第2話 夢じゃなかった
中々酷い結果で終わってしまった。
ほとんどろくでもないものばかりで、唯一のSRが〝抹茶パフェ食べ放題チケット〟では報われない。
だが、これが全ツッパする快感!
今までソシャゲじゃ課金しなくて済むように、ガチャを回すためのアイテムを使い切らないようにして次回のガチャに備えていた。
そのせいで知らず知らずのうちに鬱屈した感情が蓄積していたようだけど、それが晴れたような気持ちだ!
「こんな気分になれるなら、また[ガチャ]を回したいものだな」
「パロディーネタやって愉悦ってる場合じゃねえんですよ! どうするんですかこれ!? こんなんじゃまともにダンジョンを創れませんよ!?」
〝部屋〟のような空間を1つ創るために必要なポイントが30Pのところ、100P使って出してるから単純計算で3倍かかってることを考えると、ムリゲーもいいところだろうな。
しょうもない日用品も出てる事を考えると、本来創れたはずの規模の10分の1がやっとといったところか。
「まあ夢だしいいか」
「ううっ……、夢じゃないのに……」
「カワウソのぬいぐるみが喋ってる時点で夢だろ」
もういい加減目を覚まさないか?
「完全にしくじりました。先に夢じゃないことを証明すれば……いえ、どの道この人じゃ[ガチャ]を回してましたね。ハ、ハハ……」
虚ろな目をして天を仰ぐマルティアだが、夢じゃないっていう証明ねぇ……。
「夢じゃないとか、そんなもんどうやって証明するんだ?」
「はぁ……。あなたは自分のことをどれだけ思い出せますか?」
「は? そんなの……あれ?」
言われてみて初めて気づいた。
俺は誰だ?
自分の名前はおろか、親の顔や名前、今まで生きてきて出会ったであろう人間が誰一人として思い出せない!?
年齢は25くらい……生年月日は覚えてるし、今年は20××年だから25歳で間違いない。
就職はしてて製造業で働いていた、ような? ちょっとそこは曖昧だが、一応覚えてる。
一般常識も……忘れてたら気づかないだろうが、一応ある程度の知識は思い出せる。
ただ唯一、自分が今まで関わったであろう人の記憶が完全に喪失してる!?
「こんなの夢だったとしてもおかしいだろうが!?」
「ようやくそれに至ってくれましたか。はぁ……」
「おい! 一体俺に何をしたんだ?!」
俺が床でうな垂れてるマルティアに詰め寄ると、死んだ目をしたマルティアが仕方なさそうにこちらを顔を向けてきた。
「ダンジョンマスターに選ばれた人間は2つの処理を受けます。
その1つが記憶の処理。
これはダンジョンを運営していくうえで、その妨げになる人間関係を完全に排除するために行われる処置です」
「こっちの了承も得ずにそんな勝手な事を!?」
倫理観狂ってるんじゃないか!?
「別にいいじゃないですか。どうせ死んでたんですから」
「は?」
今、なんて言った?
「あなた、一度死んでるんですよ。
ダンジョンマスターに選ばれる人間はこの1年で死んだ人間です。
その中から私達サポート妖精が、この人だと思った人物を選んでダンジョンマスターにするんです」
あまりの衝撃発言に頭が真っ白になった。
自分がまさか死んでいたとか言われても実感が湧かないが、言えるのはこいつが言ってる事は嘘ではないだろうということだ。
「……ちなみに死因はなんだったんだ?」
「事故ですよ事故。車で走行中に対向車があなたに突っ込んできたんです。相手は飲酒運転でした」
「まじか……」
「ちなみに相手は奇跡的に生きてます」
「ふざけんな!!」
なんで飲酒運転したクソ野郎が生き残ってて、被害を受けた俺だけ死んでんだよ!
「世の中そんなものですよ。理不尽に満ち溢れるものですし、私も今それを実感してます。
……どうしてどんな願望を持ってるかは、ダンジョンマスターになってからじゃないと分からないんですか。
そりゃ人の心なんて分からないから、ダンジョンマスターにでもなって繋がりを強くしないと無理だというのは分からなくもないですけど、こんなのあんまりですよ神様」
床でメソメソブツブツとマルティアが言い出し始めてるが、理不尽に打ちひしがれてるのはお前もじゃないか。元凶の俺が言う事じゃないから言わないが。
「あ、そう言えば2つ処理されるって言ってたな。もう1つは何だ?」
「……願望の解放です」
「そういえば今ブツブツと願望がどうとか言ってたな。なんだ、願望の解放って?」
俺がそう問うと、マルティアは少しは気力が回復したのか床から起き上がって座ると、こっちにようやく目を向けてきた。
「願望の解放とは、分かりやすく言えば理性を少し取っ払ってるんです。
いきなりダンジョンマスターにされて、『人間を不幸にしろ。なんだったら殺しても全然OK』って言われて、普通そんな事できますか?」
「まあ普通の感性を持ってたら無理だろうな」
見ず知らずの人相手で、自分が直接手を下す訳ではないとしても、他者をいたずらに傷つけるというのは抵抗感があって、やろうとは思えなかっただろう。
「だが今は、まあいいか、ぐらいの気持ちだな。
なるほど。ダンジョンマスターとして人類と敵対することのハードルは確かに下がってるな」
「はい。それが目的なのですが、理性が取り払われる上でどうしても浮かび上がってくるのが、その人が自覚無自覚関係なく抱え込んでいる願望です」
「さっきもそんな事言ってたな。確か【挑戦・賭博願望】だったか?」
「ええ、それがあなたが内に抱えていた願望です。
どうやら生前、特にソシャゲに対して鬱屈した感情を知らず知らずのうちに抱えていたようで、ダンジョンマスターとしてのシステムがそれに類似していたのもあり、[ガチャ]に対する欲求が振り切れてしまったのでしょう。
うぅっ、そんな願望を持ってると分かったら絶対選ばなかったのに……」
マルティアがまたメソメソと泣き出してしまった。
いや、今はこいつの事はどうでもいいか。
それよりもこれからの事だ。
これが夢ではないというのなら、今の状況はかなりマズイということでは?




