第130話 配信(2)
〝ポーション(強)〟や〝ポーション(中)〟を受け取れる人を決めるオーディションは、俺への悪感情を払拭するのに効果的だったようだ。
アイテムを取り出す負荷への疑いを晴らすのが目的ではあったが、ついでに多少でもいいから俺への敵意が少なくなればいいという目論見も当然あった。
結果、コメント欄がお祭り騒ぎだ。
・このダンジョンマスターやっぱ良いやつだ!
・ポーション(強)やポーション(中)まで用意してくれるとか神か!
・オーディションはいつやるんですか?
・良かった……! ポーション(強)が手に入るならまだ間に合う!
・ポーション(中)でいいから、出来るだけ多く用意してくれ!!
コメントが早すぎて一部しか読めないが、俺への悪意がかなり減ったように見えるな。
とりあえずいつオーディションをやるかを答えた方がいいか。
「オーディションについてはいつにするかな? 早い方がいいというのは分かるんだが……」
「な、なにか問題でも?」
詩織が俺を覗き込むように長い前髪の隙間から見てきて、どうしてすぐにでもオーディションをしないのかと、暗に尋ねてきた。
「いや、別に俺はいつやっても構わないんだが、もしオーディションをするなら政府に頼むことになるだろ?
だが、今の政府にそんな余裕あるか?」
「あっ……」
・ないね
・試練の後始末のために休日返上で役所もクッソ忙しそう
・この配信を見てる余裕もないだろうが、もしオーディションやるからヨロ、とか言ったら間違いなくぶち切れ案件
だよな。
「さすがにオーディションをやるのは少なくとも、その辺が落ち着いてからじゃないと無理じゃないか?」
・そんな……
・さすがにそれは仕方が無いか
・¥10000 俺は以前のオーディションで最終選抜に残ったんだ! 必ず後で魔石は渡すから、すぐにポーション(強)をくれないか!
息子はあと一月持てばいいと医者に言われてるくらいなんだ!
・¥5000 以前オーディションで最終選抜に残れなかったんだけど、なんとかポーション(強)を融通してほしい。あれから妻の容態が悪化して余命半年と言われているんだ!
「スパチャありがと、とか言ってる場合じゃないよね。マスターさん、どうするの?」
早急に必要なやつは当然いるわな。
とはいえポーションにも限りはあるし、嘘をついてポーションをせしめようと目論んでるやつもいるだろうから、その判別は難しい。
だから分かる範囲でやるしかないだろ。
「悪いがポーションにも限りはあるし、本当にポーションを必要としているかこちらでは分からんからな。
以前のオーディションで最終選抜に残ったやつはポーションと〝拘誓紙〟があれば全員と契約しても良かったから、そいつらはポーション代を払う契約をするなら今すぐ渡しても構わないが。
あ、それと、ポーションを使うやつが今回の試練を乗り越えて、生きてるか確認できるようにはしてくれ。ビデオ通話とかでな」
・本当か!? 分かった。準備してすぐにそこに向かわせてもらう!
・おい、うちの妻を見捨てるのか!?
・そりゃ全員を救えるわけがないよな……
・ポーションに限りがあるのは分かったけど、具体的にはどれくらいあるの?
「ポーションの数を聞かれてますね。マスター様はどれだけ用意できているのですか?」
夕莉に数を聞かれたが、もちろん馬鹿正直に答える気はない。
〝ポーション(強)〟が2000個あるし、〝宝箱用アイテム〟はどの道人にやるか〝商人の間〟に置いとくしか使い道はないので、全部放出しても構わないとは思ってる。
だが、いざという時に人間と交渉できるカードは残しておきたいから――
「〝ポーション(強)〟が1800個だな。それを薄めて〝ポーション(中)〟にした場合は10800個になるが」
・マジで!?
・エリクサーどんだけ濃縮されてたんだよ……
・少なくとも1800人は救えるってこと!?
・ポーション(強)がポーション(中)を6倍にできるなら、ポーション(弱)をあれだけ用意できたのも納得
200個は残し過ぎか?
いや、日本が海外に交渉する際に交渉の材料として欲しがると考えれば、少なすぎる気もしなくもない。
そう考えていた時、あるコメントが目に入った。
・でもエリクサーを薄めて増やせるなら、オーディションの時にやればよかったのに
「随分勝手な事言ってくれるな」
「ど、どうしたんですか?」
「エリクサーを薄めて増やせるなら、オーディションの時にやれってよ」
俺はわざとらしくため息をつく。
「言っとくが、試練があったから〝エリクサー〟を薄める決断をできただけで、本来ならオリハルコンが欲しかったんだからな?
それにそもそもの話、〝ポーション(強)〟だって中々手に入らないアイテムなんだから、それを易々と用意して渡せるわけないだろ」
・それはそう
・対価なら払うとか言われても、例えるなら1000万円の指輪を必要な数用意するのは容易じゃないって話
・まあダンジョンマスターからしてみればこっちの事情なんて本来関係ないし、ここまでしてくれるだけ十分温情があるよ
「あとついでに言うと、オーディションの時には〝エリクサー〟を薄める装置を持ってなかったから、どの道無理だったし。
試練が起きる直前でその装置が手に入ったから、こうして〝ポーション(強)〟をそれなりの数用意できて、人類に〝ポーション(弱)〟を大量に配布できたんだからな」
・じゃあ人間側にとっても運が良かったんだな
・もしその装置が手に入ってなかったらポーション(弱)はあんな数配られてなかったのか
・え、でも都合のいい事言ってない? そんな直前に装置を手に入れることなんてある?
・いや、嘘とか本当とかどうでもいいだろ。結局はナオト(仮)がポーション(強)を大量に用意できたんだから、それで大勢人が救われるってだけなんだし
まだ俺に対して不信感や敵意のありそうなのもいるが、配信前よりは激減してきたな。




