第36話 叡智叡智テンタクル
〝叡智叡智テンタクル〟とはどんな魔物が出てくるのだろうと思って身構えていたら、見た目ゴムみたいな質感で全体がピンク色、そして無数の触手が生えており、触手の名前通りの存在が現れた。
予想以上に大きいという点を除けば。
「ワゴン車に触手が生えたくらいの大きさだな」
「触手全体で見ると小型の建物レベルですよ」
割ととんでもないものが現れてしまった。
こいつに暴れられたらフィギュラスに頼んで、マネキン達総動員して抑え込むしかないぞ。
さてどうしたものかと思っていたのだが、〝叡智叡智テンタクル〟はまるで動こうとせず、時折触手がこちらに向けてピクリと動く程度で、フィギュラスの時のように喋ったりしない。
「もしかして喋れないのか?」
――コクリ
触手が動き、問いかけたつもりがなかった独り言に頷いた。
どうやら喋れないだけで意思疎通は可能なようだな。
「俺はここのダンジョンマスターであるナオト(仮)だ。こっちはマルティア」
「ど、どうもです」
マルティアは緊張した様子で〝叡智叡智テンタクル〟に軽く頭を下げた。
さすがに襲われるかもしれないと思うと、緊張するなとは言えないな。
しかしその心配は無用なほど〝叡智叡智テンタクル〟は大人しく、マルティアが頭を下げたのに合わせて、まるでお辞儀をするかのように触手を動かしていた。
特にこちらに危害を加えようという気配は今のところなさそうだな。
「分かってると思うが俺がお前を召喚したわけだが、俺の指示に従ってくれるか?」
――コクコク
ビックリするくらい従順で大人しいな。
いやでも、レア度の高い魔物は知能が高いという話だし、もしかしたら従うフリをしているという可能性もある。
「俺がお前のマスターで不満はあるか?」
――ブンブン
激しく横に振って否定しだした。
「そうか。ならお前が良ければ〝名付け〟をしたいんだが受け入れてくれるか?」
〝名付け〟をすれば一蓮托生となって裏切れなくなるからな。
これを受け入れないようなら、裏切る気があるということだが果たして……。
――コクコクコクコクコクコクコクコク
「め、めちゃくちゃ嬉しそうに高速で頷いてますよ……」
ビックリするくらいすんなりと受け入れるんだな。
その方がこちらとしてもありがたいんだが。
〝名付け〟を受け入れる気になっているのなら、今の内にとっとと〝名付け〟を行ってしまおう。
「そうだな……。それじゃあテン君で」
「テンですか?」
「いや。君までが名前」
「なんで敬称まで含めちゃうんですか」
「なんとなくだな。〝叡智叡智テンタクル〟だから、パッとその名前が思い浮かんだ。あとこいつの雰囲気や従順なところがテン君って感じだったから」
「どんな感じですか……」
まあこの名前が嫌なら別の名前を考えるのだが、どうだろうか?
そう思いながら〝叡智叡智テンタクル〟を見たら、全身を左右にくねらせて喜んでいるようだった。
あっさりと〝名付け〟が完了してしまった。
◆
≪テン君SIDE≫
ボクはずっと独りぼっちだった。
ダンジョンに召喚される前は他のテンタクルと一緒にいた時もあったけれど、その時でも独りぼっちだった。
だって他のテンタクル達は、ただ獲物が近くに来たら捕食するか繁殖することしか考えていないから。
ボクが彼らにアクションを起こしても、彼らは何も気にしない。
突いても引っ張っても無視されてしまう。
だからボクが他のテンタクルとは違い、異端なのだとすぐに気づいた。
けど、ボクが異端であるということを誰も気にすらしない。
寂しい。
ボクが他のテンタクルと同じで、知力が低ければこんな思いもしなかったのに。
どうしてボクだけこんな思いをしないといけないのだろう。
このやるせない気持ちは他のテンタクルと一緒にいたところで何も変わらないと悟ったボクは、彼らから離れて単独で行動を開始した。
仲間が欲しかったから。
だけど一人で行動するのは危険がいっぱいだった。
自分よりも強い魔物がいたから初めの内は逃げ回ってばかりだったけど、幸いにも無駄に高い知力をフル活用して、徐々に自分よりも強い敵を相手でも倒すことができるようになっていった。
己の能力を駆使し、常に搦め手で敵を倒し続けていたら、次第にドンドン成長していき――
畏れられるようになってしまった。
仲間が欲しかったはずなのに、気が付けば周囲には敵しかいなくなってしまった。
誰も仲よくしようだなんて思ってくれない。
僕が危害を加えるつもりなんてなくても、誰もそう思ってくれない。
悲しかった。
どうしようもなく寂しく悲しかったボクはある日、突然何者かに召喚された。
その際ダンジョンの知識などを強制的に植え付けられ、自分がどういう状況に置かれたのかを理解させられた。
どうやらダンジョンマスターという存在に呼び出されたらしく、ボクはこの人の配下になるらしい。
マスターは不思議な人だった。
僕を恐れたりせず、平然と声をかけてきたのだ。
しかも名前まで付けてくれた。
嬉しかった。
主人と配下だから対等な関係とは言えないけど、それでも親しみを持って声をかけてくれるマスターと接するのは心がじんわりと温かくなった。
マスターのために力を尽くそう。
この喜びをくれたマスターのためなら、ボクは何だって出来る。
頑張るよ、マスター!
◆
≪ナオト(仮)SIDE≫
「はっ? カグラがダンジョンバトルに負けた?」
その情報をマルティアから聞かされたのは、テン君を仲間にした翌日だった。




