第20話 願望の解放処理
俺はカグラが人からの意見だと思わぬように言葉に気をつけるため、必死に頭を巡らせる。
「俺はこの窮地の現状を打破するために協力できる相手は欲しいと思ってる。カグラはどうだ?」
『わ、私は……』
「協力するも拒絶するもカグラの選択次第だ。
ただ1つ言いたいことがあるとすれば、ダンジョンを大きくしないのは本当に自分の意思なのかが疑問だがな」
『どういう意味よ? 私は自分でダンジョンを大きくしないって――』
「それ、本当にカグラが決めたのか?」
『なんですって?』
睨みつけるようにこちらを見てくるカグラに対し、平静を装いながら内心ドキドキしながら言葉を紡ぐ。
「俺がそう思った理由は1つだ」
『なによ。もったいぶらずに言ってみなさい。ただしそれが的外れもいいところだった場合、分かってるでしょうね?』
ダンジョンバトルが始まれば、一目散に自分よりも下位のダンジョンマスターである俺を倒して、ダンジョンやポイントを奪ったり、隷属させたり、残機を増やしたりするということなのは分かってる。
ただそれが起こることはこの発言に限っては起こらないと確信している。何故なら――
「ダンジョンマスターに選ばれた人間は、願望の解放処理を受けているからだ」
『どういう意味よ?』
「そのままの意味だ。願望の解放により俺達は自覚無自覚関係なく抱え込んでいる願望が表に出てきて、それを我慢することはできなくなる」
『それは……そうね。正直自覚はあるけど、我慢はできないわ』
「だがそれだけじゃない」
『え?』
「ダンジョンマスターにとってダンジョンは自分自身と同義であり、人間には〝成長したい〟という欲求が潜在的に備わっている以上、ダンジョンを成長させたいという欲求は必ずあるからだ。
そして俺達は願望の解放の処理を受けている以上、その欲求には抗えない」
『ば、馬鹿なこと言わないで! だったらなんであなたや私はダンジョンを大きくしていない訳!?』
「決まってる。人間は必ずしも〝成長〟を望むわけじゃなく、場合によっては別のことを優先する時があるからだ。
環境によっては〝成長〟するよりも安定や安心を優先する人間もいるようにな。
そして俺達の場合、元から抱え込んでいる自覚無自覚関係ない願望がそれを邪魔した」
『……っ!』
カグラの肩がわずかに震えた。
反論しようと口を開きかけたが、言葉が出てこないようだな。
願望には嘘をつけないのだから仕方ない。
俺であれば【挑戦・賭博願望】による[ガチャ]でポイントを失った。
カグラであれば【自律・反抗願望】による他者の意見を受け入れずに真逆の行動に走った。
〝成長したい〟という欲求が人間にはあるが、それ以上の欲求があればあっさりと優先順位から外れてしまう程度のもの。
だが、俺の場合は成長したくてもポイントが無いせいで出来ないだけだが、カグラの場合は?
他者の意見を受け入れたくないがゆえに、成長したいという願望を無理やり捻じ曲げているだけだ。
「俺は【挑戦・賭博願望】を持っている」
『き、急に何よ?』
「いや。ただカグラがなんでダンジョンを大きくしたがらないか気になってな。
十中八九願望のせいなんだろうが、それを一方的に聞くのは悪いと思って先に開示した」
実際は知っているが、向こうから開示してもらわない限りはこれ以上話を続けるのは難しい。
今回はなんとかなっても次回以降、こっちが意図的に意思の押し付けにならない言い回しをしていると気付かれたら、何故願望を知っているのかという話になり、最終的に仲違いするのは目に見えてるからな。
『別に私が言う義務はないわよ』
「それはそうだ。俺が勝手に言っただけだし。
ただ何も知らなければ力にもなれんから、話しやすいようにしただけだ。
言うも言わないもカグラの自由だろ」
『………』
俺があくまでもカグラに決めさせるようにして問いかける。
無言のままどれほど経ったか分からないが、カグラがようやく口を開く。
『……【自律・反抗願望】、よ』
「なるほどな。それじゃあダンジョンを大きくしたくないのは――」
『ええ。サポート妖精のナナにダンジョンを大きくしろと言われたからよ。
私は誰かの指図を受けるつもりはないの』
よし、ここまで本人の口から言わせられたら上等だ。
「指図を受けるつもりがないのは分かったし、ダンジョンを大きくしたくない理由も納得した。
だが、ダンジョンを大きくしたくないのは本当に自分の意思なのか?」
『なんですって?』
少し癪に障ったのか眉をピクリと動かした。
怒って通信を切られる可能性もある発言だったが、なんとかセーフだったようだ。
「考えてもみ――ではなく」
あぶねっ!? 思わず『考えてもみろ』って言いそうになった!
セーフだったと喜んで少し気が緩んだか? 気をつけねえと。
「んん゛っ! あ~ダンジョンを大きくしたいという気持ちはある、っていうのはお互いの共通認識だと思うが違うか?」
『確かにそうね。少なからずその想いはあるわ』
「だがカグラはナナがダンジョンを大きくしろと言ったから、その指示に従いたくなくて真逆のことをしている」
『……一体何が言いたいのよ』
じれったそうに聞いてくるカグラに対し、俺は核心的な事を告げる。
「誰かから言われたことに対してただ真逆のことをするのって、自分の意思で行動していると言えるのか?」




