第128話 わたし達が来た!
カグラとリオンが共同空間に居着いて数日経ったある日の事。
俺の方のダンジョンで動きがあった。
具体的には茉奈達〝オファリング・メイデンズ〟の3人がダンジョンに入ってきたのだ。
いつもの事のようだが、あの【Fランク大暴走】のイベントが終わった後は誰もダンジョンに来ず、1週間ほど経ってようやくダンジョンに入ってきたのがこの3人だった。
「さすがに死人や怪我人が出たせいか、ダンジョンに入るのは自粛する空気になってたんだろうな。
政府の役人すら来ないあたり、相当警戒されてるのかねえ?」
もしくは復興で大忙しなのか。散々周囲の物を壊しまくったし、ダンジョンに入る余裕なんてとてもじゃないがないだろう。
少しだけ緊張した様子でダンジョンの奥へと向かう3人を、マルティアと共にホログラムウィンドウで眺めていた。
「そんな状況でよくこの3人はダンジョンに入ってきましたね。いくら〝拘誓紙〟で契約を結んでいるとはいえ、あの契約ではダンジョンに入る義務はないというのに」
「無理せずに出来る範囲で他のダンジョンから魔石を持ってくるよう、命令しただけだからな」
あんなイベントがあった直後に他のダンジョンに潜るのは、周囲の空気もあって無理だろう。
むしろまだそんな空気だろうに、たった1週間で俺のダンジョンに入ってきたのだから、よく来れたなと思うレベルだ。
「それじゃあ行ってくるわ」
「ヴェッセルナイトでわざわざ会いに行くんですか?」
「ああ。あいつらがこのタイミングでダンジョンに入ってきたのも、俺に何か聞きたいことでもあるのかもしれんし。
それにダンジョンの外、人間側ではどうなってるのか情報が欲しいしな」
「なるほど。6階層からですが気を付けてくださいね」
「あいよ。まあ俺自身が行くわけじゃないが、ヴェッセルナイトが1体しかない以上、壊れたらシャレにならないからな」
俺のダンジョンは10階層であり、ダンジョンコアも当然最下層にあるので、本来であればヴェッセルナイトでダンジョンをうろつく場合はそこからになる。
だが、10階層から1階層までの移動はとてつもなく大変であり、ワープ機能がないため物凄く時間がかかるのだ。
深い階層ほど最低限必要な部屋数が増えるのだから余計に。
そこで俺は6階層の〝幻影迷宮〟、しかも〝隠し部屋〟の中にしまっておくことで短距離での移動ができるようにしたのだ。
〝隠し部屋〟は1階層にある〝隠し扉〟と違い隠蔽性が高く、その上〝幻影迷宮〟の魔物や炎の壁などの幻を見せたりすることができるフィールドの効果で、完全にただの壁にしか見えなくしているので、この部屋が見つかることはまずないだろう。
そもそも人間達は未だ4階層までしか来た事がないので、〝隠し部屋〟に置いておかずにそのままにしておいたところで、盗られる心配も壊される心配もないのだが。
「さて、行くか」
俺はヴェッセルナイトに意識を移した後、〝隠し部屋〟から出て3階層へと向かう。
茉奈達の移動ペースと、俺の移動ペースを考えればその辺りで合流できるだろう。
「あ、マスターさん!」
俺の予想は正しく、茉奈達とは3階層の〝草原〟フィールドで合流できた。
もっとも、俺に気づいた茉奈がすぐに声を上げたが、茉奈を含めた3人が若干警戒しているようにこちらを見ていたが。
そりゃそうだよな。
ダンジョンから魔物が大量に出てきて人を襲ったのだから、ダンジョンマスターがついに人間に対して攻撃的な行動に出始めたのかと疑ってもおかしくはない。
一応人間側にも神託のようなものはあったそうなので、神が仕掛けたことだと認識していればそこまで疑われていないと思うが。
「安心しろ。別に敵対する気はないから」
「そ、そうですよね! ゴメンなさい警戒しちゃって」
「別に怒ってもなければ不快にも思ってないから気にするな。そっちがそういう態度になるのは理解できるしな」
安心しろと命令したのが良かったのか、〝拘誓紙〟の契約が精神面に効いて、3人はすぐに落ち着いた様子を見せていた。
あんな雑な契約ではあったが、【ナオト(仮)の命令には可能な限り従うこと】という一文は割と効果的なようだな。
というか、この一文が無くて精神面に影響を及ぼせないと、契約しても俺に会わないようにすれば契約無視できてしまうので、よっぽど義理堅い人間でなければポーションの渡し損になるだけだ。
こいつらは『無理せずに出来る範囲で他のダンジョンから魔石を持ってくること』という命令のせいか、それが精神に作用してちゃんと定期的に俺のダンジョンに来てくれるが、次に契約するやつは最初の命令で『よほどの事がない限り定期的に俺に会いに来ること』と言って逃げられないようにした方がいいかもしれん。
今回みたいなイベントがあったら、こんな緩い命令だとダンジョンに二度と立ち入らなくなるやつも出そうだからな。
「そう言っていただけるのはありがたいですわ。ハッキリ言って、世論ではダンジョン――いえ、ダンジョンマスターは危険な存在だと何度も言われているせいで、それが頭に刷り込まれてしまいましたから」
人間側では今どうなってるか聞きたかったがために3人に会いに来たが、意図せず出てきたな。
そうそう。そういう情報がほし――……やっぱりそうなるかぁ~。
思った通りの展開に俺は心の中でため息を吐いた。




