第45話 虎の子
鬼人武者たちはあっという間に5階層まで進んだ。
もちろん2、3、4階層、特に〝変幻庭園〟ではときおり魔物達をけしかけてかなりの数の魔物を間引く事に成功しているが、肝心の鬼人武者だけはまるで止められる気がしないのは問題だった。
「4階層にいたテン君は一旦下がらせたとはいえ、思ったよりも魔物を間引けたな」
「何故わざわざ下がらせたのですか? そのまま4階層でテン君を鬼人武者にけしかければ良かったのでは?」
マルティアが言う事ももっともだし、〝変幻庭園〟はテン君が一応有利になるフィールドではある。だが――
「出来る限り鬼人武者の体力を削ってからにしたかったんだ。テン君は切り札だが、あれが相手だと切り時を間違えればすぐにやられることになる」
そもそも〝変幻庭園〟であの鬼人武者を相手にするのは、たとえテン君であったとしても間違いなくやられるだろう。
反応速度がアホみたいに速いから、孤立させた後にこっそりと背後から襲ったところで、薙刀で斬られる未来しか見えない。
それに先ほど〝変幻庭園〟で最初に入ってきた魔物を全滅させたので、向こうも当然警戒していたはず。
そんな時にテン君を差し向けても上手くいくはずがない。
「で、でも、もうあと2階層しかないんですよ!?」
「できれば5階層、最悪6階層で止められればってところだな。
5階層は他の階層と違ってフィールドの難易度が桁違いだから、ここは突破できないと思いたいが」
5階層は〝毒沼〟フィールドであり、所々にある毒の沼は触れれば敵を状態異常に陥らせる。
さらに〝爆発床〟まで設置しているから、殺傷能力はかなり高くなっているんだが、あの鬼人武者にどこまで通用するかは謎だ。
しかしこれを除けばあと1つしか手段はないので、できればここで止まってほしいと切に願う。
「頼むぞ、ボーンドラゴン」
――カタカタ
骨だけの身体だから鳴くことはできないようだが、こちらの指示は聞こえるようでやる気満々でその身体を震わせていた。
骨だけとはいえドラゴンはドラゴン。
むしろ生身の肉体がないから、毒沼によって状態異常にかからずには済む分、自由に動けるので有利だ。
――カタカタカタカタ
『っ!?』
『『『ニャッ!?』』』
『『『グルアッ!?』』』
鬼人武者が5階層の中盤まで来た段階で、ボーンドラゴンが鬼人武者たちを襲う。
さすがに自分たちよりも何倍も大きい相手が襲い掛かってきたからか、驚愕に目を見開いていた。鬼人武者は鬼の面を被っていたからよく分からなかったが。
すぐさま身構えた鬼人武者と違い、ケットシーやリザードマンは動揺しボーンドラゴンの初撃を防げなかった。
ボーンドラゴンは身体を横に回転させて、尻尾を鞭のように振るって攻撃。
それに対し、鬼人武者は避けるもケットシーやリザードマンの大半は吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばした全員を再起不能にできたわけではないが問題ない。
今いるこのフィールドは毒沼であり、それに触れないよう動いていたのだから状態異常への対策はしてないだろう。
吹き飛ばされた先にある毒沼に思いっきり浸かってしまった魔物は軒並み動きが鈍くなり、軽く触れただけの魔物でも動きに精彩を欠いていた。
さすがに毒沼といっても即死させるような毒ではなく、麻痺毒に近いものなので倒せないのは仕方ない。
だがそれで充分。
そんな状態異常にかかった相手なら余裕で倒せるというものだ。
問題はこっちの魔物も毒沼に触れれば状態異常になってしまうので、体を持たないレイスなどの魔物しか差し向けられないことだが。
まあケットシーやリザードマンはもうこの際どうでもいい。
今のボーンドラゴンの一撃でほぼ壊滅状態になり、こっちの残ってる魔物だけでも十分倒しきれる数にまで減らしたのだから。
問題は鬼人武者だ。
「なんであんな戦闘してるのに毒沼に触れずに済んでいるんだ……!」
「化け物ですね。あれに勝つビジョンが見えないんですけど……」
ボーンドラゴンの繰り出す攻撃を避けながら、毒沼のない場所に着地。
ボーンドラゴンの攻撃で飛散してる毒に多少とはいえ触れてるはずなのだが、鬼人武者は物ともしていないので、少しくらいの毒による状態異常は受けないのか。
ボーンドラゴンと鬼人武者の激しい戦闘は続き、それに巻き込まれるケットシーやリザードマンは無事な者が一体もいなくなって、動けなくなったせいでレイス達にやられていた。
「時折レイス達を鬼人武者が攻撃しているのは向こうのダンジョンマスターの指示っぽいな」
「おそらくそうですね。そのせいでこっちの魔物が減りましたが、隙が出来たお陰でボーンドラゴンの攻撃がそのたびに当てられてます」
鬼人武者は借り物だが、他の魔物、おそらくリザードマンの方がミカゲ(仮)の魔物なんだろう。
それがやられるのを嫌がって、鬼人武者に無理やり援護に行かせたようだな。
『っ!?』
――ドゴンッ!!
「よし、虎の子の〝爆発床〟を踏んだ!!」
ボーンドラゴンだけでなく、味方の魔物にも気を払って注意がそぞろになったからか、ボーンドラゴンの誘導で鬼人武者が〝爆発床〟を踏んだ。
唯一のSRの罠であり一度限りの使い切りだが、その分威力は大きい。
雑魚が罠にかかる可能性もあったが、基本的に上の階で足止めするつもりだったので、よっぽどなことが無い限りこの罠が作動することはないと思っていたが、思ったよりも早く出番があったようだ。
カグラには悪いが、これで死んでしまっても仕方ない。
そう思ってたんだがな……。
爆炎の中から五体満足で出てくる鬼人武者。
耐久力まで高いのかよ!
『っ!』
――ガシャン!
まさかあの爆発ですぐに動けるとは思わず、その隙を突かれたのかボーンドラゴンが薙刀で頭を粉々に砕かれてしまった。
「ちっ、やられたか……!」
「そんな……」
幾度となくボーンドラゴンの攻撃を受け、〝爆発床〟の罠にかかったはずなのに、鬼人武者はまだ動けるようで、次の階層へと進み始めてしまう。
他の魔物は全て倒せたので、残るは鬼人武者だけのはずなのだが、その一体を倒すのがあまりにも困難だ。
俺達はあいつを倒せるのか?




