第120話 隷属者
今回のイベントの特典。
下位50位が上位50位に隷属するというものだが、それには少し思うところがあった。
「隷属、ね」
「絶対服従の部下ができるのに嫌なんですか?」
「気分は良くないな」
他人を隷属させる趣味は俺には無い。
というか、普通の感性を持ってたら嫌だと思うものじゃないだろうか?
「まあ、マルティアの言う通り、部下ができたと思えばいいか」
「隷属とは言いますけど、どう扱うかは主次第なんですから、マスターが思うようにすればいいと思いますよ」
だが、部下とか言われても困るんだがな。
そもそもの話、俺にリーダーシップがあるとは思えないから、かなり適当になると思う。
「配下が以前ダンジョンバトルで戦ったアル中みたいな奴だったら、完全に放置するか」
「もったいなくないですか? 丁度URの〝ギルド創設〟が手に入ったのですから、どうせなら相手のポイントを全部吸い上げて、魔物も取り上げてしまいましょうよ」
「俺より無慈悲で草」
〈慈悲ポイント未実装〉の[称号]を持ってる俺より酷いぞ。
変な奴でなければいいと思いながら、俺に隷属されることになった相手を呼び出すことにする。
どうやらイベントの順位で勝手に決まるらしく、俺に隷属することになったのは下から14番目、つまりワースト50位の中でも順位が上のやつから順に振り分けられたようだ。
交流プラットフォームの通話機能より、俺の隷属者になったリオン(仮)という人物に連絡した。
――ブンッ
通話ボタンを押した瞬間、展開しているホログラムのウィンドウに着替え中の少女の姿が映し出された。
――ブツッ
「……なんで?」
「どうして切ったんですか?」
「向こうがまだ通話できる状態じゃなかったからだ。というか、どうして着替えをしている最中に通話が繋がったんだよ」
「何言ってるんですか。通話したら即つながりますよ。隷属している側に拒否権があるとでも?」
ごもっともだ。
通話を無視できるなら、命令を聞けなくなるから従うも何もないからな。
「とりあえず、メッセージを送っとくか」
そちらの準備が出来次第通話してくるようにメッセージを送った。
するとしばらくして向こうから連絡がかかってきた。
『先ほどは配慮していただき感謝する』
無駄に渋いオッサンの声だった。
スライムを抱えた少女の絵面からは考えられない声音が聞こえてきた。
頭、バグりそう。
え、どういう事?
「お前がリオンか?」
『そうだ。この子がリオンだ。そして余はカルヴァノスⅢ世』
少女の腕に抱えられているスライムがプルプル震え、まるでこちらと会話しているよう――というより、会話してるのがこいつなのか。
と言う事は、少女がダンジョンマスターで、さっきから喋ってるスライム、カルヴァノスⅢ世は……なんだ?
「ちなみに聞くがカルヴァノスⅢ世は、スライムでいいのか?」
『間違ってはいないが、正確にはサポート妖精だから魔物ではないぞ』
どうやらこの無駄にカッコいい名前のスライムは、ユニーク個体とかそういうのではなかったようだ。
紛らわしいな。
「ところで、なんでさっきからカルヴァノスⅢ世が……長いからカルヴァでいいか?」
『構わぬ』
「カルヴァがさっきから何で喋って、マスターはだんまりなんだ?」
『すまぬ。この子は人とあまり喋るのが得意ではないのだ』
そんな性格でよくダンジョンマスターが務まるな。
いや、上手くいかなかったから、今回のイベントで俺に隷属することになったんだが。
………。
「なぁ」
『どうした?』
「リオンの年っていくつだ?」
『11歳だがそれがどうかしたか?』
………。
さすがにコンプラ違反では!?
この前茉奈達と契約したが、その最年少の茉奈は中二で14歳だった。
彼女達自身が望んだことではあり丁重に扱ってはいるが、契約内容はアレな内容なので、正直それでもギリギリなラインだろう。
だがこの目の前の少女は11歳で、小学生くらいの子ということになる上に、このイベントで無理やり隷属させられたのだから、対外的には完全アウトだ。
ダンジョンマスターじゃなかったら、一発でお縄だったな。
……あまり考えないようにしよう。
裏切れない仲間が出来たと考える方が丸い。
「年齢はともかく、今後お前達は俺の指揮下に入るということでいいか?」
『いいも何も、余らに拒否権はない。だが、できればこの子に非道な事はさせないでくれないだろうか?』
「別に無理やりさせる気はないぞ。成り行きではあるが隷属関係になったが、俺は人に無理やり言う事を聞かせる趣味はない」
『心より感謝するナオト殿』
「ん? 俺名前言ったか?」
『自分達が隷属する者の名前は通達されているのでな』
「なるほど」
誰に隷属することになったのかの通達はあったんだな。
「さて、仲間になったことだし、試しに追加した〝ギルド創設〟システムでも使ってみることにするか」
『なんなのだそれは?』
「マルティアも知らなかったが、やっぱりサポート妖精でも知らないものか」
俺は〝ギルド創設〟システムについて説明すると、カルヴァはそれに頷いた。
『悪くないシステムだな。どの道余らはナオト殿に隷属している上に、残機が無いから、いざという時の保険ができるのはありがたい』
「残機が無い? じゃあ前のイベントはどうだったんだ?」
ダンジョンバトルで他のダンジョンマスターに負けて隷属していたのだろうか?
『前のイベントでは偶々勝って、相手のダンジョンマスターを隷属化したんだ。
この子がスライムしか召喚しないから、相手のダンジョンコアを破壊できそうになくて、なんとかバトルが始まる前に交渉して、相手のコアに先に触れた方が勝ちというルールを組み込めたから勝てたな』
「よくその条件を相手が呑んだな」
『この子を見て格下だと思ったのと、触れようと壊そうと大して変わらないと思ったのだろう。
相手の条件すら呑んで勝つのが王道、とか宣っていた』
「アホだなそいつ」
『そしてそのルールでダンジョンバトルを行った結果、隠れ潜んだスライムがこっそり相手のダンジョンコアに触れて勝ったのだ』
「なるほどね。ちなみにその隷属した奴はどうなったんだ?」
『このイベントで下位50位になり君に隷属したせいか、強制的に隷属は解かれてしまったな』
隷属してる者が別の者を隷属するのは無理なわけか。
「ちなみになんで相手のコアを破壊して残機を得る方を選択しなかったんだ?」
『そんな相手の命を奪う選択を、この子ができるとでも?』
まあ出来そうにないわな。
「大体分かった。それじゃあまずはダンジョンコア連結でもしてみるか」
いざという時のお互いの保険になるしな。
初めて会ったばかりのはずのダンジョンマスターに、ダンジョンコア連結を試すとか普通ならしないんだろうが、隷属している奴なら逆らえないんだから問題ないだろ。
メリットとデメリットを比べた時、生存率を上げられるというメリットの方に傾くのは当然だ。
情報漏洩の危険もあるし、今回のイベントのように隷属が外れてしまう可能性もあるが、こちらが見せる情報は必要最小限にすればいいしな。
そうして試した結果、思ってもみない事が起こった。




