第30話 わんこそば
マルティアが人の顔に張り付いたまま絶叫しているが、いい加減にしろよ。
顔からひっぺ剥がして首を摘まんで持ち上げてやる。
「落ち着けマルティア」
「落ち着けるわけないでしょ!? あと10分後にはダンジョンバトルをわんこそば感覚でこなしていかないといけないんですよ!」
「少しは冷静になれ。そもそも申請してくる相手で許可しちゃいけない相手はいないんだから」
「は?」
俺の言ってる意味が分からないのか、何言ってんだこいつといった表情になるマルティア。
「分からないか? それじゃあ分かりやすく言ってやるが、俺達に申請してくる――いや、申請できるやつはどんなやつだ?」
「へ? そんなのランキングが9000位以内の人間だけですよね?」
「そうだな。で、俺のダンジョンはそんな奴らに負けると思うのか?」
「あ、あ~」
36人ものダンジョンマスターと連続で戦うことに不安を覚えたのかもしれないが、今の俺のダンジョンの戦力を思い出したのか、ようやく納得した表情になったな。
「これが3000位前後の相手だったら、さすがの俺も躊躇したがな」
「え、1000位以内の相手じゃないんですか?」
「そいつらの大半は部屋数が多いだけで、魔物とかはあまり揃ってないだろ」
ランキングがおおよそダンジョンの大きさ、つまり部屋数で決まってるようなので、バランスの取れてて、かつ自分にではなくダンジョンにポイントを使っている人間はその辺りの順位になってるはず。
もしかしたら俺のように[称号]を手に入れたり、上手くポイントが稼げてる結果、魔物とかもきちんと揃えた上で部屋数が多い上位の人間もいるだろうが、それはかなりの少数だと予想している。
――が、今回はそんな人間と戦うことはないし、最下位付近の連中は欲望に負けて自分にポイントを使ったのが大半だから、安易に最下位だからと狙って来る段階で大したダンジョンを創っていないだろう。
少なくとも[称号]を持ってる人間だったら、相手が最下位だからといって何かあるんじゃないかと警戒はする。
カグラあたりも最初の頃は魔物一体だけに注力していたから、何かしら[称号]を持っててもおかしくないと思うんだが、さすがにそこまで話す仲でもないし、気にするだけ無駄だろう。
「仮にありえないくらい強いやつが混じってたとしても、最初の1回勝って残機を獲得しておけば、一度は負けられるからな。どの道一度はダンジョンバトルをしないといけないし」
「それは確かにそうですね」
「どれだけ倒しても残機が1個しか持てない仕様じゃなければ、もっと確実だったんだがな」
負けそうな相手なら戦力を温存して、相手にダンジョンコアを壊させて次の相手に挑む、という手法を取るなら、残機はあればあるだけいいし。
「もっとも、負ける想定はしたがフィギュラスがいる時点で負けはない」
『それはフラグかい?』
「おい止めろ」
フィギュラスがサラッと恐ろしいことを言ってきやがった。まあ、今の発言でそのフラグは折れたか。
「フラグはともかく、準備はできてるよな?」
『もちろんだよ』
――タタタターン
先ほどまでの通知音とは違う音が鳴った。
どうやら色々話していたらダンジョンバトルの開始時間になったようだ。
「始まりますね……」
「不安か?」
「そりゃそうですよ。いくらフィギュラスが強いからって、初めて戦う相手がどれだけ強いか――って、また[ガチャ]を回す時のような醜悪な笑みを浮かべてる!?」
「そこまで言うか?」
気が付けば無意識に笑っていたようだ。
初めての戦いに挑むことに知らず知らずワクワクしていたらしい。
やはり自身の願望――【挑戦・賭博願望】は表に出てくるものだな。
――ブンッ
『これよりナオト(仮)VSゴウ(仮)のダンジョンバトルが開始されます。侵入している人間達を一時隔離します』
機械的な音声と共に、マルティアが使うSFのようなホログラムのウィンドウが目の前に展開された。
そこに映っているのは大柄で筋肉質な男。端的に言えばゴリマッチョだ。
『よう、てめえがナオトか。一部屋なんてカモ、早速ぶっ潰しに来てやったぜ』
「あっ、ゴウ(仮)って、あなたにグループDMを送ってきた1人ですよ!」
マルティアに言われて、そう言えばそんなやつがいた事を思い出した。
「確か29部屋あるとか自慢していたやつだったか?」
『はっ。あんなもん嘘に決まってるだろうが! しかも今じゃあの頃よりももっとあるぜ! てめえみたいな貧弱なダンジョンなんてすぐにぶっ潰してやるから覚悟しておけ!』
「生憎と罠もろくにない脳筋ダンジョン相手じゃ、こっちが潰れる前に潰されるだろうな」
『ふざけんな! てめえ覚悟しとけよ。奴隷にしてサンドバッグにしてやるからな!』
「俺には敗者をいたぶる趣味はないから、ダンジョンコアを破壊するだけで勘弁してやる」
『……ぶっ殺す!』
額の血管をビキビキに浮かび上がらせ、こちらを睨みつけてきたが気にすることは無い。
どうせ顔を合わせるのもこれで最初で最後だ。
『ダンジョンバトル開始』
機械的な音声の合図でホログラムのウィンドウが閉じると同時に、俺達のダンジョンの入口が繋がった。




