてしまった。
何故だと言わんばかりに自分の震える手を見ている。
「よし、効いた!」
「やりました!」
〝毒沼〟で状態異常にならなかったから、もしかしたら状態異常無効のような能力かアイテムを持っているのかと思ったが、無効ではなく耐性だったようだ。
さすがに無効となると必要なポイントも爆上がりするだろうから、それはないだろうと予想はしていたが。
しかし結果が出るまでは分からなかったので、かなりドキドキしながら様子を見ていたから心臓に悪かった。
何故鬼人武者が膝をついたのか。
それはテン君の能力だ。
テン君の能力は2つ。
1つは先ほどもあげた触手の分離、自律行動だ。
そしてもう1つが――体液変換である。
具体的に言えば体液を獲物を捕らえるための毒に変換し、それを霧状に撒いたりすることができる。
6階層の〝幻影迷宮〟で霧の幻を出していたのもテン君の能力をサポートするため。
本来は魔物や炎の壁などの幻を見せたりすることができるフィールドなのだが、見せられる幻はシンプルであるほど現実と変わらないリアルな幻になるので、霧だけにしたのだ。
それにより鬼人武者が入ってきた時から、テン君が霧状に撒いた毒を鬼人武者が吸い続け、トドメに大量の触手を斬ったことで浴びた体液が、6階層に来るまでに作った傷口に浸透し、ようやく毒の効果を発揮したということだ。
『ハァハァッ……』
鬼人武者の様子がおかしい。
が、そうなっているのはおかしくはない。
今の状態こそ、あの毒の効果なのだから。
テン君の種族名、〝叡智叡智テンタクル〟の名前由来で、あの毒は麻痺、筋弛緩、そして――媚薬の性能を持ち、捕らえた獲物の体液を絞り出させ、それを栄養にしているのだ。薄い本かな?
何故か体液は血液ではダメらしい。
さすが〝叡智叡智テンタクル〟。理屈じゃないな。
たとえ本人が良い子であっても、能力まで良い子とは限らないのですよ。
〝叡智叡智テンタクル〟好きのみんな、満足か?
え、ぬるい? もっと描写を濃くしろ?
ちょっ、この作品R15なんですけど!?




