第28話 商人の間
≪ナオト(仮)SIDE≫
「どうして〝ポーション(中)〟をタダで渡してしまったんですか? それも交換に使えば良かったじゃないですか」
「それも考えたが、以前タダでやってたものを突然値段付けると反感を買いそうだったんだよ。心配しすぎだとは思うが、あと1度くらいはくれてやってもいいと思ったんだ。今後は創った〝商人の間〟で手に入れてもらうことにするさ」
新たに創った空間は〝商人の間〟であり、その空間では戦闘が一切禁じられていた。
代わりにこちらが望む物を人類側が提供できるのであれば、こちらも相応の物と交換ができるという取引所だ。
『マスターマスター。オリハルコンとか交換できないかな?』
「生憎と地球じゃダンジョン以外からは出てこないから無理だな」
フィギュラスが無茶苦茶なこと言ってくるが、そんな物が今の段階で手に入るはずないだろ。
どこかのダンジョンマスターがもの凄く上手くダンジョン運営したとしても、オリハルコンを客寄せに使えるほど負の感情エネルギーを集められるということはまずない。
俺みたいに[ガチャ]を回してたまたま手に入れたとしても、それを客寄せには使わず自分のダンジョンで使うはずだ。
仮に宝箱用アイテムだとしても、人類が有効利用できない上に何の鉱物かも分からない初期の段階では放出するには早すぎるしな。
「というか、今は原材料よりもすぐに活用できる素材の方が必要だろうが」
『仕方ないじゃん。ダンジョンバトルまでの期間が短い以上、1つ1つまともに創ってる暇なんてないんだから。
本当なら一から丁寧に造りたいんだからね!』
不満気にフィギュラスが訴えてきたが、期限ばかりはどうしようもないんだよ。
「悪いな。ダンジョンバトルを乗り切れた後なら、好きに人形を造ってくれ」
『まあいいさ。1万体の人形を操るというのもそれはそれで面白そうだからね』
「何度も聞いて悪いが1万体も本当に操れるのか?」
『余裕だけど?』
さすがUR。とんでもないな。
「なら、やはり素材にこだわるよりも数を揃える方がいいな」
1万体もの人形をどうやって用意するかだが、当然人間に調達してもらうのだ。
たった1つだけ出たSRの〝ポーション(強)〟を1万体のマネキンとの交換に使うことにした。
どうせ宝箱用アイテムだから、人類に渡す以外に使い道はないしな。
……今更だが宝箱用アイテムなのに交換に使っていいのは仕様なんだろうか?
人類をダンジョンに呼び込む用のアイテムを宝箱用って記載してるだけで、アイテム自体を使うのはダメでも、取引には使ってもいいってことなんだろう。
「数を揃えるのには同意しますが、1万体をすぐに用意するのは難しいんじゃないですか?
ダンジョンバトルまであと3週間――いえ、改造することを考えると2週間前までにはマネキンを手に入れておきたいのに」
「マルティアのその心配はいらないと思うぞ」
「どうしてそんなことが言えるんですか?」
首を傾げるマルティアに対し、俺は安心しろというように手を振る。
「〝商人の間〟のとこに立てた〝看板〟になんて書いたか覚えてるか?」
「それはもちろん」
まあ忘れててもスマホで〝商人の間〟の〝看板〟を確認すれば済む話なんだがな。
改めて〝看板〟を確認する。
*****************
今月限定。一度限り。
マネキン1万体と〝ポーション(強)〟交換できます。
(中古、もしくは人間の大きさに近く自立可能な硬さを備えた類似品でも可)
マネキンの納品が1万体に到達した時点で贈呈
*****************
〝ポーション(中)〟の効果を知ってる政府なら、中古でもいいなら無理にでもかき集めてくるだろ。
しかも『今月限定』と『一度限り』とまで書いたから、この機会を逃したら、次にいつ手に入るか分からない以上、是が非でも手に入れようとするはずだ。
「まあ〝ポーション(中)〟より強力な効能の薬が手に入るのですから、あんな風に書かれていたら動かないはずありませんよね」
「それに加えて『マネキンの納品が1万体に到達した時点で贈呈』と書いたから心配いらない」
「何故ですか?」
「じゃあ逆に聞くが、マネキンをわざわざ別の場所に保管して数が揃ってからまとめて持ってくるのって手間じゃないか?」
そう言うとマルティアは得心がいったという表情になる。
「あ、なるほど。そもそも〝商人の間〟どころか、このダンジョン全体で考えても1万体ものマネキンを置くスペースはありませんから、随時持ってきてもらうことになりますね」
「そういう事だ。いっぺんに持ってこなくてもいいよう、1万体に到達したら渡すと書いてるから、早ければ2、3日後にはマネキンが届き始めるだろ」
1万体到達しなかったら〝ポーション(強)〟を渡さなくて済むんだが、さすがに何も渡さないわけにはいかないので、〝ポーション(中)〟とか渡せるものをある程度渡してお茶を濁すことになるだろう。
とはいえ、マネキンの準備に苦労させられて、『1万体到達しなかったから〝ポーション(中)〟な』って言われるのは納得いかないだろうし、俺に対する不満が募ることになるから、出来れば1万体キッチリ用意してほしいが。そのために代替品まで認めているのだし。
『ふ~ん、まあ何でもいいや。それじゃあマネキンが届いたらすぐに改造を始めようか』
「数はあればあるだけいいから、出来る限り頼むぞ」
『分かってるよ。もっとも素材は限られてるから、大半はそこそこの強化しかできないだろうけど、そこは勘弁してね』
「問題ない。そもそも今の現状だと少しでも戦力が増えるだけでも助かるからな」
魔物が16体しかいない現状を考えれば、ちょっと強化されただけだとしても数が揃えられるのは本当にありがたいんだよ。




